初対面の人から根暗と思われがちな私だが、飲み会などで知り合った女性と話が盛り上がり、連絡先を交換するチャンスがたまにある。
その後「楽しかったです! また飲みましょう!」などと連絡してみると「ありがとうございました。私も楽しかったです!」という素敵なメッセージに、にっこりとした絵文字まで付け加えて返信してもらえたりする。しかしそこで安易に喜んではならない。その後具体的な日程を出して飲みに誘うと、大抵は連絡が返って来なくなるからだ。もう一度私と飲みに行くのがそんなに嫌なのか。返信を待ちながら、あれ、今忙しいのかな、もう寝ちゃったのかな、などとソワソワしていた過去の自分が悲しい。
たまに女性のスマホがチラッと見えた時、LINEのアイコンバッジ(アイコン右上の赤い丸)の数字に目がいく。そこには大抵数十、場合によっては数百もの未読メッセージの件数が記されている。私がいつか送った飲みの誘いも、赤丸の数字を1つ増やしただけでそのうち未読のままブロック・非表示にされ消えていったと思うと感慨深い。なぜそこまで未読メッセージを溜め込むことができるのか。私は携帯をなくした時と、グループLINEが自分以外で勝手に盛り上がっていた時以外、未読件数が2桁に達したことはない。未読件数が溜まらないのは、私に限ったことではない。男友達のLINEアイコンがチラ見えした場合、未読件数は多くても4、5件がいいところだった。つまり、平均的に男性よりも女性の方が送られて来るLINEの数が多いのだろう。何割かの女性は、日頃から私の数十倍の量のLINEを受け取っていることが察せられる。ちょっと知り合っただけの女性にLINEを送りまくる男が世の中に溢れているからだ。
以前知人の女性からこんな話を聞いた。街コン的なイベントで連絡先を交換した5~6人の男(おそらく知人女性の興味の対象から外れている)から届いた「また飲もうね^^」「俺のこと覚えてる?笑」などのメッセージに対して、返信をするどころか既読にもせず全員をブロックしたと。そういう有象無象のザコ的扱いを何度も受け、ちょっと期待しては裏切られてのルーティンを経てきた身としては心が痛む。どうせ返信しないと分かっているのに、なんで連絡先を交換するのか疑問に思う。LINEのQRコードを嬉しそうに表示する男の顔を見て、何を感じていたのだろうか。連絡先を交換しなければ、こっちだって無駄な期待をせずに済んだのに。
しかしそこで思い出す。過去に出会った、頼んでもLINEすら交換してくれなかった数々の女性たちのことを。彼女たちが「すいません、LINEやってないんですよ〜」と言う時の、ちょっと面白いことを言っているような雰囲気に憤りを感じた。別に嫌なら嫌でいいから普通に断ってくれよと思った。でもかと言って、「興味ない人とは連絡先交換したくありません」と率直に言われたらそれはそれで傷ついてしまうのではないか。改めて考えみると、どうでもいい奴から持ちかけられた連絡先交換を断るのは意外と難しい。意外にも、従来の「一旦連絡先を交換しておいて後で断る作戦」より良い案は特に思い浮かばなかった。
じゃあ無意味に連絡先を交換するのはまあ良いとして、こちらの「また飲みましょう!」という挨拶に一度は「いきましょう〜!」と乗り気な顔を見せたくせに、その後具体的な日取りを組もうとしたら途端に返事を返さなくなるのは何なのか。
そこでまた思い出した。いつか自分のバンドのライブ後に、よく知らないバンドの人が褒めてくれた際、返す言葉に困って「またそのうち対バンしたいですね!」と別に思ってもいないことを口にしてしまった経験を。好意を持って接してくれている人には、社交辞令だとしてもいい顔をしておきたい。しかしその後「いつにします?」などと追及されれば、途端に面倒になってしまうのが人の性である。ならば「いきましょう〜!」とかりそめの優しさを発揮してくれた女性のことも強く責めることはできない。その後のやりとりでも一旦は優しい顔を見せた上でいきなり連絡を返さなくなる女性の思考回路が今までずっと解せなかった。しかし女性の目線に立って考えてみれば、ベストの対応ではないと分かっていても流れ上そうなってしまう理由が徐々に分かってきた。
原理が分かったところでシカトされるダメージはなくならない。私の連絡をシカトした女性も、優先順位が高い相手には連絡を返しているはず。ザコ扱いから逃れ「この人には返信したい」と思われる男にならない限り根本的な解決にはならないのだ。
返信される男になるための一歩として、昨日は近所の整体院に行って来た。約1時間の施術でかなり姿勢が良くなり、体の柔軟性もアップした気がしている。こうして日々前向きな行動を取って行くことが大切だ。こちらの準備はもう整った。早くLINEを返してほしい。
吉田靖直 よしだ やすなお
1987年4月9日生まれ。香川県出身。バンド「トリプルファイヤー」ボーカル。音楽活動の他、映画やドラマ、舞台、大喜利イベント等にも出演。コラム執筆も。
トリプルファイヤー公式ウェブサイト:https://triplefirefirefire.tumblr.com/
『散歩の達人』https://san-tatsu.jp/magazine/triple_fire/
『クイック・ジャパン ウェブ』https://qjweb.jp/contributor/19262/