トリプルファイヤー吉田靖直コラム「その人は本当にモテているのか」vol.2

こんな軽薄なことを言うとCLA

こんな軽薄なことを言うとCLASSY.読者からは嫌われてしまうのかもしれませんが、まあまあいい歳になってもまだ、私はモテたいという願望が心から抜け切っていません。

モテる方法を以前にネットや本で学んだところ、「モテている人がモテる」という恋愛の法則がわかりました。モテている人は、すでに魅力が保証されていることによって、より一層魅力的に見えるという人間の心理があるようです。これは恋愛に限った話ではなく、例えば就活の面接の際にはすでに内定を取っている学生のほうが人事の目からは優秀に見えやすいといいます。昔「上半期ベストコスメランキング第1位!マジハマリコスメランキング第1位!私のロングセラーコスメ第1位!」と連呼するCMがあったように、それがよく分からないランキングだとしても誰かが評価しているのならいいものなのだろうと人は思ってしまいやすいものなのでしょう。恋人ができたら急にモテるようになったというよくある話もこの理論で説明できます。「実際にはモテていなかったとしても構わない」「モテているように見せることさえできれば、あとからモテるようになる」「一度モテ始めればさらにモテるようになり、そのループはどんどん大きくなっていく」と、本には書いてありました。

SNSを使った自己演出も容易になった現在、モテているように見せるための最も手軽かつ有効な方法は、インスタやTwitterでモテているアピールをすることです。実際、その理論を認識してかどうかは知りませんが、いろんな女の子と飲んでいる写真をやたらインスタにアップしたり、女性関係が幅広いことを匂わせるような文言をTwitterにアップする奴はよくいて、私の価値観からするとあまりモテそうには思えない人たちだとしても、悔しいことにどうやら本当にモテているようです。

どこからどう見ても欲にまみれた、いかにもなアカウントばかりではなく、一見文化的なことや学問的な投稿をしているように見える人気アカウントの中にも、モテているアピールの効果を狙った投稿が隠されていることはあります。さまざまなアカウントをチェックし続けた結果嗅覚が鍛えられ、今ではモテようとしている雰囲気が漂っているアカウントは時間をかけずともすぐ見分けられます。センサーに引っかかったアカウントをたまに見にいっては、こいつまたモテようとしてやがる、と苦々しい思いを募らせています。

そんな暗い無益な行動で勝手にストレスを溜めているくらいだったら、お前も彼らのようにSNSでモテているアピールをすればよいではないか。そう思われる方もいらっしゃるかと思いますが、私はそんなことはしません。なぜなら、こいつモテようとしてんのかな、と人から思われるのが恥ずかしいからです。また、私は学生時代、小ずるいテクニックで女にモテようなどとは全く考えていない無骨なアーティストに憧れていたはずで、女性と飲みに行っているのをやたらアップする行為はこれまで頼りにして来た己の美学に反します。

しかし私が何もできないまま状況を傍観している間に、富めるものがさらに富み、貧するものはさらに貧していく。そんな世界でいいのでしょうか。いや、私はそんな浅はかな自己プロデュースに騙されない、自分の目で対象をしっかり判断している、と自負する聡明な読者もいるでしょう。しかし自分でそう思ってはいてもやはり元々備わった人間の心理から逃れることは簡単ではないようで、私が「あの人は聡明だ」と認識している女性でも、私の見る限り完全に先述のトラップの効果によって「あの人モテてるしカッコいいよね」と素朴に言っているところを何度か目にしました。「モテている人がモテる」という理論はそれほどまでに強力なものなのです。こんな目線の低い文章を衆目に晒すことによって、私自身がどんどんモテから遠ざかっていることは知っています。しかしもうこうなったら、私がモテようようがモテまいが関係ありません。SNSのモテテクを使えない私にできることは、そのテクをより多くの女性にお伝えすることによって可視化してもらうこと。女の子と飲んでいる写真を上げている男を見ても、単純にこの人はモテているんだなどとは決して思わず、「ああ、この人いまテク使ってるんだ、ウケる」と認識していただきたい。そうすれば逆説的にテクを使っていない人の堂々としたかっこよさが見えてくるのではないか。例えそうはならなかったとしても、SNSでモテているアピールをしている男はなんだか気に食わないのでせめてテクの効力を無効化したい、というのが今回の目的となりますのでご協力よろしくお願いします。


吉田靖直 よしだ やすなお
1987年4月9日生まれ。香川県出身。バンド「トリプルファイヤー」ボーカル。音楽活動の他、映画やドラマ、舞台、大喜利イベント等にも出演。コラム執筆も。
トリプルファイヤー公式ウェブサイト:https://triplefirefirefire.tumblr.com/
『散歩の達人』:https://san-tatsu.jp/magazine/triple_fire/
『クイック・ジャパン ウェブ』:https://qjweb.jp/contributor/19262/

イラスト/谷端 実

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