初心者でも必ず楽しめる【宝塚】クセになる魅力のショー3選|ヅカオタ編集Mがアツく語る④

「空前のミュージカルブーム」と言われている昨今。その中でも特に熱いファンが多い『宝塚歌劇』について、「聞いたことはあるけどよく知らない…」という読者の方へ、ヅカファン歴20年の編集Mがその魅力を好き勝手にご紹介します。

宝塚でしか観られない世界観に浸れるおすすめのショー3選

今回は、宝塚に欠かせない存在の「レビュー(=ショー)」について、おすすめのショー作品をピックアップしていきたいと思います。宝塚の公演は「お芝居一本もの」と「お芝居+ショーの二本立て」の2パターンがあり、このショーは洋物のレビューであったり、日本物だったりします。

①藤井大介先生の作品

初っ端から演出家推し。ですがヅカファンならば誰もが一度は通るのが「演出家・藤井大介先生のショー」です。宝塚にお抱えの演出家がいるのは第一回目でも触れたのですが、藤井先生もその一人。そして今となっては珍しくなった「ほぼショー専任の演出家」です(過去にはお芝居の作品もつくっています)。初めて宝塚を観る方はぜひ藤井先生のショーとセットになっている公演を選んだほうがいい、と思うほど、初心者にはぴったりのショー作品が満載です。

個人的に過去の作品でおすすめなのは以下の3つ。
『EXCITER!!(エキサイター)』…刺激、熱狂、興奮をもたらす者=“EXCITER”がテーマ。人気作品で何度も再演されていますが、どれも花組なのがミソ。これぞ花組!花男!!!という感じです(花男が何かは第2回目の記事参照)。とりあえず主題歌が神。
『CONGA!!(コンガ)』…こちらも花組で2012年に上演された、ラテン系のショー(いつもより褐色系の肌色でメークをします)。当時のトップスター蘭寿とむさんが本当に日本人か?と思うくらいオラオラしていてカッコいい。
『NICE GUY!! -その男、Yによる法則-』…2011年宙(そら)組で初演。Yは当時のトップスター大空祐飛さんの頭文字より。2019年には同じく宙組で、現在のトップスター真風涼帆さんにより再演されました(このときのサブタイトルは-その男、Sによる法則-)。スタイリッシュな長身の宙男たちがスーツを着て踊るプロローグが至高です。

ほかにも宝塚100周年を記念した『TAKARAZUKA 花詩集100!!』(2014年月組)、ワインをテーマにした花組ショー『Santé!! 〜最高級ワインをあなたに〜』(2017年花組)、猫×ラテンという偉業を成し遂げた『Gato Bonito!! 〜ガート・ボニート、美しい猫のような男〜』(2018年雪組)など、観たら思わず拝みたくなるような、華やかで美しくアドレナリン大放出のショーがたくさん。過去作品をDVDなどでチェックしてみるだけでも楽しいのでおすすめです。

②上田久美子先生の『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』

編集Mが上田先生推しというのは何度も触れてきたのですが、ここでもしつこく語ります。お芝居が素晴らしい上田先生ですが、唯一つくったショーがあり、それがこの『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』(2018年月組)。上田先生が演出したショーはこの一作だけなのに、既成概念を取っ払った演出の連続で話題となりました。

①物語仕立てのショー…さすがは芝居演出家の先生によるショー、という感じで、BADDYには最初から最後まで一貫したストーリーがあります。舞台はあらゆる「悪」が根絶されたピースフルプラネット・地球。そこに月から放浪の大悪党バッディ(=男役トップスター珠城りょうさん)が乗り込んできます。クールでホットなバッディとその仲間たちを、女捜査官グッディ(=娘役トップスター愛希れいかさん)がつかまえようとする…というのがあらすじ。物語仕立てのショーは過去作品にもあるのですが、上田先生らしい強いメッセージ性が至る所にちりばめられていて、ただ華やかさを堪能するだけで終わらないのがポイントです。

②怒りのロケット…男役から娘役まで、下級生中心の選抜メンバーが横一列にずらりと並んで踊るラインダンスは、宝塚のショーを代表する場面。通称「ロケット」と言われています。芝居仕立てのショーであってもいつもはここだけ独立した、ハッピーな世界観で描かれることが多いのですが、上田先生の手にかかるとそれが一転して「怒り」がテーマに。ラインダンスは全員が同じ高さ、同じタイミングで足を上げる振りをし、それを連続で観られるのが醍醐味です。楽しい曲だとフランスのカンカンのような、キュートでコケティッシュな振りなのですが、怒りをテーマにするとまるで蹴り上げられているようにも見えます。なぜ「怒り」なのかは物語を追っていくとわかるのですが、それが現代社会を生きる女性の咆哮にも見え、不愉快になるどころか一種の感動すら覚える場面となっていたのが、上田先生が天才と呼ばれる所以のひとつかもしれません。

③パレードでのどんでん返し…パレードはショーの最後に出演者全員が宝塚の名物・大階段(おおかいだん)を降り、客席に挨拶するフィナーレのこと。スターになるほど大きい羽根を背負い、舞台の上から下まである巨大な階段を颯爽と降りる姿は圧巻です。ここはもう本当に最後の場面なので、役というよりはジェンヌさん本人が歌って降りてくる、という感じの演出が基本なのですが、そうならないのが上田先生。特にバッディが降りてきてから曲が転調し、そこから駆け抜けるように銀橋(オーケストラボックスと客席の間につくられた、通路のような舞台のこと)での歌、本ステージに戻って幕…という怒涛の展開が衝撃です。

以上が編集M的おすすめポイント。文字だけでは世界観が伝わらないと思うので、ぜひ一度映像をご覧ください!

③齋藤吉正先生のショー

もうお気づきかもしれませんが、ショーは演出家が誰か、によって楽しみ方ががらりと変わります。王道で華やかな藤井先生、鬼才・上田先生…ときて、三人目の推し演出家は誰か。正直言ってかなり好みが分かれると思います。さらにクラシカルな世界へいくか、J-POPも取り入れるイマドキ系へいくか、一周まわって日本物へいくか…。というわけでここからは特に編集Mの個人的意見として、「秘密の花園・宝塚の世界に突然オタクの文化を持ち込んだ」齋藤先生のショーを紹介したいと思います。

齋藤先生のショーを観るたび最初に感じるのが、「なんか…思ってたのと違う」。ですがそれが「ナシ」ではなく、「これは…アリだな!?」と目からウロコの気持ちにさせてくれる、その意外性が最大の魅力です。たとえアニメを見たことなさそうなトップスターさんが突然アニソンを意気揚々と歌おうと、許せてしまう。なんならハマってしまう。それが齋藤先生のショーです。編集Mが特に好きなのは以下の3つ。

『Killer Rouge(キラールージュ)』(2018年星組)…初心者には刺激が強すぎるかもしれない齋藤先生のショーですが、こちらは日本だけでなく、台湾で行われた海外公演の作品でもあるので、比較的万人ウケする作品だと思います。“Killer”とは、「素晴らしい」や「格好良い」「魅了する人」等を意味し、“Rouge(紅色)”をテーマカラーにした、当時の男役トップスター・紅ゆずるさんのために書き下ろされたショーです。終始賑やかな楽曲と早い場面展開、どこもかしこも紅色、という派手派手な演出ですが、飽きることも胃もたれすることもなく、なんなら途中で挟まれる紅さんと当時二番手だった礼真琴さん(現トップスター)の男役同士のデュエットに目頭が熱くなったりしながら楽しめる、エンタメの真髄のような演目です。

『BLUE・MOON・BLUE -月明かりの赤い花-』(2000年月組)…ヅカファンに激震が走った齋藤先生のデビュー作品。女優として活躍している檀れいさんが当時娘役トップスターだったのですが、幕開きと同時に真っ赤な花のモチーフ衣裳に身をつつんだ檀さんが、赤いスポットライトを浴びて、ひたすらゆらゆら揺れている、という衝撃のプロローグは忘れられません。「美しいことは才能なのだ」と気づいた瞬間でもありました。瀕死のゲリラ戦士(=男役トップスター真琴つばささん)が夜の砂漠で赤い花と出合い、次々と幻を見る…という設定なのですが、当時まだ学生だった編集Mは、このショーのおかげで重篤な、いわゆる中二病を発症させました。ちなみに現雪組トップスターの望海風斗さんや、昨年退団した元花組トップスターの明日海りおさんもこの作品のファンだったそうで、編集Mはひっそり親近感を抱いています。当時の二番手、紫吹淳さんファンだった友人が、「りかさん(紫吹さんの愛称)が一回も普通の髪型で出てこないの…」とつぶやいていたのも懐かしい思い出です(紫吹さんは砂漠の蛇の役でした)。

『La Esmeralda(ラ エスメラルダ)』(2015年 雪組)…上田先生の泣けるお芝居とセットで上演され、世界観が違いすぎて観客の脳内が大パニックになったことで有名なラテン系ショー作品です。いちばん客席がザワついたのはステージセット。なぜかカタカナで「ラ(改行)エスメラルダ」と書かれた電飾が舞台の真ん中にどんと現れ、「え、アルファベットじゃないの??」とヅカオタの頭にはてなマークが浮かびました。ここでもやはり「なんか思ってたのと違う」が発揮されたのですが、かといって「ナシではない」。ショーはラテン系でこれまた齋藤先生らしい怒涛の賑やかさ。前方の席で観た友人は「誰かが銀橋に出るたび刺激が強くて、思わず悲鳴をあげた」と話していました(観劇中の私語は御法度です)。悲しい気持ちを一掃してくれる、元気をもらえる作品です。

ほかにもアニソン×トップスターの不思議な世界観が堪能できる『Misty Station -霧の終着駅-』(2012年月組)『TAKARAZUKA ∞ 夢眩』(2014年花組)のほか、齋藤先生はお芝居でも独自の世界観を見せてくれます。奇抜な中にも宝塚への愛をちゃんと感じるので、この先もいい意味で裏切ってくれる作品を期待しています。

以上、ヅカオタ編集Mによる、初心者におすすめのショー演出家3選でした。コロナの影響でしばらく公演が中止になっていましたが、7月から再開されることがとうとう発表され、ヅカオタたちが歓喜の渦で包まれました。チケットの取り方や公演日程は、ぜひ宝塚歌劇団公式サイトをチェックしてみてくださいね。

そもそも宝塚歌劇団とは?

花、月、雪、星、宙(そら)組と、専科から成る女性だけによる歌劇団。男性役を演じる「男役」と女性役を演じる「娘役」がおり、各組のトップスターが毎公演の主役を務める。兵庫県宝塚市と千代田区有楽町にそれぞれ劇場があるほか、小劇場や地方都市の劇場でも年に数回公演をおこなう。※2020年5月現在は公演を中止しています。
公式サイト:https://kageki.hankyu.co.jp/
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