山口紗弥加さん(44)「デビューから30年…20代は暗黒期でした」

現在放送中のテレ東ドラマ「私の

現在放送中のテレ東ドラマ「私の死体を探してください。」に出演している山口紗弥加さん。14歳でデビューし、30年以上のキャリアを持つ山口さんは、まさに働く女性の大先輩。ドラマで演じるベストセラー作家の森林麻美の魅力や作品の見どころに加えて、CLASSY.世代の頃の苦労話、転機になった出来事までお話を伺いました。

Profile

1980生まれ。福岡県出身。14歳でデビュー後、バラエティ番組やドラマ、映画、舞台と多岐に渡って活躍。近年の主な出演作は、ドラマ「ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と」(TBS系)、「柚木さんちの四兄弟。」(NHK)、映画「劇場版ラジエーションハウス」、「わたしの幸せな結婚」など。現在放送中のテレビ東京ドラマ「私の死体を探してください。」(毎週火曜24:30〜)では、自身のブログで自殺をほのめかし、消息不明になるミステリー作家・森林麻美を演じる。

原作は数時間で一気読み。読後は言葉というものが恐ろしくなった

――現在、ドラマ「私の死体を探

――現在、ドラマ「私の死体を探してください。」に出演されています。原作や台本を読まれた感想を教えてください。

原作は好奇心に煽られて、数時間で一気読みしました。ある事実に対し、それぞれの登場人物によって角度の違う解釈がなされて、いくつもの“主観に基づいた事実”に翻弄されていく中で、善悪の区別、生死、被害者と加害者の境界がどんどん曖昧になっていく怖さがあって…人間という生き物が恐ろしくなりました。私が今まで理解したつもりでいた何もかもが、視点一つで覆され白が黒になってしまうような、倫理が崩壊するような感覚で。軽く混乱するほどの衝撃でした。

読後は、得体の知れない罪悪感に襲われて、過去の発言を少しずつ遡って紐解いている自分がいて。「あのとき、あの人に言った一言がもしかしたら…」みたいな。言葉というものが急に怖くなりましたし、些細な一言を思わず後悔させるような強い力を、この作品から感じました。

――ミステリー作家・森林麻美を演じる上で意識したことはありますか?

麻美は自分の感情がよく分からないだけで、無感情な人ではないので、そこに難しさは感じました。彼女自身の中に沸き起こる“何か”に付ける名前が見つからないから、その正体を掴もうと、他人が書いた小説を読み漁り、周囲の人間を観察・分析して答え合わせするように、自分の中に存在しうる感情を必死小説に落とし込む…その作業を永遠に繰り返しながら、感情というものを懸命に学習していたのかな、と想像します。

演じる上では、感情が表出しないようにできるだけ表現を削ぎ落とし、無感情ではないという点では声のトーンや温度、間合いなどにも気を配りました。麻美はずっと心に重たいものを背負ってきた人なので、その重さを忘れずに、彼女の目的を見失わないことも常に意識していました。

――撮影や共演者の方とのやり取りで印象に残っているエピソードを教えてください。

とにかく、伊藤(淳史)さん演じる麻美の夫・正隆がクズ男で。なのに、演じる本人は人間力が高いから、その狭間で葛藤しているようにも見える正隆が、たまに愛らしく思える瞬間があったりして…耐えられなくてつい笑ってしまうんです(笑)。伊藤さんご自身も「子どもが見たときにどう思うんだろう?」ってお話しされていて。伊藤さんだからこその人間味溢れる繊細なクズっぷりは、1番の見どころでもあります。

それから今回、大好きなかたせ梨乃さんとご一緒できて、本当に夢のようでした。根掘り葉掘り、それはもう色々とお聞きしてしまって。「今朝は、何をお召し上がりになりましたか?」とか「スーパーでお買い物されますか?」とか。ご迷惑かと思いつつも、いちファンとしてプライベートに“触れたい”と思う欲望に勝てず、気づけば質問攻めに…。撮影現場ではファン心を出してはいけないと気をつけていたのですが、一旦現場を離れると「好き」を止めることはできなかった(笑)。10年ぶりにご一緒する伊藤さんをはじめ、嬉しい再会も多くあり、すべてが私にとっては喜びで、「楽しい」の一言に尽きる現場でした。

20代のとき、一度仕事を辞める決心をしていたんです

――14歳でデビューし、長くキ

――14歳でデビューし、長くキャリアを重ねられていますが、20〜30代を振り返って、大変だったことや苦労したことは、どんなことですか?

デビュー当初は、“アイドル(女優)”的なカテゴリーに分類されていたのかな、と思います。私自身は役者に憧れを抱いていたのですが、仕事を重ねるほど、バラエティの方向に進んでいった時期があって。17歳から20代前半くらいまでかな。その時期がいちばんしんどかったですね。“やりたいこと”と“やれること”の間で葛藤して、ディレクターの要求に傷ついて。何もできず、ただ笑ってるだけのつまらない自分にも怒りを覚えたし、嘘ばかりの大人たちにも失望した。誰かに助けてほしいのに、誰にも相談できずに体調を崩してしまって。仕事を引き受けておきながら失礼な話ですが、生きている心地がしなかった。「これは本来の私じゃない」と感じていたし、「私がやりたいのはこれじゃない」という気持ちも強くなり、この仕事を辞める決心をしたんです。

ところが、最後の仕事として出演した舞台でお芝居の面白さに気づいてしまった。やり直しがきかない一発本番の舞台上のやりとりやお客さんを巻き込んで作り上げていく空間の熱量に衝撃を受けて、「辞めたくない」と思ったんです。不思議なことってあるもので、この舞台の稽古が始まる直前、デビュー前に出会っていた現事務所の社長と10年ぶりに再会してるんですよ。高熱を出して診察を待っていた、自宅近くにある“町の病院”の待合室での出来事でした。その社長が公演を見に来てくれて、「辞めるな」と引き止めてくれたんです。奇跡とも思える偶然の再会があり、事務所を移籍して役者を続けられることになりました。

――その出来事が大きな転機になったんですね。

そうですね。事務所を移籍したことは、目指していた役者の仕事の第一歩になりました。ただ、お芝居が楽しいとか、頑張りたい気持ちはありましたが、見事に何もできなくて、演出家からも怒られてばかり。毎日、どうやって逃げようかと考えていました。20代は、自分の無能さと無力さを思い知った暗黒期でしたね。こうなりたいという自分の理想はすぐに実現しなかったけれど、人に学び、守られ導かれて今があると思っています。

今回の「私の死体を探してください。」は、私の中で何かが変わったような…新しい自分に触れたような感覚を得られた役柄でした。新しい、何か――。年齢を重ねてもなおそういうものに出会えるということが嬉しくて、遠回りだったと思えるような時間ですらも必要な道のりだったんだな、と今は理解しています。

――がむしゃらだった20代を経て、30代はどんなふうに過ごしていましたか?

ただひたすらもがいていた時間を経て、役者としての武器、個性を模索するようになりました。でも、作られた個性はもはや個性じゃないし、個性的を売りにする、とってつけたような芝居なんて、私は見たくない。個性ってきっと、その人から自然と滲み出るものだから。そう考えるようになって、無理に個性を追い求めることと、他者の評価を気にすることをやめました。きっかけがあったわけではないのですが、人の目ばかり気にして疲れ果て、何もできずにうずくまっている自分がほとほと嫌になったというか。あえて同業者と関わらないようにしていた時期もありました。どうしてもそこで比較してしまうので。30代は内面を育てる、根っこを太くする時期だと捉えて、ひとり旅に出てみたり、全く仕事と関わりのない人と時間を共にしてみたり。知識を蓄え、経験値を高めようと考え方を変えた時期でもありましたね。

Information

ドラマチューズ!「私の死体を探してください。」毎週火曜 深夜24時30分〜25時(テレ東ほか)
ベストセラー作家・森林麻美がブログで自死をほのめかし「私の死体を探してください。」という文章を残して消息を絶つ。担当編集者の池上沙織は麻美を探すが、その後も麻美のブログの更新は続き、さまざまな秘密が次々に暴露されていく。人間の醜い欲望が溢れだすノンストップスリラー。

 

番組公式HP
https://www.tv-tokyo.co.jp/watashinoshitai/

原作の同名小説は光文社より発売中。
https://amzn.asia/d/3kag5Dp

撮影/You Ishii ヘアメーク/米澤香央里 スタイリング/服部昌孝 取材/坂本結香 構成/越知恭子

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表紙モデル:山本美月

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