ともにCLASSY.世代はもちろん、幅広い層から圧倒的な支持を集めている石原さとみさんと中村倫也さんが話題の映画『ミッシング』で共演。意外にも19年ぶりの共演となるお二人へのスペシャルインタビュー前編では、石原さんが今までのイメージを一新させるような新境地に挑んだ今回の映画についてお話を伺いました。
――幼女の失踪事件をきっかけに、事件を巡るマスコミ、世間の声に翻弄される母親とその家族を描いた作品。石原さんは母親の沙織里を、中村さんは取材を続ける地元テレビ局の記者・砂田を演じました。まず今作の出演が決まったいきさつと、脚本を読んだときの印象を教えてください。
石原 ずっと監督の𠮷田(恵輔)さんとご一緒したいと思い続けていて、7年前に人を介してお会いさせていただきました。自分自身、変わりたい願望が強かったので「この方だったら私のことを変えてくれる」と思い「一緒に仕事がしたいです」とお話ししたら、3年後に脚本をいただきました。脚本を読むと、確実に今までの私にはこない役だと思ったんです。私じゃない人が演じそうな役をいただけたのが、本当に嬉しくて。そこから出産も待ってくださった。まさかこの作品が産後初の作品になるとは思わなかったので運命的だなと思いながら、4年前に読んだときは妄想のように想像しないとわからなかったものが、子供を持って読んだら安易に想像ができた。読むとすぐに苦しくなるし、読むのに勇気がいる作品になったのが自分の大きな変化でした。この作品に対峙するのが怖くなるくらい、覚悟のいる作品だと思いました。
中村 僕はさとみちゃんと𠮷田さんという名を聞いて、すぐにやりますと言いました。𠮷田さんが面白い監督だというのは伝え聞いてました。さとみちゃんとは18歳のときに仕事して以来、一緒にやってなかったのでずっとやれればいいなと思っていたので。その後に脚本を読んで、いろんな意味でなんとも言えないなって思いましたね。なんとも言えないけど、半歩なのか一歩なのか何か踏みだす話ではあるなと思って――。自分が演じる砂田という役に関して言えば、社会に出ている人の多くが通過儀礼のように経験したこととか、もしくは今現在、葛藤している人とかに共感性の高い役なのかなと思いま
した。いろんな立場によって抱えてる苦労や理想、突きつけられる現実、自分のやりたいこと、やれること、できないこと、いろんなものがあるなかで、みんな大なり小なり悩んで生きていると思うんですよね。砂田の抱えているなんとも言えないモゾモゾしたものは自分自身にもあったものなので、それをいかに表現できるかを考えました。
――お二人は‘05年のドラマ『H2~君といた日々』以来の共演となりますが、これまでのお互いの印象と今作で共演して改めて感じたことを教えてください。
中村 (石原さんを見て)印象なんてありました?
石原 私、めっちゃ観てました。中村倫也作品。
中村 そう、現場でもすごい言われた。あれがどうだったって。
石原 大好きな作品があるんです。なかでも一番好きなのは『スーパーサラリーマン左江内氏』っていうドラマで、「ほぼ中村倫也」っていう作品なんですけど(笑)、私、大好きで! すごい好きだって現場で言ったら、すぐにDVDをプレゼントしてくださった。本当に『ミッシング』とのギャップが!
中村 ははははは(笑)。
石原 今作の撮影中にはもっとも観ちゃいけない作品なんだろうけど、静岡の撮影現場に向かうときは観れなくても、翌日がオフっていうときの帰りはずっと『左江内氏』を観てました(笑)。今作ではそうやって気持ちを安定させないと役に引っぱられそうだったんですけど、本当に『左江内氏』の中村倫也に救われて(笑)。
中村 いやいや。僕って言われるとあれだけど、『左江内氏』をやった人たち、みんな喜ぶよ。
石原 それだけじゃなく、いろんなジャンルのいろんな幅のある作品に出られてるんですけど、この『ミッシング』では、私はこういう中村倫也が観たかったと思ったんです。こういう作品をやってほしかったなと思って…。この砂田という役がすごく好きだったので、今作のこの役でご一緒できたのはすごく嬉しかったし、光栄に思いました。
中村 僕は2019年の夏の『東京フレンドパーク』でのさとみちゃんがめちゃくちゃ好きなんですよ。誰よりも勝ちに貪欲!(笑)。TVショーで(笑)。
石原 バラエティでね(笑)。
中村 ドラマ対抗のゲームで自分より年下の男子たちを率いてて。もちろん勝ち負けはあるけど、それぞれが自分のドラマの宣伝をやってるなかで誰よりも勝ちに貪欲で、素敵な方だなって久しぶりに会って改めて思いました。それとは方向性が違うかもしれないけど、さとみちゃんの突き詰めるさまは今作の現場でもずっとあって。ずっとボロボロだったんで、「この人、なんでこんなにボロボロでい続けられるんだろう」って思いましたね。自分はわりと冷めてるので(苦笑)、役をガガーッとやってても冷めながらやってる自分もいるのでね。作品の真ん中にいるさとみちゃんがガーッてやってくれているぶん、周りが引っ張りあげるのか周りから押し上げるのか、そういうグルーブが現場で生まれていて。それはあの時の勝ちにこだわったさとみちゃんと同じ世界線な感じがちょっとして…。尊敬ですね。
――先の見えない日々に手探りで立ち向かう沙織里と、すべきことの最善をつかめないまま事件を追い続ける砂田。お二人は今作をどう受け止めましたか?
石原 どん底って、起きた事象のその先にあるんだなってすごく思ったんです。失った瞬間より、その後がはるかに地獄だった。どんどん辛くなったのは、ほぼ人からの影響なんです。人に傷つけられた。でも最後は人によって光が見えて、ちょっとだけ温かくなった…。その温かさを受け取っていただけたらいいなと思います。最初はミステリーのように思われがちなんですけど、そうじゃないってことが伝わったらいいなと思います。
中村 ピンとくるたとえかどうかわからないんですけど、東京と大阪って2時間半、距離にして何百キロも離れてるけれど、はるか宇宙から見たらほぼ同じ場所じゃないですか。距離とか角度とか見方によってその差は見えにくかったりするけど、そこには何百キロ分の差が確実にある。今作では具体的に何が起こってどう変化があって、どうなって終わったのかという明確な差は言葉にしようとすると難しいけれど、確かにそこに差はあるよねっていう…。なんとも言えない感覚が観終わった後にありました。今作がたどり着いた先には、言語化できない何かがあるんじゃないのかなって、多くの人が感じられることを信じています。
石原さとみ
‘86年12月24日生まれ 東京都出身 血液型 A型●第27回ホリプロタレントスカウトキャラバン「ピュアガール2002」でグランプリ受賞。’03年NHK連続テレビ小説『てるてる家族』でヒロインに抜擢され、以降、数多くの作品に出演。最近の主な出演作はドラマ『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』『恋はDeepに』、映画『そして、バトンは渡された』など。主演ドラマ『Destiny』(火曜21時/テレビ朝日系)が放送中。映画『ラストマイル』が8月23日公開予定。
中村倫也
‘86年12月24日生まれ 東京都出身 血液型A型●’05年デビュー以来、数々のドラマ・映画・舞台に出演。最近の主な出演作はドラマ『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』『ハヤブサ消防団』、映画『ウェディング・ハイ』『ハケンアニメ!』『宇宙人のあいつ』『沈黙の艦隊』、舞台 劇団☆新感線『狐晴明九尾狩』など。7月より劇団☆新感線44周年興行・夏秋公演 いのうえ歌舞伎『バサラオ』に出演。8月31日より主演ドラマ『Shrink-精神科医ヨワイ-』(NHK総合)が放送スタート。
『ミッシング』
ある日突然、愛する幼い娘が失踪。その帰りを懸命に願いながらどうにもできない現実にもがき苦しみ、マスコミと世間の声に翻弄される母親とその家族を描く。主人公の母親・沙織里を石原さとみ、取材を続ける地元テレビ局の記者・砂田を中村倫也が演じる。他の出演/青木崇高 森優作 小野花梨 細川岳 柳憂怜 美保純 ほか。監督・脚本/𠮷田恵輔 ●5月17日(金)全国公開
<石原さん着用衣装>ドレス¥75,900(アキラナカ/ハルミ ショールーム 03-6433-5395)トップス/スタイリスト私物<中村さん着用衣装>シャツ¥44,000ジャケット¥57,200パンツ¥46,200(すべて KIMMY/Sakas PR 03-6447-2762 )
撮影/小川 健 ヘアメーク/猪股真衣子(石原さん)、Emiy(中村さん) スタイリング/宮澤敬子<WHITNEY>(石原さん)、戸倉祥仁<holy.>(中村さん) 取材・文/駿河良美 構成/中畑有理