発する言葉遣いのひとつひとつが美しくて、普段から自問自答をたくさんしているんだな、という印象だった杉咲さん。〝今も昔もコンプレックスがある〟という彼女の乗り越え方と考え方は、私たちの悩みのヒントにもなるはずです。
コンプレックスがあるから、他者を演じることに興味を持ちました
幼い頃からドラマが大好きで、1クールすべてのドラマを見るくらいテレビっ子でした。今振り返ると、他者になりきる行為に惹かれたことがお芝居に興味を持つきっかけだったように思います。昔から色々とコンプレックスがあり、「こう見られたい」とか周りと比べて「どうして自分はこうなんだろう」と考えてしまうことも多かったので、ここではない場所に行ってみたい気持ちがあったのかもしれない。この世界に入った時点で、その思いに気付いていたわけではなくて、デビュー当初は単純に物語の世界に入っている喜びや楽しさが強かったです。今でこそ、恥じらいや緊張感を持ちながらカメラの前に立つことがどれだけ重要なことなのか、冷静に考えられますが、当時はそういうものよりも自分を表現できる高揚感の方が大きかったと思います。
誰かを羨ましく思うことはあるけれど、その人の悲しみまでイメージできていないのかもしれない
私が学生だった頃やそれ以前は、劣っているところを見つけ出して、人の弱みを笑ってもいいという時代の空気感があったと思うんです。その環境が当たり前のように過ごしてきたし、そこから受ける影響も大きかった。でも最近は、ありのままの自分を愛したり、肯定的に捉えようとする時代ですよね。今も外見や性格の部分でコンプレックスはありますが、向き合い方は少しずつ変わってきました。人と比べてモヤモヤしたり、誰かを羨ましく思うこともあります。ですが、その瞬間って「いいな」と思う側面だけにフォーカスしがちだったりする。その先で相手が抱えている孤独や悲しみまではイメージできていないんじゃないかな、と思うんです。他者から見たら自分もそうなのかもしれない。周りと比較してしまうときこそ、自分だけが持っているものを大事にしたいと思っています。
杉咲 花さん
1997年生まれ。東京都出身。2016年に映画『湯を沸かすほどの熱い愛』で、第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・新人俳優賞を受賞。2018年TBSドラマ『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』で連続ドラマ初主演、映画『パーフェクトワールド 君といる奇跡』で映画初主演を果たす。2020年NHK連続テレビ小説『おちょやん』ではヒロインを演じた。映画『市子』で第78回毎日映画コンクール女優主演賞を受賞。現在、映画『52ヘルツのクジラたち』が公開中。待機作に『朽ちないサクラ』(6月21日公開)、『片思い世界』(2025年公開)がある。4月からはカンテレ・フジテレビ系ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(毎週月曜22:00〜)で主演を務める。記憶障害の後遺症を抱える脳外科医・川内ミヤビで医師役に初挑戦。
【衣装】ニット¥55,000 ブラウス¥66,000(トゥモローランド ビー/トゥモローランド 渋谷本店)スカート¥61,600(イロット/ザ・ウォール ショールーム)シューズ¥51,700(ビューティフル・シューズ/オーセンティック・シュー&コー)タイツはスタイリスト私物
撮影/水野美隆 ヘアメーク/宮本 愛 スタイリング/吉田達哉 取材/坂本結香 再構成/Bravoworks,Inc.