CLASSY.3月号「映画宣伝女子の2月着回しDiary」には、なんとあの『ミッドサマー』のアリ・アスター監督が登場! 最新作『ボーはおそれている』の大ヒットを目指し躍動する映画宣伝女子役として出演した山崎紘菜さんと共演しました。そして今回、CLASY.ONLINEではアリ・アスター監督へのインタビューが実現! 誌面から飛び出して、山崎紘菜さんがアリ・アスター監督に作品のこと、そして監督ご自身のことについてインタビューした内容を特別公開いたします!
見る人によって印象が異なる? 孤独を抱え続けるボー
山崎 3年ぶりの来日となりますが、久しぶりの日本はいかがですか?
アリ・アスター監督 日本は大好きな国のひとつです。とくに日本の食べ物と文化が好きですね。食に関しては「グリッチコーヒー&ロースターズ」のエスプレッソは今まで飲んだ中で一番のものでしたし、モノづくりに関してもクラフツマンシップが根付いているところが気に入っています。前回の滞在で歌舞伎を観たので、今回はまた違うプログラムを観たいと思っています。また、能も観に行きたいですね。日本の自然に対する美意識には常に興味があり、日本の自然に従うという姿勢が良いと思っています。アメリカのように自然を無理やり変えようという感じがあまりなく、自然に対する真の崇拝があると感じています。滞在中に立ち寄った根津美術館の庭園などはそれを表していて、とても美しかったです。
山崎 早速『ボーはおそれている』についてうかがいたいのですが、映画を拝見して、ボーはとても優しくて善良な人間だと感じました。しかし、作中の他の登場人物達はみんなどこか少しおかしくて、狂気的で…そういった人達が大多数で「ボーは罪人だ」と責め立てると、善良な人間でも悪人になってしまう、事実がねじ曲がってしまう、ということに恐怖を感じました。
アリ・アスター監督 ボーの心配性や孤独感を表現したいというのがこの映画の原点です。僕も、ボーはいい人だと思っていて、すごくボーのことが好きだし共感できます。一方で、アメリカではボーが消極的すぎると批判を受けました。ボーが僕に非常に近いキャラクターであるだけに、とても悲しかったですが、礼儀正しさが文化として根付いている日本社会においては、山崎さんのように受け入れてくれる人が多く、共感を生むのではないかと思っています。
山崎 監督がボーに共感されたのはとくにどういったところですか?
アリ・アスター監督 何かと悲しみを抱えていて、不安で、決断するのが怖いというところです。監督業や執筆する中ではそういった怖さを抱くことはなく、どんどん決断できるのですが、日常の中では極度の優柔不断であり、いつも本当にこれが正しいのだろうかと悩んでいます。小さいことだと「今日はどこで外食するのか」とか、「誘われた旅行に行くべきなのか」とかであったり、もう少し大きな問題になると、「この人と付き合うべきなのかどうか」というところまで、自分の選択した結果、何が起きるかということをいつも心配しているので、決断においては非常に神経質です。
山崎 ご自身が「選択」を恐れている、というのは驚きです。
アリ・アスター監督 選択することによって起きること、例えば死ぬことであったり、病気になることであったり、あとは他人に対して抱く怖さですね。他人が怖いのはある程度自然な状態ではあると思いますが、アパートから出られないほど極度に恐れを抱くとなると問題ですよね。この映画はそんな日常に潜む恐怖をちょっと大げさに、マンガらしく描いたものなんです。
「いつもおそれている」監督が重ねるボーのキャラクター
山崎 今回、監督の映画に初めてホアキン・フェニックスがキャスティングされましたが、彼との撮影はいかがでしたか?
アリ・アスター監督 やはり素晴らしい人でした。もちろん役者業に関しては非常に真剣で、一方でいつもはひょうきんで笑わせてくれるし、今ではよい友達としてお付き合いさせてもらっています。あれだけ有名なのに、腰が低くて、気取らなくて、高潔性を保っている人はあまりいないと思います。
山崎 これまでホアキンのような素晴らしい俳優とたくさん出会ってこられたと思います。個人的にも気になるところなのですが、アスター監督が考える「よい俳優」とはどういった俳優ですか?
アリ・アスター監督 一概には言えないけれど、共通項をあげるなら、すごくオープンで心をさらすことをいとわない、そして探究心がある人だと思います。探究心がある俳優はシーンごとに人間がどう行動するのか、生きることとは何なのか、というのを考えながら演じてくれます。そういう意味でもホアキンは優秀だと思いますし、他にもたくさんそういう俳優がいます。結局、世の中に対して、世界に対して、そして人間のありように対しての探究心だったり好奇心が決め手なんじゃないかと思っています。
山崎 探究心ということでは、映画の撮り方において、アスター監督は様々なことにチャレンジされていると思います。その中でも長回しのカットを多用されていますが、なぜお好きなのでしょうか?
アリ・アスター監督 演技をするときは、ある種のエネルギーが流れるわけで、その邪魔をせずにすべてをカメラに収めることができるから長回しが好きなんです。自分の演技が切り刻まれて、編集室で貼り付けられないから長回しが好きという俳優がいる一方で、プレッシャーだから嫌いだという俳優もいます。また、長回しが好きな理由に、撮影したときのイメージがつかみやすいというのがあります。細かく撮り分けると、編集室に入ってからではないと、このシーンが果たしてどういう仕上がりになるのかという予測ができないので不安になるんです。ただ、長回しにしたものを短くすることはできないので、映画が長尺になってしまいがちなんです(笑)。
山崎 長回しは前作『ミッドサマー』でも非常に印象的でした。『ミッドサマー』では男女の関係についてがフィーチャーされていましたが、『ボーはおそれている』ではとくに母と息子について触れられていると感じました。『ボーはおそれている』において「母と息子」というテーマはどのような役割を持っているのでしょうか?
アリ・アスター監督 説明するのが難しいのですが、まず今作はユダヤ人の文化的観点から描こうと思いました。ユダヤ人の文化においては母と子の関係はすごく密であり、かつ閉塞感があるんです。そしてそこにフロイト的な話を織り交ぜました。フロイトはすべては母親が原点にあるという精神分析ですから、なんでもかんでも原因は母にあるというコメディーを作ってしまえ!という感じで作品を作ったつもりです。というわけで自分自身も笑ってしまうようなコメディーが出来あがったのです。
後編は2月13日(火)に公開予定です。
◆作品情報
映画『ボーはおそれている』
公開日:2024年2月16日(金)
監督・脚本:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ネイサン・レイン、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、パティ・ルポーン、エイミー・ライアン、パーカー・ポージー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題︓BEAU IS AFRAID
【山崎紘菜さん衣装】ジレ¥50,600スカート¥37,400(ともにソブ/フィルム)ニット¥13,200(バナナ・リパブリック)イヤリング¥36,630(ベン・アムン/ZUTTOHOLIC)バングル¥4,400(アビステ)
※アリ・アスター監督の衣装はすべて私物です。
撮影/遠藤優貴 スタイリング/児島里美 ヘアメーク/川村友子 編集/大島滉平