よく聞く言葉、よく使う言葉であっても、思い込みで、切る場所を間違えている(間違えていることに気づいていない)ものがあります。「カタカナ版」であれば、「ヘリ/コプター」「キリマ/ンジャロ」「カ/メハメハ」……さらには、「ニュー/ジーランド」「ア/カペラ」なんてのも。こうした「意外な? 切り方」は、日本語にも数多くあります。
今回は、「漢字の読み」は分かるものが多いので、「読む時にはどこで切るか」をメインに考えてみてください。
1.「登竜門」
普通、「とうりゅう/もん」と読む方が多いような気がします。「登竜門」とは、「そこを通り抜ければ立身出世ができる関門」のことです。「文壇への登竜門」などと使いますが、これは、中国の伝説に基づきます。中国の大河である黄河の上流に、急流で知られる「竜門」があります。ここを遡(さかのぼ)った魚は、「竜」になるという伝説です。「竜門に登る」から、切るとすれば、「とう/りゅうもん」ですよね。
なお、普通は、常用漢字に入っている「竜」を使って「登竜門」と表記しますが、旧字体である「龍」を使って「登龍門」と表記する場合もあります。
2.「不可抗力」
「可(か)」の反対語となる「不可(ふか)」という言葉がありますから、「ふか/こうりょく」と読みがちですが、「不可抗力」とは、「人間の力ではどうすることもできない力や事態」のこと。つまり、「不可抗」が「あらがうべからず」(抵抗することができない)で、そこに「力」が付くわけですから、切れ目は「ふかこう/りょく」でしょう。
3.「一衣帯水」
今回の中では、一番聞きなれない言葉かもしれませんが、四字熟語として使われます。この四字熟語というのは、「大器晩成」「悪戦苦闘」のように、「〇〇+〇〇」の組み合わせのものが多いので、これも「一衣(いちい)+帯水(たいすい)」にように考えるかもしれませんが、正しくは「いちいたい/すい」です。「一衣帯水」というのは、「一筋(ひとすじ)の帯(おび)のように狭くて長い川や海峡。また、それを隔てて近接している」という意味を表します。つまり、「一衣帯」が「一本の帯」です。
4.綺羅星の如く
まず、読み方に注意です。「きらぼしのごとく」と読み方が多いと感じますが、「きらほしのごとく」が正しい読みです。常用漢字外の「綺」を含む「綺羅」とは、「美しい絹の衣服」のこと。着飾った人たちが立ち並ぶ様子を星にたとえているわけです。そうなると、「綺羅星」という言葉自体は本来ないわけですから、続けて「きらほし」(もちろん「きらぼし」も)と読むのは間違いということになります。なので切れ目は「きら/ほしのごとく」です。
ただし、最近の辞書では「綺羅星(きらぼし)」を、「誤用から」と最初に断ったうえで、見出し語として取り上げるようになってきています。言葉は生きもの。誤用でも、多くの人が使ううちにやがて認知されていくのはよくあることです。そうかと言って、誤用であることがわかっているのなら、あえて使うことはないと考えますが、いかがでしょうか。
では、今回はこのへんで。
《参考文献》
「広辞苑 第六版」(岩波書店)/「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)/「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)/「古語林」(大修館書店)/「難読漢字辞典」(三省堂)/「なぜなに日本語」(三省堂)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)