取材中に「ご覧になってどうでしたか?」と逆質問。作品への自負と誇りを感じました。〝ピコピコハンマー〟など、想いを自分なりの言葉で伝えてくださり日々、疑問や気づきを見逃さない姿勢がとても素敵でした。
若いから、女性だからーそう言われることがあるかもしれないけれどまず自分が言わないようにしています
挫折も転機もひっくるめて私のキャリアです
8歳のとき子役として事務所に所属したところから、今年で20年目を迎えました。俳優を生業としていきたい気持ちは歳を重ねるごとにアップデートされています。今振り返ると、出会わなかった未来は考えられない作品や、人たちばかりです。これは俳優だけでなく他の仕事にも通じることだと思うのですが、挫折も転機もすべてひっくるめて今のキャリアがある。年々そう感じています。
私が「子役からやっていました」とお話すると、頻繁に「そうなんですね」という反応が返ってくることが多くて、私が子役だったことを知らない人が多いということは、私が子役として大成しなかったから。これを挫折と呼ぶこともできるけれど、オーディションに受からなくて悔しい、とか、この役を演じたかったという気持ちも挫折になるのかな?って。やりたかった役が演じられなかったことを引きずったりもするけれど、そういうことを思い出してナーバスになったり気が滅入ることはあんまりなくて。あのときはあのとき、今は今、と捉えてやるべきことに向き合うようにしたいなと思っています。
人と比べることはしないけれど、気になる気持ちはわかります
この役を自分が演じられていたら、などは考えても仕方がないお仕事と思うので、周りと比較はしないようにしています。でも、同期で入社したことや、同い年だということを周囲も知っている中で徒競走のようにスタートが一緒だったら。つい比べて辛くなることもあるだろうなと想像します。
でも、そのコースを誰よりも早く走る人はスターかもしれないけれど、次の人が走りやすいように地面を荒らさずにゆっくりと走る人がいたら、その人もカッコいいと思う。だから、走り方は人それぞれでいいんじゃないかなと。それと今は、以前に比べて転職という選択肢も選びやすくなっているように感じています。私の地元の友達でも、最近転職した子がいます。これまでとは全く別の仕事に転職した人も。「忙しいけど楽しい!」と言っている姿を見て、なんだか励まされました。
今しかできない仕事って、存在すると思う
今、ドラマ『最高の教師』にて生徒役の方たちと接していて、眩しいな、瑞々しいなと感じる瞬間が多々あって。改めて今しかできない役・作品が存在することを再認識しています。10月公開の映画『愛にイナズマ』もその一つでした。コロナ禍を描いたこの作品は、今しか作れないものだったと思っています。作中では、私がマスクを着けたり外したりしながら相手と話をするシーンがあるのですが、そこにはマスクの有無で相手に本音を話せそうなのか、そうではないのかを示したい、という石井裕也監督の演出がありました。マスクの着脱という行為自体を演出していただいたのは初めてでしたし、そのとき環境や事象の中だからこそ生まれる作品もある。この先もそのときだからできる役や作品に巡り合っていきたいです。
今作は少数精鋭のメンバーで撮影をしていたのですが、愛情いっぱいの現場でした。心無い言葉で傷つくようなことが、小さいものを含めてひとつもなかった。MEGUMIさんとのとあるシーンのロケの際、撮り始めると周囲の音が入ってしまうことが5、6回続いて、本番がなかなか回せなかったことがありました。割とシリアスなシーンだったので、早くやりたいな、と思いながら待っていたのですが、ふと石井監督を見ると頭をぐしゃぐしゃにしてうずくまっておられて。その姿を見て、早く撮ってあげたいのに、と、こんなにも思ってくれる人がいるんだ、と気づいて愛を感じました。甘やかすとか過保護にする愛ではなく、お互いを認める・尊重するという愛に溢れていたと思います。
松岡茉優さん
1995年生まれ。東京都出身。幼少期から子役として活動。2013年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で注目を集める。2017年『勝手にふるえてろ』で第42回日本アカデミー賞の優秀主演女優賞、2018年『万引き家族』で同賞の優秀助演女優賞、2019年『蜜蜂と遠雷』、2021年『騙し絵の牙』で同賞の優秀主演女優賞に輝く。主な映画出演作は2012年『桐島、部活やめるってよ』、2016年、2018年『ちはやふる-下の句-/-結び-』、2019年『ひとよ』、2022年『ヘルドッグス』など。日本テレビ系ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』では主演を務めた。『愛にイナズマ』は2023年10月27日(金)全国ロードショー。
【衣装】ジャケット¥64,900 パンツ¥68,200〈ともにMIKAGESHIN〉ブラウス¥49,500〈ミラ ショーン バイ チカ キサダ〉(すべてエドストローム オフィス)リング¥38,500ピンキーリング¥34,100(すべてリューク)
撮影/水野美隆 ヘアメーク/大上あづさ スタイリング/池田未来(in the pink) 取材/坂本結香 再構成/Bravoworks.Inc