子供たちの夏休みもいよいよ終わりですね。この時期は、宿題のラストスパートに必死だったという思い出をお持ちの方も、案外多いのではないでしょうか。前回のCLASSY.ONLINEでは「見た目は似ているけれど全くの別物」という漢字を紹介しました。今回もそんな漢字をピックアップしていきます。
1.「悔」と「侮」
最初は、「悔」と「侮」です。どちらも常用漢字で、遠目にはよく似ていますが、「りっしんべん」と「にんべん」という部首が少し違います。今回は送りがなを付けて訓読みで読んでみてください。ヒントがわりに、送りがな付きの例文を示します。
「準備がなかったことを悔いる」と「敵の力を侮る」
正解は「く(いる)」と「あなど(る)」でした。「悔いる」は、「後悔」という言葉をすぐ思い出すでしょうから、難なく読めたと思いますが、「侮る」のほうは、学校のテストでも読めない子が多くいます。「相手の力などを軽く見る・ばかにする」という意味の漢字で、熟語では「侮辱(ブジョク)」「侮蔑(ブベツ)」などをよく見かけます。因(ちな)みに、古文の世界では「あなづる」という形で使われていました。
2.「壁」と「璧」
次は「壁」と「璧」です。まず、字形をよく見てください。「壁」の下の部分は「土」ですが、「璧」のほうは下の部分が「玉」となっています。どちらも常用漢字、音読み「ヘキ」は共通です。
では、次の例文「観客に完ペキな演技を見せつける」の「ペキ」は、「壁」と「璧」のどちらの漢字を使うべきでしょうか?
正解は、後者を使う「完璧」でした。「完璧」とは、誰もが知っている言葉で、皆さんよく使うと思いますが、いざ書くとなると、多くの人が「完壁」と書いてしまう不思議な言葉です(学校でも小論文や志望動機中の誤字の定番です)。
ここで、おさらいをしておきましょう。まず、「完璧」の「璧」とは「平らで中央に穴の開いた宝玉」のこと、「完璧」の形で「完全な傷のない宝玉」を表します。この言葉が現在の意味で使われるようになったのは、中国の戦国時代の故事に由来します。趙の国にあった「和氏の璧(かしのへき)」というすばらしい「璧」を、交渉の使者となった男が命をかけて完全な形で持ち帰ることの成功した、という話です。ここから「大事なことを成し遂げる」ことや、「欠点が全くない」様子を、「完璧」という言葉で表すようになったわけです。「璧(宝玉)」であることを覚えていれば、誤字は防げますね。
3.「萩」と「荻」
最後は「萩」と「荻」です。皆さんの会社や知人友人の中に、「萩原さん」と「荻原さん」はいませんか。このお名前の方は、恐らく間違って名前を呼ばれた(あるいは書かれた)経験があるはずです。それくらい「萩」と「荻」は、読み間違い・書き間違いの定番なのです。それぞれ正しく読めるでしょうか?
正解は、「萩(はぎ)」と「荻(おぎ)」でした。どちらも常用漢字外で植物名を表しますが、もちろん、その種類は違います。「萩」は、「マメ科ハギ属の落葉低木の総称」。夏から秋にかけて紅紫色の小さな花を付けます。「秋の七草」と言えば、最初に出てくるのは「萩」ですし、日本古典の代表の一つ『万葉集』で、最も多くの歌が詠まれている植物は(つまり梅や桜よりも多く)、実はこの「萩」なんです。これに対し、「荻」は、「湿地に群生するイネ科の多年草」で、秋にススキに似た大きな花穂を出します。「草かんむり」の下に、「のぎへん」があるのが「はぎ」、「けものへん」があるのが「おぎ」と覚えましょう。ちなみに、「萩(はぎ)」も「荻(おぎ)」の読み方は訓読みです。音読みは、それぞれ「シュウ」と「テキ」になります。
では、今回はこのへんで。
《参考文献》
「広辞苑 第六版」(岩波書店)/「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)/「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)/「古語林」(大修館書店)/「難読漢字辞典」(三省堂)/「1秒で読む漢字」(青春出版社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)