昨年から保険適用になり、より一層身近なものになった不妊治療ですが〝まだ早いかな…〟や〝まずは自己流で〟など、クリニックへ行くことに躊躇いがあるかも。でも、自分のカラダを知ること、考えることに早すぎることはありません。
男性不妊の割合は約半分!
男性が原因の不妊も約半数。女性側だけで不妊治療に取り組んでも、時間のロスになるケースも多いとか。※浅田レディースクリニックより
「ふたりで始める、という最初の姿勢が大事です」
不妊カウンセラー・鈴木早苗さん
「パートナーにはまわりくどく言わず、率直にロジカルに伝えよう」
パートナーに不妊治療を切り出したときに、「まだ平気でしょ」とか「俺たちまだ若いし」と、勇気を出して伝えたにもかかわらず撃沈するケースは少なくありません。そういう事態に陥っても一回で諦めないことが大事です。伝え方にもコツがあり、「普通はこうらしい」や「〇〇さんの旦那さんは一緒に病院に来てくれるんだって」のように回りくどい言い方はNG。周りを引き合いに出さずに、自分を主語にして「実は私は結構気になっていて、早めに病院に行った方がいいと思ってる」とストレートに伝えることが大切です。また、「早い段階で不妊治療を始めることが、金銭的にも時間的にも、ふたりにとってメリットがある」と理論的に話すことも意識してほしい点。最初の受診に抵抗感を示す男性も多いので、人情に訴えるよりはメリットを示してロジカルに説明すると、男性側も受け入れやすいと思います。不妊治療は夫婦の同意があることが前提で進みます。「ふたりではじめる」という意識を男性側にも持ってもらうには、最初が肝心。これまでは妻だけで初診を受ける人も多くいましたが、昨年4月に保険適用になり、❶治療開始の段階のどこかで夫婦で受診することが必須となりました。また、各クリニックが開催する説明会にふたりで参加するのもおすすめ。本格的に治療に入る前に一緒に知識を得たり、情報を共有できると、スタートラインの意識統一がしやすいです。
不妊治療をはじめる前にパートナーとしておくべきことは、意思の確認。そもそも子どもを持つ・持たない/いつ持ちたいのか/人数は/どのくらいお金と時間を費やすか、といった生殖にまつわる人生設計は是非、話し合ってもらいたいです。35歳を境に妊娠率は下がり、流産率は上がります。年齢が上がるにつれてシビアさが増すこと、生殖年齢には限りがあることを知った上で、人生プランに向き合ってほしい。35歳をひとつの目安に、そこに近いか遠いかで不妊治療を視野に入れてもいいと思います。自己流の妊活をしている人も多くいますが、「また、生理きちゃった」ということを繰り返しているのであれば、保険適用にもなったことですし、❷自分たちのハードルを上げず、気楽に不妊治療専門クリニックに行くことをおすすめしたいです。
「女性と男性の負担の差に、ギクシャクしがちです」
治療がはじまると、女性が身体を張る場面が多く、圧倒的に負担が増えます。体が辛かったり、痛かったり、時間の拘束もあり、生活の中で不妊治療に関わる割合がどんどん大きくなります。一方、男性は検査と言っても基本的には精液検査がメインなので、痛い思いもしないし、通院回数も少ない。恥ずかしい思いもそこまでしなくて済みます。この男女の負担差がギクシャクや喧嘩の原因に繋がりがちなんです。「私はこんなに大変な思いをしているのに、なんでそんなに関心が低いの?」と我慢していた思いが爆発することも。そういうことが起こると夫は腫れ物に触るような対応になり悪循環に陥ります。また、夫に相談をしたときに、「いいんじゃない、君が決めたら」と優しさのつもりで発した夫の言葉に傷ついて、さらに溝が深まったり……。妻としては一緒に考えるプロセスを踏んでほしかったり、理解する姿勢を求めていたのに、そうではない反応が返ってくると、さらに温度差が広がってしまいます。なるべく対面で「大事な話があるんだけど」と切り出したり、「意見を聞かせてほしい」と寄り添うことが大事です。
「コミュニケーションを取ることを諦めないで」
私としては、治療で大変なのに、パートナーとのコミュニケーションにおいても女性が頑張らなくてはいけないことに忸怩たる思いはありますが…コミュニケーションの取り方ひとつで相手の反応は変わるから、諦めないで向き合ってほしい。後々の協力体制を築いていくためにも、ぶつかることは必要なこと。意見のぶつかり合いを重ねると、ぶつかり方も上手になります。だから意見の対立を恐れずに、話をしてみて欲しい。不妊治療で食い違いがあったからと言って、すべてにおいて仲が悪いわけではないですよね。お互い意見の違いを認めて話し合う習慣をつけていく。そこで得たぶつかり方や乗り越え方は、この先のふたりの人生に役立つと思います。どうしても不妊治療は妊娠がゴールになりがちですが、本当に大変なのは治療を終えて出産してから。ふたりで話し合う努力ができていなかった結果、不妊治療を経て子どもを授かったのに離婚してしまうケースも少なくありません。どんな状況においてもパートナーとコミュニケーションを取る努力も頑張って欲しいです。
「自分がどう生きていきたいか、考える機会を持って」
不妊治療以前に考えて欲しいのは、「自分はどう生きていきたいか」。妊娠率は30歳から低下し、35歳で急激に下がります。それは男性も一緒で、若い方が精子は元気だし、年齢を重ねるとDNA損傷などが起こり、正常な精子の数は減る傾向にあります。男女限らず、自分の身体を知っておくことは大事です。CLASSY.世代は、自分の身体に注目し、ケアをはじめる年代です。生理痛がひどいけれど、毎回鎮痛剤を飲んでやり過ごしている人も多いと思いますが、その背景には無理なダイエットや不規則な食事、身体の冷えなどが潜んでいて、ケアが必要なケースもあります。それは不妊の原因にもなりかねません。不妊治療にかかわらず、すべての女性は生殖にまつわる権利を持っています。私たちは、結婚する/しないも、子どもを産む/産まないも、ライフステージの変化も自分が決めていい。他人の期待に応えるためではなく自分の望みを大切にしていいし、なおかつそれは周りからも大事にされる権利があることを忘れないでほしいです。それが少数派の考えだったとしても、自分が自分の味方になって大切にしていい。不妊治療は女性の負担が大きいし、辛いこともあります。自分を労りつつ、どうしたいのか、人生の手綱を手放さずに向き合ってください。
あわせて知っておきたい「不妊治療」のこと
❶初診はおひとりでも結構です、とクリニックのホームページにあることも多いですが、保険適用をする場合は初めのどこかの段階ではふたりでの受診が必要。できれば初診をふたりで受けるとスムーズ。
❷まずは自分たちのカラダの状態を知るために、検査を受けてみることが第一歩。無料説明会などを開催しているクリニックも。
教えてくれたのは…不妊カウンセラー・鈴木早苗さん
日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、実践女子短期大学日本語コミュニケーション学科非常勤講師/自分も相手も大切にするアサーティブ・コミュニケーションの講師歴19年。自身の不妊治療経験をもとに、2017年、ブログ「心が軽くなる不妊治療中のコミュニケーション」を開設。著書に『不妊治療成功のカギ!夫婦の妊コミBOOK 心・体・お金のダメージを解消する』(河出書房新社)。
イラスト/Erika Skelton 取材/坂本結香 再構成/Bravoworks.Inc