昨年から保険適用になり、より一層身近なものになった不妊治療ですが〝まだ早いかな…〟や〝まずは自己流で〟など、クリニックへ行くことに躊躇いがあるかも。でも、自分のカラダを知ること、考えることに早すぎることはありません。
とはいえ不妊治療はまだ早い… ですよね?
「30代後半で通い始める人が多いですが、できれば35までの受診をおすすめします」
浅田レディースクリニック・園原めぐみさん
「生理がある=妊娠できる、とは限りません。不妊は自分では分からないこと」
生理があれば妊娠できる、と考える人が多いと思いますが、生理だけでは妊孕性(にんようせい)を見極めることができず、不妊治療の基本的な検査をしても不妊の原因ははっきり分かるものではありません。一般的な不妊の定義は、「妊娠を望む健康な男女が、1年間避妊をしないで性交しているにもかかわらず、妊娠しないこと」とされていますが、年齢や人生設計によっては、1年待つのは長いかもしれません。生理が不順な場合や、30代後半にさしかかってもなかなか妊娠しないようであれば、早めにクリニックを受診した方がいいと思います。
「保険適用は、39歳までは6回まで、40歳から43歳未満は3回までと決まっています」
2022年4月から保険適用がはじまりました。保険適用の場合、自己負担は3割になり、生理3日目から開始する卵巣刺激から採卵、体外受精、胚移植までの1サイクルで、トータル約15万円。採卵で卵がたくさん採れて、凍結卵が複数確保できた場合はさらに高くなりますが、採卵で約5万円、移植で約8万円が目安です。ただ、無制限に保険治療が受けられるわけではなく、胚移植の上限回数が定められています。❶「39歳までは6回、40〜43歳未満は3回まで」で、この回数を超えた治療は自費になります。また、着床前診断のように自費でしか受けられない治療もあります。
「治療は簡単に言うと、3段階に分かれています」
❷不妊治療は、タイミング法、人工授精、体外受精の3段階に分かれています。治療は女性の生理周期をベースに進んでいき、その周期に合わせて保険治療でできる検査をしつつ、タイミング法を同時進行するのが、一番最初のステップです。この時期に男性側の精液検査も行い、その結果次第では、人工授精、体外受精に進むことも。女性側も男性側も最初に受ける検査の結果次第で治療方針が変わります。年齢や今までの治療歴にもよりますが、5、6周期を目安にそれぞれの治療を行い、ステップアップしていきます。もちろん、希望があれば医師と相談の上、最初から体外受精に進むこともできます。クリニックとしては早く妊娠して欲しいので、ステップアップするに越したことはありません。逆に、体外受精からタイミング法へのステップダウンはおすすめしていません。どちらにせよお金もかかりますし、早く結果を望むのであれば、ステップアップした方がスムーズに治療が進むと考えています。保険治療での体外受精は、生理3日目のホルモン負荷テスト、AMH検査の結果を受けて、卵巣刺激の方法を決めるところからはじまります。保険診療では、エコーの回数が1ヶ月3回までと定められているので、自費診療のように頻繁にエコー検査ができず、その回数内での採卵日の見極めが求められます。❸採卵日は、2、3日前に決まることがほとんど。これは自費でも保険診療でも変わりません。
「若いからといって過信しないで。オープンに話せる世の中になればいい」
不妊治療をはじめる前に大事なのは、夫婦で話し合うこと。治療において夫の協力は欠かせないので、男性側にも子どもが欲しいという気持ちがないと、お互いを支えられなくなります。例えば、女性側だけがずっと治療を続けていて、実は男性側にも原因があったことが判明すると、「今まで協力してくれなかったからだ」という思いにもなるし、男性側も精子に問題があるとなるとショックを受けてしまいます。そういう場面でふたりの気持ちが同時進行していないと、どちらかのせいにしてしまうことも。妻側がひとりで走ってしまうのではなくて、ふたりで一緒に治療について情報収集したり、知識を深めておくことは重要です。今は、情報が溢れていて何が正しいのか迷うこともあると思います。そんなときもふたりで話し合えば、客観的に落ち着いて情報の取捨選択ができるはずです。
それから、CLASSY.世代は若いからといって過信しないで欲しい。気にしすぎなくてもいいけれど、自分の身体のことは気にかけてください。いろんな考え方があって、子どもが絶対にいなきゃいけない時代ではないですが、夫婦でどうありたいかを考えて、先の人生設計に向き合って欲しいです。親や周りの意見に流される必要はありません。パートナーとふたりで話し合えることが1番。夫婦生活や妊娠といったトピックは、プライベートなことで話しづらいかもしれませんが、友達と気軽に話せるようになるといいですよね。そういうこともフランクにオープンに話せる世の中になってくれたら、と願っています。
あわせて知っておきたい「不妊治療」のこと
【不妊治療には3段階】
❶保険適用になったからといって、すべての治療に保険が適用されるわけではないので、治療を受ける際にはその都度確認が必要。麻酔なども保険適用外になることが多い。
❷各治療の違いについては左記参照。体外受精の次のステップとして、顕微授精もある。顕微授精は顕微鏡を見ながら卵子に針で精子を直接注入する方法。体外受精で受精しなかった場合や、精子の数が少ない場合に行われる。
❸このため、採卵日のクリニック受診日を前々から決めて予約することは難しい。仕事などをしている場合は、臨機応変に休みを取る必要がある。
教えてくれたのは…園原めぐみさん(浅田レディースクリニック)
臨床検査技師、体外受精コーディネーター/胚培養士の経験を経て、日本不妊カウンセリング学会認定体外受精コーディネーターとして、2004年に浅田レディースクリニックに入職。現在は、名古屋駅前クリニックに勤務。医師と連携し、高度生殖医療を受ける患者に対し、治療内容の補足説明やスケジュール管理などを行う傍ら、カウンセリングやケアを通じて、患者とクリニックの橋渡し的役割も担う。
イラスト/Erika Skelton 取材/坂本結香 再構成/Bravoworks.Inc