映画をはじめドラマ、舞台と、途切れることのない活躍で確固たる存在感を放つ女優・前田敦子さん。1月13日(金)より公開された映画『そして僕は途方に暮れる』では、ばつが悪くなるとその場から逃げ出す主人公・裕一を見守る彼女・里美を熱演中。2018年に上演された舞台から5年の月日を経て、映画化となった今作の魅力をたっぷり伺いました。
PROFILE
前田敦子
1991年千葉県生まれ。アイドルグループ「AKB48」の第1期生として2012年まで活動。卒業以降は、テレビドラマや映画、舞台に多数出演、女優として活躍している。2019年に映画『旅のおわり世界のはじまり』と『町田くんの世界』で第43回山路ふみ子映画賞女優賞を受賞。NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』(21年)で野田作品に初参加。近年の映画出演作に、『コンビニエンス・ストーリー』『もっと超越した所へ。』(ともに22年)『そして僕は途方に暮れる』『あつい胸騒ぎ』(23年)
舞台、映画と同じ役を続投できることが嬉しい
—— 映画『そして僕は途方に暮れる』、公開おめでとうございます。今の率直な気持ちを聞かせてください。
やっと公開できるというのが率直な思いです。私が事務所を独立してすぐの撮影だったので、公開まで約2年が経っているんですよね。ここまで温める作品ってなかなかないので、ようやくお披露目できるのが嬉しいです。
—— 今作は、2018年にBunkamuraシアターコクーンにて上演された舞台『そして僕は途方に暮れる』の映画化。舞台、映画と同じ役を続投することが決まったとき、どんな感想を持ちましたか?
同じ役を続投できるっていうのはすごく嬉しいですよね。特に今回のように舞台作品が映画化するって滅多にないお話じゃないですか。以前、私が初めて舞台に立たせてもらった蜷川(幸雄)さんの舞台『太陽2068』が後に映画化した経験はあるんですけど、映画では舞台と違うキャストの方が演じていたので。舞台も映画も同じキャストで見せるっていうのはレアなケースなのかなと。舞台のプロデューサーさんもすでに映画を見てくれたみたいで、「すごい面白かった!」と感想をいただきました。
—— 舞台のときから映画化のお話はあったんでしょうか?
はっきり「映画化します」とまでは聞いていなかったんですけど、舞台のときから監督の三浦(大輔)さんが「この作品に関しては、舞台と映画の中間みたいなところを探っていきたい」とおっしゃっていて。舞台だけど映画のような見せ方ということで、映画というキーワードは頭にありました。舞台稽古に入るときも「日常にある話にしたいから、舞台の声質じゃないところでやっていきたい」というお話があって。たいていの舞台は声を張ることが求められると思うんですけど、この作品は声を張らずにあえてマイクをつけるっていう、新しい試みでやっていましたね。
—— より日常に近い演出にこだわった舞台を経て、今回映画につながったと。
作品自体も監督が長い時間をかけて完成させたものですし、映画化に関しては監督が目指していた部分でもあると思うので。こうして実現できたことは、私自身も嬉しいです。
「里美は優しくいてほしい」監督のリクエストに向き合った日々
—— 前田さんが演じたのは、「すべてを捨てて逃げ出したい」という衝動からあらゆる人間を断ち切り、逃避劇を繰り返す主人公・菅原裕一と5年間同棲中の彼女・鈴木里美。里美に関して「とても思い入れの強い役だった」とのことですが、どんなところに思い入れを感じていたんでしょうか?
監督ってすごく優しいんですけど、こだわりを強く持っている方なんです。それで舞台の稽古中に監督のこだわりに応えられない自分が悔しくて、他のキャスト含む皆さんの前で泣き腫らしてしまったことがあって。そんな経験もなかなかなかったですし、雪が降っている冬の日で、その寒さすら痛く感じたのを覚えてますね。
—— 監督にとっての理想の里美像とはどんな女性だったんでしょうか。里美を演じるにあたって、意識していたことはありますか?
監督が里美に対して望んでいたことは、「優しくいてほしい」ということですね。喋り方だと一つ一つのセリフを置きにいくような感じというか。「もうこれでもかっていうくらい、優しく言ってほしいんです」という指示がありました。というのも、監督いわく普段の私の喋り方はたまに冷たく聞こえるときがあるみたいなんです(笑)。無意識にも言葉を吐き捨てているような感じに見えると冷たい印象になってしまうので、普段とは違う喋り方を心がけながら、裕一にとって優しい女性であり続けることを大事にしていましたね。
—— そんな優しい雰囲気はキープしつつも、里美がじわじわと感情を露わにするシーンはとても印象的でした。
里美は裕一が逃げるきっかけにもならないといけなかったので、優しくも分かりやすい怒りをぶつけるっていうのは難しかったです。裕一にとってその場にいるのがキツい、逃げたいと思うような場を作らなくちゃいけないけど、言葉で詰めるのも違うなというか。監督とどうしたらその場に裕一が居づらくなるかっていうのは逐一相談して、裕一目線でどう見えるかを追求していました。
役に生きる藤ヶ谷太輔さんの変化にびっくりしました
—— お話変わって、撮影時の特に印象的だったエピソードはありますか?
この撮影が結構順撮りに近い形で進んでいて、撮影も私からスタートしたんです。5日間くらい撮影して、私はそこから期間が空いて、北海道でみんながもう一度集まるっていうスケジュールだったんですけど。北海道で久しぶりにお会いした藤ヶ谷(太輔)さんの見た目が驚くほどに変わっていて、最初見たときはびっくりしました。大丈夫かなって心配になるくらい。
—— 確かに映像からも伝わるくらい、シュッとされていたように感じました。
無駄なものが全部削ぎ落とされたというか、げっそりしてましたね。期間が空いたといっても3週間くらいなんですけど、その短期間でここまで見た目が変わるのかと。
—— そのことについて、藤ヶ谷さんご本人とお話しましたか?
そうですね。でもすごく清々しい感じで「全然つらくない」とおっしゃっていて。私がいない期間にあった伝説的なこととか、「このシーンがこれくらい大変だった!」みたいな裏話を次々にお話してくださるので、大丈夫なんだと安心しました(笑)。撮影中もすごく表情がイキイキされていて、役に生きている方なんだなと。
スマホは息子に取られちゃうことが多くて…
—— 今作では「スマホ」がキーアイテムの一つになっていると思いますが、前田さんご自身は普段からよくスマホをチェックされますか?
私はどちらかというと、マメにチェックするタイプではないかな…。まず息子にスマホを取られちゃうんですよ(笑)。基本的に息子と一緒にいるときはスマホを見られないっていうのが当たり前になってしまったので、寝る前に返せたら返すとか、結構1日空いちゃうこともありますね。
—— 息子さんのお気に入りなんですね。
息子用にiPadも用意したんですけど、ダメでしたね。結局「ママので見たい!」って言われちゃう。なので仕事の連絡をいただいたときは「これだけ返させて!」ってスマホを一時的に預かって、終わったらすぐ息子に渡して。今は私がiPad2個持ちみたいな感じです(笑)。
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映画『そして僕は途方に暮れる』
1月13日(金)より全国公開中
平凡な1人のフリーターが、ほんの些細なことから、あらゆる人間関係を断ち切っていく、人生を賭けた逃避劇。逃げ続けたその先で、彼を待ち受けていたものとは――。各所から絶賛を浴びたオリジナルの舞台が映画化。予測不能なストーリー、共感と反感が渦巻く《現実逃避型》エンタテインメントが誕生。出演/藤ヶ谷太輔、前田敦子、中尾明慶、豊川悦司、原田美枝子、香里奈、毎熊克哉、野村周平
撮影/花村克彦 ヘアメーク/高橋里帆(HappyStar) スタイリング/有本祐輔(7回の裏) 取材・文/所 優里 編集/宮島彰子(CLASSY.ONLINE編集室)