15年以上ゲームをやっていないなか、40代後半で突然“2年で4,000時間以上”をゲームの生配信に費やすようになったというお笑い芸人の小籔千豊さん。ゲーム反対派だった価値観ががらりと変わったきっかけや、周囲との向き合い方の変化など、今の心境を聞かせてもらってきました。
PROFILE
小籔千豊(こやぶかずとよ)●1973年9月11日生まれ、大阪府出身。吉本新喜劇の座員として活動する傍ら、俳優や吉本新喜劇ィズ、ジェニーハイのバンドメンバーとしても活躍。オンラインゲーム「フォートナイト」にハマり、2020年には“フォートナイト下手くそおじさん”としてゲームYouTuber活動も開始。「姫」は配信中の小籔さんの愛称。今年11月11日には、自身初となる著書『ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由』(辰巳出版)を発売。
「僕は先入観野郎でしたね」ーゲームを通して感じた価値観の変化
-「フォートナイト」がきっかけでYouTube配信を始め、今回書籍も出版されましたが、以前はゲームはしない生活だったそうですね。ゲームはダメだ!と反対派にいたのは、なぜなのでしょうか?
僕は本当に先入観野郎だったんですよ。若い頃「これは絶対こうでしょ」って思うことが大体当たってたから、調子に乗ってたんですよね。でも、自分がおっさんになってきて、「自分がこうだ!」と思っていたけど、実は全然ちゃうこともあるっていう事実を今一度、思い直さなきゃあかんなって思っているところです。
子育てについてもそれは同じで、ゲームひとつ取っても子どもに「課金したい」って言われたときに、「そんなもん、意味ないこっちゃ」って、僕も嫁はんも即答で突っぱねたんです。でもよくよく考えたら、僕らは子どものときに課金というシステムがなかったから「ゲームに課金したい」って思ったことがないんですよね。だからその価値が分からなかっただけなんやないかなと。仮面ライダーカードの話やったら僕も子どもの頃欲しかったから、理解できたと思うんです。ゲームへの課金を「モノにもならないものに金使うなんて」ってスパッと切り捨ててきたけど、改めて考えたら子どもの気持ちを分かってないなって。最近はゲームに限らず子どもの訴えに対して、前までは30しか考えなかったところを90は考えるようになりましたね。「基本的には無しやけど、何でそうしたいの?」ってちょっと立ち止まって考える時間が長くなったのは、僕の中ではいい変化だし、成長できた部分ですね。
ゲームきっかけで“できへん人の気持ち”が分かって、周りに少し優しくなれた
-お子さんがきっかけでゲームにハマり、書籍を出版するまでに至りますが、ゲームを通して小藪さんが感じた変化はどんなことでしょうか?
高校のときに書いてたネタをみんなから評価してもらったり、NSCの先生から「同期の中で1番面白いのは君ですよ」って言われたりしてたから、ネタを書くことに関してはチョロかったんですよね。だからおもんないのに芸人やってる同期とか見てたら意味分からんくて。NSC時代は、周りに「なんでそんなにおもろないのに芸人やってんの?」って突っ掛かったりもしてたんです。僕、バレーボールも勉強もダンスもそこそこできる方やったんで、できへん人の気持ちが全然わからなくて。でも、ゲームに関しては全くセンスがない(笑)。「フォートナイト」なんて4,000時間やってもめちゃくちゃ下手で。ゲームきっかけで、できへん人の気持ちがわかったんです。今までごめん、って思いました。「センスないってこんな苦しいんや」って、あのときの同期の気持ちも分かったし、新喜劇の後輩らにもちょっと優しくできたりもしましたね。
あとは、改めてコツコツやることが大事だな、と。以前、アスリートにインタビューする番組をやっていたんですけど、吉田沙保里さんも伊藤美誠さんも中澤佑二さんも宇佐美貴史さんも、みんな言っていたのは、コツコツ積み重ねることの大切さ。こんだけゲームセンスのない僕がみんなと同じように「フォートナイト」をやるには、誰よりもコツコツやるしかないって心の底から思って。だから、余裕で4,000時間できてるんです。もちろん、楽しいのもありますけど。
誰かのために働いて、必要とされたら…生きてる感覚が出てくるはず
-今、CLASSY.では“Well-Being”をキーワードに情報を発信しています。小籔さんご自身が、自分も周りをハッピーでいるために心がけていることありますか?
「よく生きる」とは、人と比べるんじゃなくて、置かれた立場でせなあかんことに向き合うことやと思います。誰かのために働いて、その人に必要とされたら、生きてる感覚が持てて、やりがいにつながると思うんですよね。それは社会に出て働くことに限らずで、うちの嫁はんは社会では働いていませんが、不幸で必要とされていないか?と言われるとそうじゃない。嫁はんが家のことをやってくれるから、僕は家で新喜劇の台本に集中することができる。僕の台本でお客さんが笑ってくれたら、その何%かは嫁はんの手柄でもあるんです。みんながちょっとずつやってるから上手いこといってる。
遠くで作った野菜も運んでくれる人がいるから食べられる、冷凍技術が進歩したから魚も美味しくいただける、みたいなこともそうですよね。人に必要とされる、人のためになるっていうのは幸せのひとつの形。あとは…悩んでる人らはインスタ見ん方がいいと思うんです。あんなんイケてる一部を出してるだけですからね。
遠くの人を幸せにせんでもいい。 自分の本業を全うして、 近くの人を幸せにできたらいい。
-悩めるCLASSY.世代に、小藪さん流のアドバイスを送るなら?
ネットに出てる言葉で迷ったり、インスタで人と比べて悩んだり嘆いたりする人もいますけど、そんなん見るな、と言いたいですね。自分らしく生きたいとか幸せになりたいと思うなら、遠くの人を幸せにせんでいいんですよ。自分の本業を全うして、近い人に必要とされて生きてたらいい。僕だってダウンタウンさんと比べると1週間に笑かしてる人の量は一万倍くらい違うし、お金持ちがバンと寄付する額と自分が神社でちょっと寄付する額を比べるとめちゃめちゃ少ない。でも、それでいちいち落ちこんでる僕を見たらきっとみんな「はぁ?」って思うじゃないですか。でもみなさん、それが自分ごととなると落ち込むんですよね。
人に優しくなって、人を許せるようになると、自分も許せるようになる。「こうじゃないとダメなんです」ってこだわりは、そうじゃない人を許してない証拠だと思います。鼻毛をキレイに処理しなきゃいけないと思ってる人って、鼻毛出てる人にめっちゃ厳しいんです。周りによく文句を言っている人がいたら、それを全部メモってみてください。その人が何を得意と思っているかが現れてきます。「アホやねん」って周りに文句言う人は自分が賢いと思ってるし、「段取り悪いわ」って言ってたら自分は段取りがいいと思ってる。でも、段取り悪くてもええやん、鼻毛出ててもまぁそんなこともあるやんって、周りに寛容に生きていったほうが、自分のことも許せるんです。もうちょっと自分にも他人にもゆるくして、人に必要とされることに一生懸命になっていたら、悩みなんか忘れちゃいますよ、って伝えたいですね。
初著書『ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由』(辰巳出版)好評発売中!
フォートナイトを始めるきっかけやゲームを通じて変化した親子関係などが自身の言葉で綴られた小藪さんの初著書。まるで小籔さんが話しているような軽快でクスッと笑えるストーリーで、フォートナイトをやっていなくても自然と引き込まれる1冊。
撮影/永峰拓也 取材・文/坂本結香 構成/宮島彰子(CLASSY.ONLINE編集室)