7月30日にオンラインで開催された『ウェルビー女子の日』。その5限目のゲストに来てくださった小島慶子さんのお悩み相談は、聞き役の堀田茜ちゃんもスタッフも、思わず涙ぐんでしまうほど心に刺さるものでした。その温かく実感のこもったアドバイスをぜひ誌面でも!と実現したこの企画。CLASSY.Collegeのライター講座受講生たちから、それぞれのキャリアの悩みを募集しました。
【お悩み】部下への接し方って?
《お悩み》
部下に対して注意の仕方、促し方を伺いたいです。実践されていた部下や後輩との接し方、注意の仕方など、小島さんのご経験に基づいたアドバイスはありますか?
“先輩後輩・上司部下ではなく、基本原則としてリスペクトを持っていたい”
――CLASSY.世代だと、はじめて部下ができて接し方に迷う、などということもあるかもしれません。
小島さん:自戒を込めてなんですけど、私が40代半ばの頃に新卒くらいの若い現場マネージャーが付いたことがありました。そのマネージャーがケアレスミスが多くて。私も事務所から教育係を期待されてるんだなと思って、アレコレ丁寧に注意していたんです。でもね、全然改善されないんですよ。それで、もしかしたらADHDである私と同じように、何らかの苦手なことがある人なのかなって思ったんです。そこで「もしかして、昔からケアレスミスしやすいとか、困っていることがあるのかな?だったら一緒にできることを考えようか」って言ったら、彼女は「私、他ではミスしないんです!」って。
――えっ。どういうことでしょう?
小島さん:「注意されるからミスするんです。他の人はそんなに注意しません。でも小島さんは私に注意をするから、注意されると思うと怖くてミスをしちゃうんです」と。私は仕事でハラスメントの専門家に話を聞く機会もあったから、そうならない言い方で注意したつもりだったんですけど、彼女は怖かったんですね。その時、思わず脊髄反射で「何じゃいソレ!逆ギレかーい!?」と思ってしまった(笑)。すごく心外だったんですよ。でもよく考えたら、私と彼女の間には“権力の勾配”があったんですね。要するに、相手と対等だったら相手と自分の間の地面は平らなんですけど、どちらかに権力や権限・金銭的な力などがある場合、勾配が生まれて地面が傾く。で、立場が上の人が下の人に対して普通に取ったつもりの行動が、抑圧を与えてしまう。「はーい、どうぞ!」と緩くパスした球が、斜面をゴロゴロって落ちていって相手にはGがかかってバーンと当たる。学校を出て数年しか経ってない彼女にとってみたら、自分の母親くらいの年齢の、テレビに出ているタレントって超怖いんですよ。
――いくら丁寧に、優しく言ったつもりであっても。
小島さん:そうなんです。だから立場が上の人は、相手が怖い思いをしているかもしれないという前提に立って、下の人がものを言える環境を作ることが大事です。あとはたとえば自分の上司や同僚に「もしも部下が私とやりにくいと言っていたらすぐ教えてください、ちゃんと対応しますから」と話しておくとか。周りの人を巻き込んでおくことがひとつの方法だと思うんですよね。とはいえ実際にやりづらいって言われた時は、言われたほうはたいてい心外に感じるものです(笑)。一生懸命やっていたらやっぱり「なんで!?」って思うんですけど、基本的なこととして、まずは相手の言い分を聞くっていうことが大事。これまで日本では年功序列の習慣もあって、どんな立場であっても敬意をもって相手に接するってことを大事にしてこなかったと思うんですよ。敬語がある国なのにね。目上の人や外部の人にはものすごく礼儀正しくするのに、目下や内輪の相手に対するハラスメントは、野放しにされてきた。リスペクトって相手の存在を尊重することなので、好みや立場は関係ないんですよ。たとえその人のことがあまり好きじゃなくても、たとえ自分と共通点がなくても、敬意を払うってことなんです。相手は自分とは違う感じ方をするだろうし、異なる価値観を持っている。じゃあそれがどういうものなのかをちゃんと知ろう。否定せず、そういう見方もあるんだね、って一回は受け止めよう。それを誰に対しても同じようにする。相手が幼児でも、タクシーの運転手さんでも、恋人でも。上下関係を意識しすぎると、上司らしくしなくちゃと構えてしまいますよね。権力の勾配を自覚しつつ、リスペクトを大事にするのがいいと思います。すべての人と抱き合うくらいの大親友になる必要はないけれど、自分とは立場や意見の異なる人とも、お互いに嫌な思いをしないで安全に共存できるような工夫をするということ。そのためには、普段から誰に対しても敬意を持って会話することが大事だと思うんですね。
――すべての基本的な行動原理を自分が持っていれば迷わないですよね。人によって変えようとすると、難しいです。
小島さん:そうですね。自分を深く知ることは、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂性)の実現のためには不可欠だと思います。
【小島慶子さんのキャリア年表】
1995年:TBSにアナウンサー職で入社
2000年:仕事で出会った方と結婚
2003年:長男出産。産休育休を取得
2005年:次男出産。産休育休を取得
2010年:TBSを退社。フリーランスに
2014年:オーストラリアとの二拠点生活をスタート
小島慶子(Keiko Kojima)
エッセイスト、タレント。東京大学大学院情報学環客員研究員。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員、NPO法人キッズドアアドバイザー。執筆、講演、メディア出演など幅広く活躍し、夫と息子2人が暮らすオーストラリアと日本を行き来する生活を続けている。新刊対談集「おっさん社会が生きづらい」(PHP新書)他著書多数。雑誌「VERY」で小説連載も。
撮影/水野美隆 ヘアメーク/藤原羊二 スタイリング/荒木里実 取材補助/岩本亜有美 再構成/Bravoworks.Inc