自分の失敗に大笑いしたり、社会の不条理に怒ったり…この連載の意図にも共感してくださり、インタビュー最初から心を開いて真摯に答えてくれた、石橋静河さん。「いちいちつまづくタイプと」語る彼女の、これまでを聞きました。
子どもの時から、この仕事はしないと決めていました
両親が役者なこともあり、逆に意識してしまってこどもの頃からこの仕事はやりたくないと思っていました。誰かに聞かれたり、強要されたわけでもないのに、先手を打って「私はお芝居はやらない」と公言もしていて(笑)。そんな感じで幼少期から気難しいこどもで、自分でも周りを困らせているなと感じることも多々ありました。さすがにこのままではマズい、と思ったのは中2の頃。15歳でボストンへ単身バレエ留学しました。その後、プロのダンサーを目指してカナダに拠点を移し、さらに2年間留学。帰国後は、コンテンポラリーダンサーとして自主公演などに参加をしていたのですが、舞台に立つ機会は少ないし、ごはんも食べていけないし…。常に精神的にのどが渇いている感覚でした。その頃初めてきちんと邦画を観るようになり、こんなに面白い作品や人が存在するんだと知って。自分もこの現場に行きたいと思ったのが、お芝居を始めたきっかけのひとつ。特に黒澤明監督の『生きる』は、ちょっとした目の動きや視線だけでも絶望や悲しみを伝えられるんだ、という発見と衝撃があり、もっと深くその世界を知りたいと思った作品です。そしてもうひとつのきっかけは、カナダ留学時の恩師の言葉。「ダンスは身体表現だけど、お芝居だって右の眉だけ動かしたり、微笑んだり、身体をコントロールするパフォーマンスのひとつ。お芝居だから、ダンスだから、と縛られて考えなくてもいいんじゃない?」と言ってくれたんです。「お芝居はやらない」と自分の中で勝手に作ったわだかまりを先生は見抜いていたんですよね。約7年経った今「役者になったら、ああ言われる、こう言われる」という思い込みを乗り越えられてよかったな、と確実に思います。この仕事を始めてからは自分の人生が動き始めた気がするし、それぞれ違う視点から作品に関わる人や、そのほかにも多くの人との出会いもあって。それってとっても幸せなことですよね。
PROFILE・石橋静河さん
1994年生まれ。東京都出身。2015年の舞台『銀河鉄道の夜2015』で俳優デビュー。初主演作映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』では、第60回ブルーリボン賞新人賞ほか多数受賞。以来、映画『あのこは貴族』『前科者』、舞台『近松心中物語』、ドラマ『東京ラブストーリー』『大豆田とわ子と三人の元夫』など、幅広く活躍。現在は、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に静御前役で出演中。
撮影/YUJI TAKEUCHI〈BALLPARK〉ヘアメーク/森ユキオ(ROI)スタイリスト/児嶋里美 取材/坂本結香 再構成/Bravoworks.Inc