斎藤工さん演じるエリート男子が妊娠するという設定が話題のNetflixシリーズ『ヒヤマケンタロウの妊娠』。パートナーを演じる上野樹里さんとのインタビュー後編では、久しぶりの共演となったお互いの印象や30代の働き方についてお聞きしました。
――今作で共演する前のお互いの印象と、共演してからの印象を教えてください。
斎藤「僕が初めてNHK大河ドラマに参加させてもらったのが、上野さん主演の『江〜姫たちの戦国〜』だったんです。僕は水川あさみさん演じる江の姉・初の夫、京極高次役で上野さんとのシーンはあまりなかったんですが、大河ドラマを背負っている上野さんの姿を見て『これを背負ってるのか!』っていう…目には見えないとんでもなく筋肉隆々な背中に壮大さを感じて、『すげえな』って圧倒的なものを感じていました。今作では僕の衣装合わせがお腹の造形も含めて半日くらいかかったんですが、上野さんはさらに時間をかけてご自身でも衣装を借りに行ったり何度も亜季のルックに言及されていて、徹底的に亜季と向き合っていることがその場にいなくとも漂ってきて――。すごく頼もしかったですし、実際に対峙した亜季が時折見せる男性・性に影響されて、桧山の女性・性を芽生えさせてもらった。桧山は結構、軸があるようでない男なので、上野さんがパートナーの亜季を演じてくれたからこそ、あのヒヤマケンタロウになれた。感謝しかないです」
上野「いえいえ。そう言っていただけてありがたいです。斎藤さんとの最初の共演はNHK大河ドラマでしたが、その後に出演したドラマ『グッド・ドクター』で応急処置の仕方とかを参考にさせていただいたのは、斎藤さんが主演されていたドラマの『最上の命医』でした。他にも斎藤さんの出演作品はNetflixで『昼顔』を見ていて、ワンシーンワンシーンとても丁寧に紡がれているなと感じていて。『ヒヤマケンタロウの妊娠』はコミカルだけどヒューマンドラマでありラブストーリーでもあると思っていたし、命をテーマにしているのでリアリティを失って軽いタッチになりすぎてもよくない。でも斎藤さんが桧山を演じられるんだっていうところで安心感がありました。この作品はちゃんと丁寧に作っていけば面白くなる。パートナーの亜季として作品に広がりが出るように演じなければと思いました。今作ではしっかり準備する時間もありましたし、自分ではその過程が楽しかったですね」
――実際に、斎藤さんと共演していかがでしたか?
上野「桧山のような、モテモテで遊び人というイメージはなかったですね(笑)。でも桧山は一方で、広告代理店のエリートという、クリエイティビティを評価される才能があったり、常に新しいものに敏感で、新しいものを生み出すセンスのある人物。そこに関しては斎藤さんは実際、映像作品を作られているのでリアリティを感じましたし、桧山が命を宿してからラストに向けてのストーリーの中でも、桧山の心の中で起こる様々な変化を、柔軟に且つ丁寧に咀嚼して未来を紡ぎ出そうとする姿勢は、斎藤さんだからこそ深みと温かさをもって描かれたのではないかと思います」
――斎藤さんとの印象的なエピソードはありましたか?
上野「現場で面白いことがあると、斎藤さんは『あの作品の○○みたいだね』とか『これはあの作品の○○だな』って作品の名前をポンポン出して突っ込みを入れるんです。私にはわからなくてもスタッフの人たちが笑ってるので、とにかく膨大な量の作品が頭の中に記憶されてる(笑)! そして勉強熱心を超えて、心から映像作品を愛している方だなぁと感じたので、オススメの映画のお話なんかを共にし合えるようなお友達になってもらえたら最高に楽しいだろうな、と思いました(笑)」
――斎藤さんに伺います。もし選べるとしたら、妊娠・出産してみたいですか?
斎藤「(前編で)お話しした通り、染色体だけの話で言えば生命体としては種を繫栄できることが優秀であるとされるなか、疑似体験ながら妊娠・出産に尊さを感じました。3話以降では小さい命との向き合いが描かれていくんですが、その撮影ではフィクションがノンフィクションになるような感覚がありましたから。撮影に参加してくれた小さな命たちがもう本当のわが子のように愛しくて(笑)。抱きしめると伝わってくるんですよね。体温というコミュニケーションのやり取りということでは、父親の立場とは違うかもしれないと思うような…要は母性が芽生えたのですごく興味がありますね」
――斎藤さんが演じた広告代理店勤務の桧山や上野さんが演じたフリーライターの亜季にとって、30代での妊娠はキャリアの足かせになっています。お二人はその状況をどう感じましたか?
斎藤「僕自身の環境で言うと、映像の現場で働く女性がお母さんになるということで現場から事実上の卒業をしたり、お父さんになる方が子供にまったく会えなかったり…。職場という社会と育児との乖離をすごく感じています。その根源って何だろうと考えると、現場に対する遠慮だったり我慢だったり古き悪しき精神論だったりするのかなと思うので、今作が『これ、おかしくない?』って思えるきっかけになればいいなと。今は、リモートを活用すれば都心にオフィスを構える必要はないってやっと気づいたり、打合せが減ったり(笑)、効率も含めていろんなものが改正されるべき時期にあるのかな。キャリアとどう折り合いをつけるかという議題が出てくること自体、問題なんじゃないかとも思います。『海外では』って海外志向みたいに言ってしまうけど、自主性を担保されたユニオンがしっかりしている諸外国の現場システムを見ていると、プライベートと仕事が人道的に両立されるように組まれているんですよね。それはクリエイティビティにも直結するとすごく思います。キャリアと育児が乖離している日本の現場がどうにかならないかなってずっと思っていたので、自分としては運命的なタイミングで今作に出会えました」
上野「『働くために生きるのではなく、生きるために働くんだ』って言葉があって――。働くために生きるとなると『子供産んでもすぐ復帰しなきゃ』とか『今は結婚してる場合じゃない』とか『子供を産んでる場合じゃない』とか、〝今は仕事だ〟っていうふうになってしまう。でも生きるために働くのなら、『自分らしく生きるために今は仕事がしたい。でも子供もちゃんと産みたい』、『生きていくために働きもするけど、やりたいことをやっていくんだ』っていう考え方になる。そこをはき違えると、自分が見えなくなるし自分の近くにいる人も見えなくなってしまう。自分は何をやりたいのか、そこは見失いたくないなと思います。忙しく働いているとあっという間に時間って過ぎていっちゃうから、日々、自分を大切に生きていかないと折り合いがつかなくなる。自分を大事にしていかなければと思います」
斎藤工
‘81年8月22日生まれ 東京都出身 血液型A型●’01年に俳優として活動開始。主演映画『シン・ウルトラマン』が5月13日(金)公開。写真家、映画監督としても活動し、‘18年の長編初監督作『blank13』で国内外の映画祭で8冠受賞。監督長編最新作 映画『スイート・マイホーム』(主演:窪田正孝)が‘23年公開予定。移動映画館「cinéma bird」の主宰や「MiniTheaterPark」の活動など多岐にわたって活躍している。
上野樹里
‘86年5月25日生まれ 兵庫県出身 血液型A型●’02年に女優デビュー。主な出演作品は映画『お父さんと伊藤さん』、ドラマ&映画『のだめカンタービレ』シリーズ、NHK大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』、ドラマ『テセウスの船』『監察医 朝顔』シリーズなど。主演ドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系/毎週火曜22時~)が放送中。
Netflixシリーズ『ヒヤマケンタロウの妊娠』
舞台はすべての男性が妊娠・出産する可能性がある世界。広告代理店の第一線で仕事をバリバリこなすエリートの桧山健太郎(斎藤工)は、ある日、自分が妊娠していることを知る。パートナーの瀬戸亜季(上野樹里)も自分が親になることは考えていなかったため、規定外の出来事に二人は戸惑う…。現代の妊娠・出産にまつわる問題を浮き彫りにした、社会派コメディドラマ。原作/坂井恵理「ヒヤマケンタロウの妊娠」(講談社「BE LOVE KC」所載)●4月21日(木)Netflixにて全世界同時独占配信 www.netflix.com/ヒヤマケンタロウの妊娠
©️坂井恵理・講談社/©️テレビ東京
撮影/平井敬治 スタイリング/三田真一 (KiKi inc.)<斎藤さん>、岡本純子<上野さん> ヘアメーク/赤塚修二(メーキャップルーム)<斎藤さん>、ヘア/Shotaro (SENSE OF HUMOUR) メーク/Sada Ito for NARS cosmetics (donna)<上野さん> 取材・文/駿河良美 構成/中畑有理(CLASSY.編集室)
ジャケット¥292,600シャツ¥108,900パンツ ¥162,800(すべてTHE ROW/THE ROW JAPAN︎ 03-4400-2656) <斎藤さん> トップス¥52,800スカート¥63,800(ともにロキト/アルピニスム 03-6416-8845)<上野さん>