すべての男性が妊娠・出産することもある世界で、斎藤工さん演じるエリート男子が妊娠するというNetflixシリーズ『ヒヤマケンタロウの妊娠』。パートナーの亜季を演じる上野樹里さんとともに、2回にわたってお二人のインタビューをお届けします。前編では大きな話題を呼んでいる今回の作品についてお話を伺いました。
――モテモテのエリート・ヒヤマケンタロウがまさかの妊娠!という今回の作品。オファーが来た時の率直な感想と脚本を読んだ感想をお聞かせください。
斎藤「僕は以前にドラマ『昼顔』で昆虫を研究する先生の役を演じまして…上野さんは『朝顔』ですけど(笑)。そのとき昆虫の生態系について勉強したら、昆虫は人間よりずっと進化を繰り返していてより子孫繁栄できるように両性具有が多いんです。人間も染色体だけの観点から見れば、男性は〝女性になり損ねた〟なんてとらえ方もできるみたいで……」
上野「だから乳首とか残ってるって言うよね」
斎藤「そうなんですよ。昆虫は女性・性が主になって種の繫栄という明確なミッションに向かっているというのを学んだので、人間も実際にそうなるんじゃないかって思って。今作の世界線も実は事例があるんじゃないかって調べたら、トランスジェンダーの方が〝男性として〟妊娠された事例はあったんですね。そういう流れも含めて、本作自体はフィクションではありますが、もしかしたら遠い未来にすべての男性が妊娠することがデフォルトになってる可能性もあるんじゃないかと思いました。脚本は今の時代にアップデートされているし、脚本チームの方々、監督、キャスト含め、僕にとっては日本映画における銀河系スターの集まりのような方々がこの作品を支えているということに興奮を覚えました」
上野「私はまずNetflixに興味がありました。このコロナ禍でたくさんの方がNetflixに入会したと思うんですが、私もそのうちの一人です(笑)。ちょうどNetflixのお仕事がしたいなあと思っていたときに今作のヒロインを探してるという話を聞いて、ぜひやらせていただきたいということで出演が決まりました。タイミングが合って亜季と出会えたんです。作品のテイストも実験的で自分がどんな姿で映っていくんだろうというのが楽しみだったし、男女の立場が逆転したような設定も斬新で、でも共感できるところが結構あって――。今だからこそやるべき作品であり、今の自分の年齢で今の人たちに向けて発信したい作品だと思いました」
――斎藤さんに伺います。桧山のお腹は妊娠週数に合わせてリアルに再現されているとか。妊娠した男性を演じた感想はいかがですか?
斎藤「もしもすべての男性が妊娠する可能性があったらという仮定のもとに、その工程をプロフェッショナルな特殊造形チームと一緒に作らせてもらえたことで、役柄に向かうヒントをたくさんいただいた気がします。メタボリック的に肥えたお腹周りやポッコリお腹が出っ張った男性とは明らかに違う、命を宿しているんだっていうフォルムと重さを監督やスタッフの皆さんと創意工夫で作れました。僕にとってはそこから始まったなという感じがします。役を作るってことは、そこに実体があるとどれだけ想起できるかということなのかなと思ったし、情報が頭に入ってるだけじゃなく実体を感じることなんだなと改めて学びました」
――今作では妊娠した男性とそのパートナーという今までにない役を演じたことで、役とはいえ大変だな、辛いなあと思ったところはありますか?
斎藤「桧山の経験ではないんですが、物語のなかで同じく妊娠している同志のような男性が救急搬送されるというのは僕にとっては大きなドラマでした。みんながみんな生を受けられることではないという…。無事に生まれてくることの奇蹟を痛感しましたし、自分はどう居ればいいのか…妊娠した男性たちの結束が強いからこそ、一喜一憂する流れになかなか心がついていかなかったですね」
上野「私は理解者がいない状態っていうのは辛いなあと思いました。亜季は桧山のつわりや苦しみを目の前であまり見てないせいか、結構ドライな感じだったから桧山は辛かったんじゃないかな。また男性が妊娠しているということで周りから理解されずに偏見の目で見られたり、子供がイジメにあったり。理解がない、助けてくれない環境というのは、どんな立場の人でも大変だなあと思う瞬間はありました」
――今作で伝えたいメッセージはありますか?
斎藤「作品をどうとらえていただくかは個人差があってしかるべきと思いますが、基本的に笑える作品だってことが僕はすごく大事だなと思っていて。『社会問題をうたってます!』みたいになってしまうと、届くはずだったところにも届かなくなってしまう。〝社会派〟みたいな額縁にはめ込んでしまわないところが、個人的にこの作品の好きなところです。コミカルで見やすくてちょっと変てこな設定の作品だからこそ、個々に感じてもらったものが見てくれる方の個性と日常にいかされるんじゃないかなって。見てくれた方のライフスタイルに何かがヒットしてくれたんだってことを、配信された後に知ることができるんじゃないかって期待しております」
上野「桧山みたいに男性が妊娠するっていう設定が現実になるかはさておき、それだけ妊娠って体に大変な変化があって、そのなかで仕事をこなして子育てするのはすごく大変なことなんだっていうことを夫婦やカップル、友達と見て知っていただければ。亜季みたいなキャリア志向だった人でも育てていけるし、モテ男だった桧山みたいな人でもいざ子供が生まれたらすごく家庭的になったりするから前向きに考えてほしいです。亜季と桧山は子供によって成長させられたと思います。今作では温かさみたいなものも感じてもらえると思うし、現代社会の歪みというか、命っていうものとかけ離れた世界で生きている違和感みたいなものも感じていただければと思います」
斎藤工
‘81年8月22日生まれ 東京都出身 血液型A型●’01年に俳優として活動開始。主演映画『シン・ウルトラマン』が5月13日(金)公開。写真家、映画監督としても活動し、‘18年の長編初監督作『blank13』で国内外の映画祭で8冠受賞。監督長編最新作 映画『スイート・マイホーム』(主演:窪田正孝)が‘23年公開予定。移動映画館「cinéma bird」の主宰や「MiniTheaterPark」の活動など多岐にわたって活躍している。
上野樹里
‘86年5月25日生まれ 兵庫県出身 血液型A型●’02年に女優デビュー。主な出演作品は映画『お父さんと伊藤さん』、ドラマ&映画『のだめカンタービレ』シリーズ、NHK大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』、ドラマ『テセウスの船』『監察医 朝顔』シリーズなど。主演ドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系/毎週火曜22時~)が放送中。
Netflixオリジナル『ヒヤマケンタロウの妊娠』
舞台はすべての男性が妊娠・出産する可能性がある世界。広告代理店の第一線で仕事をバリバリこなすエリートの桧山健太郎(斎藤工)は、ある日、自分が妊娠していることを知る。パートナーの瀬戸亜季(上野樹里)も自分が親になることは考えていなかったため、規定外の出来事に二人は戸惑う…。現代の妊娠・出産にまつわる問題を浮き彫りにした、社会派コメディドラマ。原作/坂井恵理「ヒヤマケンタロウの妊娠」(講談社「BE LOVE KC」所載)●4月21日(木)Netflixにて全世界同時独占配信 www.netflix.com/ヒヤマケンタロウの妊娠
©️坂井恵理・講談社/©️テレビ東京
撮影/平井敬治 スタイリング/三田真一 (KiKi inc.)<斎藤さん>、岡本純子<上野さん> ヘアメーク/赤塚修二(メーキャップルーム)<斎藤さん>、ヘア/Shotaro (SENSE OF HUMOUR) メーク/Sada Ito for NARS cosmetics (donna)<上野さん> 取材・文/駿河良美 構成/中畑有理(CLASSY.編集室)
ジャケット¥292,600シャツ¥108,900パンツ ¥162,800(すべてTHE ROW/THE ROW JAPAN︎ 03-4400-2656) <斎藤さん> トップス¥52,800スカート¥63,800(ともにロキト/アルピニスム 03-6416-8845)<上野さん>