【佐々木蔵之介さんインタビュー】「稽古初日の翌朝は絶望しました(笑)」

ドラマ『和田家の男たち』でのスマートな報道プロデューサー役も記憶に新しい佐々木蔵之介さん。ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍する佐々木さんが舞台『冬のライオン』に主演。インタビュー前編では“ザ・老害”のような国王・ヘンリー二世を演じる今回の舞台のお話を中心に伺いました。

――’66年の初演

――’66年の初演以来、映画化もされ世界の名優たちが演じてきたという名作。愛と憎しみと欲望が渦巻く家族劇ということですが、オファーを受けた時の思いは?

「演出の森(新太郎)さんは、この戯曲を『コメディとして読んでます』って言わはったんですね。僕はこの作品を知らなくて、イギリスの難しい歴史劇かなと思いきや、実際戯曲を読んだら意外にセリフが笑えるやんって。これはオモロくやれそうだなと」

――稽古の様子はいかがですか? すでに手応えはありますか?

「僕ね(苦笑)…立ち稽古の初日は、僕と()わかなちゃんだけの第一場を4時間くらいぶっ通しでやって、それで終わったんですよ。他のキャストたちはみんな二人だけのシーンを見ていて、『今日、8回公演くらいやってますね』って()。翌朝は5時くらいに目が覚めてしまったんですが、ちょっと声枯れていて…絶望の朝でしたよ(苦笑)。これが続くのか、と思いましたね。『あーそうだ、森演出ってこれでした』って思い出しました。森さんとは『BENT』という舞台もご一緒しましたが、粘り強く、繰り返し繰り返し稽古しますからね。本当によくやるなって。今も充実してます。ここまで充実しなくてもいいってくらい、よくやっていますね()

――佐々木さんが演じるのはイン

――佐々木さんが演じるのはイングランド国王ヘンリー二世。どんな役でしょうか。

「パワフルな役ですね。相手のことはお構いなしで、己のおもむくままに突き進むから周りは仕方なく巻き込まれていく。言ってみたら“ザ・老害”のようなオヤジですね()。ヘンリーはイングランドとフランスの半分を統治した国王で、劇中ではちょうど50歳。ト書きには“老衰の始まる直前に精神的にも肉体的にも活力が急上昇して、それを楽しんでる”と書いてあるんですね。権力を持った絶好調の無邪気なおっさんというすごい迷惑な男で()。でも実際に力はあるし頭も回るから、家族の誰にも何も譲らず手放さない。結果、家族みんなで容赦のない闘いが繰り広げられるのですが、それが激しすぎて逆に笑える。ヘンリーの好き放題な振る舞いがある意味チャーミングな感じに作れたらなって思ってます。やり合うにもユーモアを持って闘っているので、特に妻のエレノア役の高畑(淳子)さんとのやり取りは夫婦漫才みたいな掛け合いで笑えます」

――高畑さんとの関係はすでにいい感じですか?

「ははは()。ヘンリーもパワフルですけど、高畑さんが演じるエレノアのお母さんがね(苦笑)。あの母のパワフルさには圧倒されます。高畑さんは本当に面白い。ゴージャスですし、明るいですし。お互いにテンポや間合いみたいなことを楽しみながら作れてるなと思います」

――佐々木さんご自身が、こんなところはヘンリーに似てるなと思う点はありますか?

「どうでしょう()。まあ領土も軍隊も持ってないけれど、ヘンリーは50歳、僕は54歳なので年齢は近いなと。森さんから『今、この作品をやるのがいいんじゃないか』って勧められた作品ですが、僕はこんなしんどい思いはしたくないな。渡せるものは渡したいと思うんですけど。しかもクリスマスに敵を全員、城に呼んでるみたいな…。そんな疲れること…(苦笑)。『そんなことわざわざクリスマスにやらんでもいいやん、もっと美味しく酒飲もうよ』って僕は思いますけど、この作品をやるって言った時点で『僕もそういうタイプなんかな。このしんどい舞台を結局はやるんか』ってところでは似たところを感じてますね。わざわざ、こんなしんどいものをやろうという()

――翻訳作品である今作は歴史も

――翻訳作品である今作は歴史ものでもあり、セリフも現代では聞き慣れない言葉使いですが、舞台初心者向けに楽しむコツを教えてください。

「ヘンリー二世が主人公ということで難しい歴史劇みたいに思われるかもしれませんが、実在の人物ではあるけれど史実に忠実に作っているわけではないので、観る前にヨーロッパ史のお勉強などはまったく必要ないと思います。高貴な家族がこんだけあからさまに争うのを観て笑う。お金とか領地とか名誉とか権力を持った人たちが、欲にむき出しで容赦なく配慮ない言葉を使って闘うのが笑えます。これはお楽しみなんですが、1183年の話ではあるけれど舞台とか衣装とかは『そんな感じでやるの?』ってふうになってます。セリフの言葉使いは現代とは違いますけど『そんなふうに演出するのか』っていう感じで、今っぽい感覚で見られると思います」

――今作に出演することで佐々木さんが楽しみにしていることは?

「最近ちょっと、王様役が続いてるんですよね。『リチャード三世』やって、この前は『君子無朋(くんしにともなし)』で皇帝やって、合間に殿様も挟んだりしていますが。今回は、このやんちゃな王様を思いっきり楽しみたいと思います」

佐々木蔵之介

6824日生まれ 京都府出身 血液型O型●神戸大学農学部卒。在学中に劇団「惑星ピスタチオ」の旗揚げに参加。’98年退団後に上京し舞台、ドラマ、映画に活躍。最近の主な出演作は、ドラマ『「麒麟がくる』『IP〜サイバー捜査班』『和田家の男たち』、映画『嘘八百 京町ロワイヤル』『科捜研の女劇場版』、Amazon Original 映画『HOME STAY』、舞台『ゲゲゲの先生へ』など。映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』が617日に、『峠 最後のサムライ』が’22年公開予定。

冬のライオン

66年にブロードウエイで初演以来、映画やドラマ化され、日本でも上演された名作。英国王ヘンリー二世とその家族による愛と憎しみと欲望の人間ドラマ。跡目争い、領土紛争、王妃と若き愛妾との確執…今日こそ決着をつけようとクリスマスに一同が集まる。出演/佐々木蔵之介 / 葵わかな 加藤和樹 水田航生 永島敬三 浅利陽介 / 高畑淳子 作/ジェームズ・ゴールドマン 翻訳/小田島雄志 演出/森 新太郎 ●226()315()東京芸術劇場プレイハウス https://www.thelioninwinter.jp/

撮影/木村 敦 スタイリング/勝見宜人(Koa Hole inc.) 取材・文/駿河良美 構成/中畑有理(CLASSY.編集室)

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最新号 202411月号

9月28日発売/
表紙モデル:今田美桜

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