連続テレビ小説『ひよっこ』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』、ドラマ『義母と娘のブルース』『俺の家の話』など多くの作品に出演し、独特の存在感を放つ俳優の井之脇海さん。1月14日(金)よりAmazon Prime Videoで配信されているドラマ『失恋めし』では、広瀬アリスさん演じる主人公がほんのり恋心を抱く花屋の青年役を、持ち前の空気感で好演しています。26歳を迎え、これからますますの活躍が期待される井之脇さんが描くこれからの未来とは? 20代前半を振り返りつつ、今後の展望を語っていただきました。
30歳に向けて目指すのは「無駄なことを楽しめる」大人
–26歳を迎え、20代も後半戦に入りました。20代前半を振り返ってみて、どんな5年間でしたか?
変化がたくさんあった5年間だったなと思います。大学生から社会人になったり、今の事務所にも20歳の時に所属しましたし、いろんな環境が変わった中でどう順応していくか、どう変化していけるかというのをここ5年間はがむしゃらに取り組んできたと思います。
–ここから30歳に向けて、理想とする姿やイメージはありますか?
無駄なことを楽しめるようになりたいですね。今までの僕は余裕があまり無くて、目の前のことにとにかくがむしゃらに取り組んできたので、これからはちょっとした無駄であったり意味の無いようなことも…まあ、それって結局意味があると思うんですけど、それを楽しめる30歳になれたらいいなと思います。
–理想の大人像、と言われて思い浮かぶのは?
たくさんいらっしゃいますけど…一番印象に残ってるのは大杉漣さん。僕は昔エキストラをやっていて、3年間くらい年150本出演するくらいのフル稼働で。そのエキストラ出演時に唯一、大杉さんはエキストラの待機部屋まで来てくれて「今日は1日よろしくお願いいたします」って言ってくださったんです。撮影を上がるときも「お先失礼します、寒いけど頑張ってください」って言ってくださったんですよ。そのエピソードがすごく心に残っていて。そういう大人になりたいなと思います。
染谷将太くんの演技に“圧倒的敗北感”を感じて変わったこと
–26歳にして芸歴は16年とかなり長いですが、今までの俳優人生においてここが転機になったなと思う出来事はありますか?
僕の環境が変わったひとつのきっかけは「トウキョウソナタ」という作品に出演したこと。12歳のとき、黒沢清さんが監督でした。正直、当時の僕は“甘ちゃん”で、習い事の延長線のような感覚で芝居の現場に行っていたんです。でも、共演者の皆さんもスタッフさんも本当にプロで、そんな環境に置かれたことで「もっとちゃんとやらなければ」「役者を極めたい」と思うようになりました。この作品に出演したことで、「『トウキョウソナタ』に出ていた子だ」って世間から認知されるようになったのも大きいですね。
そこからもう一段マインドが変わったなと思うのは、TBSで三夜連続で放送された「ブラックボード」というドラマ。17歳の頃ですね。そこで染谷将太さんと志田未来さんとずっと三人でお芝居をして、圧倒的敗北感といいますか…年齢が近かったり、同世代だったりの2人のすごさを思い知って。とくに染谷くんの演技にはすごく影響されて、負けてられない悔しいと思って、そこも一つ僕にとっては大きな転機でしたね。
同世代の活躍は気になるけれど…“僕にしかできないお芝居”を頑張りたい
–それまではあまり悔しい気持ちになることがなかったんでしょうか?
きっと自分の芝居とちゃんと向き合ってなかったんですよね。今思えばすごく失礼ですけど、なんとなくやって、それで「できている」と思ってたんですよ。染谷くんと一緒の現場になったことは、僕は芝居ができないんだ、もっと頑張らなきゃいけないんだって思わせてくれるきっかけで、本当に良い出会いだったと感じています。
–仕事をしていく上で、悔しい思いをするって大事ですよね。
それの繰り返しですよね。自分の思い描いたことができなかったり、逆に自分ができたと思ったことが全然通用していなかったり、同世代の役者さんたちが活躍する姿を見たりとか。一緒にお芝居する中で自分に持ってないものを持っている人がたくさんいて、そこには常にジェラシーと言いますか…敗北感とは違うかもしれないですけどいい刺激をもらっていますね。同世代で活躍している俳優さんたちがとても多いですけど、彼らに負けないように“僕にしかできないお芝居”を頑張りたいなと。
役の人生を背負って演じる---長い俳優人生で見つけた信念
–では、同世代の俳優さんでライバルを挙げるなら?
同い年なので、いつもティモシー・シャラメって答えているんですけど(笑)。もっとリアルに、ライバルというかいい刺激を常にもらえる存在でいうと、俳優の寛一郎くんですね。寛一郎くんは僕が同世代で初めて心を開いて深いところまで話すことができた役者さんです。コロナ禍でこのところ全然会えていないんですけど、彼の活躍を耳にするといい刺激になりますし、負けてらんないなって思います。
––お仕事をする上で大事にしていることや信念はありますか?
ひとつ大きなテーマとして意識しているのは、それぞれの役の人生に責任を持つということ。これは絶対曲げちゃいけないなと思っていて。これを説明する時によくお話しするんですけど、たとえば僕の伝記映画ができたとして、映画なんできっと2時間、長くても3時間の世界で描かれるわけじゃないですか。でも、その2時間は、僕が今まで26年生きてきた上での2時間なんです。もし誰かが僕を演じるとして、映画の中の人生しか責任を背負ってくれないのは嫌というか、ちゃんとそこに流れる時間、そこに至るまでの26年を、体験することはできなくても、想像したり責任をもってお芝居をしてほしいなと思うんです。だから、僕は常にその意識を大事にしたいし、たとえト書き一行の役でも、役の人生を背負えるだけ背負って演じたいんです。
実は結構シャイで…井之脇さんが撮影現場でしていること
–今回出演するドラマ『失恋めし』で演じた花屋の青年には、どんな人生があったと想像しましたか?
なんとなくですけど、生年月日とか本当の名前とか全部考えました。エピソードでいうと、劇中に“高校生の頃に手痛い失恋をした”っていう部分がちょこっと描かれるんですけど、そのエピソードからイメージを膨らませて、その後にもう二人くらい好きになった人がいたんだろうな…とか想像しました。結構妄想に近いんですけどね(笑)。あとは、一人っ子設定にしていました。僕も一人っ子なんですけど、自分と近い部分を持っている人として演じたくて。優しい両親に愛されてぬくぬくと育ってきて、きっと今まで親と喧嘩なんてしたことなかった子が、たった一回親と喧嘩をして家を飛び出して、単身この町に迷い込んで花屋でバイトしてるんだろうな、みたいな。
–そういう役への作り込みは作品に入る前にすることが多いのですか?
もちろん前にもしますけど、現場でもしますね。現場って空き時間も結構多くて、俳優って待つのも仕事だと思うんです。じゃあ待ってる間に俳優が何をすべきかというと、役のことを考えたり、他のキャストの方と距離を縮めたりというのが大事だと思うんですよ。でも僕は、他のキャストの方と距離を縮めるのがあんまり得意ではないので…シャイなんですよね、自分でシャイっていうのもおかしいんですけど(笑)。なので、現場の空き時間に妄想してることが多いですね。『失恋めし』の現場でも、演じる役の人となりとか、今までに経験してきたエピソードを役と絡めたりとか、一人で妄想してることが多かったです。
©木丸みさき・KADOKAWA/ytv
ドラマ「失恋めし」1月14日(金)よりAmazon Prime Videoにて独占配信!
広瀬アリスが主演し、木丸みさき氏のコミックエッセイを原案としたドラマ「失恋めし」は、全10話で紡がれる“おいしい失恋ドラマ”。広瀬演じる主人公・キミマルミキは、地元紙に“失恋めし”というマンガ連載を持ち、日々連載のネタとなる失恋エピソードを探しているイラストレーター。各話ごとに登場する失恋した人には、忘れられない思い出の味があるという設定で、その味をミキとともに味わいながら“失恋エピソード”を語り始める—。撮影は実在の飲食店で敢行し、各話ごとに、その店の人気メニューが登場。井之脇海さんは、“ミキがほんのり恋心を抱く花屋の青年”を好演している。
撮影/永峰拓也 ヘアメーク/AMANO スタイリング/清水奈緒美 構成/宮島彰子(CLASSY.ONLINE編集室)