「年末年始の休み中に、観てはいけない映画」4選【理由はいろいろですが…】

今回は映画ソムリエであるライターが選ぶ、年末年始には観ないほうがいい映画を4本紹介します。どれもすべて良作ですが、年末年始に観ると、安らげなかったり、気持ちが荒ぶったり、心がざわつく映画がありますのでどうか気をつけて鑑賞を。アラサー世代におすすめの自己啓発できるデート映画もチョイスしているので、ぜひ最後まで読んでみてください。

1.『鑑定士と顔のない依頼人』

結末の是非にモヤっとし、新年から思いつめてしまいそう

美少女の絵画収集にいそしむ、今まで一度も恋愛をしたことがなかった美術品の天才鑑定士のおじさんが主人公。姿を見せない「現実の女性」からの謎めいた鑑定依頼に翻弄され、いつしか恋におちていきます。美少女の絵が好きな60歳の初恋…というだけで若干パンチが強めですが、その行く末を見守るとさらに驚愕の展開が待ち構えています。まず最初に言いますが、これは正真正銘の名作傑作映画です。しかし常々結末が「胸糞悪い感じなのか、ハッピーエンドなのか」も議論されがちの映画で、最初に鑑賞したときは、引きすぎるくらい凹みました。
あっけにとられて何も言えず、気持ちをどこに供養していいかわからなくなりましたが、考えれば考えるほどハッピーエンドにも思えてくる瞬間があったりします。もう5回ほど鑑賞しましたが、未だに結論づけられません。すなわち、究極にモヤモヤします。ブレがちな自分の心を反映しているかのようで、新年には向きません。
また「絶対に2回は観ないとわからない」としても名高い映画なので、その点もやはりモヤっとします。作品に仕掛けられたトリックは芸術的すぎて、拍手ものなのですが…。
主人公が美術品鑑定士なだけに、オークションや美術品を背景にした作品としての面白さにも触れられますし、主人公の自宅の壁面に飾られた100点以上の美女達の絵画がずらりと並んだ光景は映像で観ると、さらに圧巻!『ニュー・シネマ・パラダイス』の名匠、ジュゼッペ・トルナトーレ監督作品で、音楽を担当したのは映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネ。アートに触れたい夜に、ぜひ。

2.『ナイト・クローラー』

爽やかさとは無縁の映画なので、新年のおめでたさも吹っ飛ぶ

報道の自由と倫理の境界線は、どこの国でも議論に上がるテーマのようです。第87回アカデミー賞・脚本賞にノミネートされたジェイク・ギレンホール主演の、サイコ系夢追い人を題材にしたサスペンス。スクープの街LA、事件・仕事現場に急行して捉えた、いわゆる衝撃の映像をテレビ局に売る報道パパラッチのカメラマンとなった男が、刺激的な映像を求めるあまりに常軌を逸した行動に出て、周囲を凍らせていきます。
まず、ここまで目がギラついてるキャラクターは、なかなかいません…。断食5日目のハイエナのような瞳でスクープを追う、飢えた表情。基本的にジェイクの瞳孔が開いていて、その割に乾燥してる感じではなくテラテラと不気味に光っていて、むしろ鑑賞者がドライアイになりそうです。インタビューによりますと、9kg減量して、ほとんど瞬きをしないで、狂気の演技を極めたそうです。
そんなこんなで爽やかな気持ちで迎えたい新年には、やはり向かない印象です。とはいえ自分の仕事におけるモチベーションが下がり気味の時に見たら、マネしてはいけない方法ですが「成功したい欲」が伝播して、やる気が出る映画でもあります。巧みな言葉で人を誘い出す説得力と、ギャランティの交渉力、そしてフリーランスには必須なひとさじの厚かましさ。これらは現実的には、欲深さの濃度を薄めるべきですが、全く参考にならないとは言えないところがまた面白いです。

3.『永遠に美しく』

全体的に物騒な映画なので、ゆったり過ごしたい時期には不向き

永遠に美しくなるための秘訣が隠された映画かと思いきやそうではありません。「若く美しいまま永遠に生き続けたい!」という願望をもつ女が不老不死の薬を飲み、貪欲に虚栄心バキバキに生き続けようとする姿をコミカルに描いたブラック・コメディです。キャストは豪華で、メリル・ストリープとゴールディ・ホーンの華やかさが画面に華を添えますが、どちらも一癖も二癖もある性格です。監督は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『フォレスト・ガンプ/一期一会』などのヒットメーカー、ロバート・ゼメキスですが…こんな映画も撮ってたんですね。映像革命児との呼声も高いゼメキスだけに、VFX(デジタルでの映像加工)を多用し、アカデミー賞では視覚効果賞も獲得していますが、そのシーンが思ったよりもグロいです。
また美しくありたいのは万人の願いですが、その願いのせいで女たちが殴り合いの喧嘩になったり、親友に何度も男を取られてしまっているという不運な女が出てきたり、死に化粧を仕事にしている男が出てきたり、死なない薬を飲んだ主人公は階段から落ちて首が変な方向に向いてしまったまま、生きていたり。なんだか全体的に治安が悪い映画なので新年には不向きです。しかしながら意外にもメッセージは奥深くラストシーンで神父様が語る「永遠に青年でいる秘訣」は要注目。修理したり、崩れたものを無理に直して、少々不気味な顔で生きる女たちの姿を見ていると、ナチュラルメイクの美しさにも気づく、風変わりな面白映画です。

4.『ホリデイ』

見る時期は、ぜひ来年のクリスマス前にお願いします

何かを得れば何かを失うこともあるし、何かを失えば何かを得られる。これって、人生の真理ですよね。アメリカで2000年代に実際に流行した「住む家を交換する“ホーム・エクスチェンジ”」が舞台。彼女たちが自分自身を見つめ直し、解放され、1歩踏み出す様子を見事に描ききっており、「ラブコメって何も残らない!」という常識を真っ向から否定してくれるはず。LAの映画関連会社の女社長と、ロンドンの新聞社のライター。誰もが憧れる仕事をこなすものの、真実の愛だけは見つけられずクリスマス前に恋人と別れてしまった2人の女性がダブル主人公です。二人が「ホーム・エクスチェンジ」で出会い、普段の生活と異なる環境で2週間のクリスマス休暇を過ごすことになります。
見どころのひとつは、アメリカとイギリス、それぞれ異なる魅力をもつ家です。LAパートではプールやシアタールームつきのゴージャスな大豪邸、イギリスパートでは暖炉の日が暖かいこじんまりした可愛らしいメルヘンな石造りのコテージ。この「家紹介パート」が高揚感たっぷりで、イケメンとの胸キュンシーンよりも大いにときめきました。幾度となく「映画の中の素敵な家」として紹介され、真似したい家と呼ばれる部屋のインテリアを参考にするのも、楽しい見方です。大掃除や模様替えのモチベアップにもなるのですが、問題はクリスマス休暇を題材にした映画(大晦日のシーンはありますが)ということ。微妙に過ぎてしまった時期の映画って、出遅れ感を味わい、ちょっと切なくなるのは私だけでしょうか?心から推せる映画だからこそやっぱりクリスマス前に、この映画は観てもらいたいです。

いかがでしたか?「年末年始に観てはいけない映画たち」を映画ソムリエ・東紗友美がお届けしました。年末年始といえばやはり映画、皆様が素敵な映画時間を過ごせることを願っております。それでは、また来年!

この記事を執筆したのは 東 紗

この記事を執筆したのは
東 紗友美(ひがし さゆみ)
’86年、東京都生まれ。映画ソムリエ。元広告代理店勤務。日経新聞電子版他連載多数。映画コラムの執筆他、テレビやラジオに出演。また不定期でTSUTAYAのコーナー展開。映画関連イベントにゲスト登壇するなど多岐に活躍。
http://higashisayumi.net/
Instagram:@higashisayumi

※記事中のリンクから商品を購入すると、売上の一部がCLASSY.ONLINEに還元される場合があります。

Magazine

最新号 202412月号

10月28日発売/
表紙モデル:山本美月

Pickup