ジャニーズの歴史の始まりは野球チームだったって知っていましたか? 数々のアイドル、スターを生み出してきたジャニーズのヒストリーを舞台化した作品、『ABC座 ジャニーズ伝説2021』が好評のうちに幕を閉じました。A.B.C.-Zが演出、主演を務め7 MEN 侍、少年忍者といった新世代、さらに元光GENJIの佐藤アツヒロさんも出演した華やかなステージの模様を辛酸さんにレポートしていただきます。
後世に語り継ぎたい「ジャニーズ」の歴史
帝国劇場で開幕した「ABC座 ジャニーズ伝説2021 at Imperial Theatre」。初代「ジャニーズ」からはじまったジャニーズの歴史絵巻が展開される、ジャニーズへの感謝と尊敬が高まる舞台です。物語は「ジャニーズ」元メンバーのあおい輝彦のインタビューから始まりました。「あおいさんにとってジャニーズとは?」「キラキラ輝く青春の汗と涙」「ジャニーズに期待することは?」「世界でたった一つの素晴らしい個性を育てて、みんなをワクワクさせて勇気を与えてほしいね」といったメッセージが。声が太くてエネルギッシュで、ジャニーズ時代に充電したエネルギーが残っているのを感じます。演出・主演を務めるのはA.B.C-Zの5人(橋本良亮、戸塚祥太、河合郁人、五関晃一、塚田僚一)。7 MEN 侍に加え佐藤アツヒロも出演する、全世代に向けたアクロバティックで華やかな舞台です。
1幕では「初代ジャニーズ」のリアルなヒストリーが演じられました。佐藤アツヒロが登場し「伝説を伝説で終わらせないための物語……」とナビゲート。この伝説はA.B.C-Zによってこれまで度々演じられていて、後世に語り継ぐべき史実です。今回は佐藤アツヒロがアメリカの有名作曲家、バリー・デヴォーゾン役を演じたりと、かなり活躍しているのが元光GENJIファンとしてもうれしいです。
野球チームが「ジャニーズ」のはじまりの一歩
ジャニーズの「はじまりの一歩」は約半世紀前でした。野球の場面に変わると、ユニフォーム姿のメンズが練習しています。弱小の少年野球のチームで「ヘターズ」という名前で呼ばれていましたが、「監督、ヘターズじゃなくてかっこいい名前を付けてよ」とラップ調に直談判する男子たち。監督の名を取って「ジャニーズ」というチーム名に。ジャニーズの祖の誕生シーンに拍手が起こりました。その監督が実はジャニーさんで、オールバックにした戸塚祥太が演じています。そして「ジャニーズ」を結成したメンバーを演じているのが、他のA.B.C-Zの面々です。一瞬の早着替えや、筋肉量を感じさせるダンスに目が釘付けです。
雨が降って野球の練習ができないある日、「ジャニーズ」はジャニーさんから映画のチケットをもらい、「ウエスト・サイド・ストーリー」のパフォーマンスを観て感化されます。「野球もいいけどやってみる価値はある」(橋本演じるあおい輝彦)、「今日から君たちはエンターテインメントを目指す若者として生まれ変わるんだ」(ジャニーさん) 。直感ですぐに方向転換できるジャニーさんとメンバーがさすがです。「ジャニーさんってそんなとこあったよね」と懐かしむ7 MEN侍。皆さんの衣装は昭和ファッションを再現していて、シャツインとか微妙な中間色のコーディネートが一周回って可愛いです。
幻に終わった全米デビューの悔しさを追体験
展開はスピーディーで、「君たち、TV出演決めてきたよ」とジャニーさん。最初は木の実ナナのバックダンサーとしてでした(さすがに木の実ナナのゲスト出演はなかったです)。この時、ジャニーさんのプロデューサーとしての手腕が炸裂。わざとジャニーズ4人に照明が当たらないようにしてシルエットだけの出演にしたところ、逆に問い合わせの電話が殺到し話題性が高まったそうです。現在でもGReeeeNなどシルエット出演のミュージシャンがいますが、それを半世紀前にやっていたとは……。当時を再現した昭和なダンスが味わい深くてエモいです。
「ジャニーズ」はさらに躍進しアメリカで歌とダンスの修行に励み、レコーディングまで達成。A.B.C-Zメンバーが完璧なハーモニーで名曲の数々を表現していました。佐藤アツヒロ演じるバリー・デヴォーゾンがプロデュースした名曲が「Never my love」です。この曲で全米デビューも間近だと言われていたのが、なんと日本での仕事が入っていて帰国することに。メンバーはショックを受けますが、ジャニーさんに従います。タイミングが合わず、「Never my love」はアメリカの別のミュージシャンの曲としてリリースし、大ヒット。前回もこのストーリーをA.B.C-Zの舞台で観ましたが、観客が何度も初代ジャニーズの全米デビューの挫折を追体験し、悔しい気持ちをシェアすることで初代ジャニーズの思いも浮かばれることでしょう。ただ、もし初代がアメリカで成功したら、今のようなジャニーズ事務所になっていなかったかもしれません。そういう意味では日本に戻ってきてくれたのはよかったです。それでも全米デビューが幻に終わり、テンションが下がった「ジャニーズ」はその後解散してしまいます。「君たちの築いたものは宝物だよ」と、励ますジャニーさん。
怒涛の28曲メドレーでポジティブスパイラルに没入
後半は気分を一新しジャニーズの名曲メドレーです。なんと28曲を怒濤の勢いでノンストップ披露。A.B.C-Zの体力だからこそできる技です。Snow Man、NEWS、V6、嵐……と次々と曲が展開。スルーされた人やグループもいたようですが、初代ジャニーズからなにわ男子まで、選曲がマニアックでさすがでした。Kis-My-Ft2「SNOW DOMEの約束」、タッキー&翼 「Heartful Voice」、KinKi Kids「シンデレラ・クリスマス」など……ぜひSpotifyでプレイリストを出してほしいラインナップです。個人的に感動したのは、佐藤アツヒロがパフォーマンスした光GENJI。しかもローラースケートにまでのってくれて、30年前と変わらない姿(に見えました)のままスイスイ乗りこなしていたので涙腺が刺激されました。佐藤アツヒロは若さとイケメン度を保っていてA.B.C-Zに混ざっても違和感ないくらいでしたが……それは同年代のひいき目でしょうか。バラエティ番組で時々佐藤アツヒロと内海光司が当時の歌を熱唱しているので、ぜひ内海光司にも登場してほしかったところです。
とにかく、光GENJIの楽曲で女子中学生だった時代に年齢退行できました。他の曲に関しても、その年代の方々がそれぞれタイムスリップできたことでしょう。そして現在、活動しているグループの名曲を聴いて脈々と続くDNAの存在を実感。女性の心の受容体にハマるスペシャルな配列です。何よりメドレーをA.B.C-Zや7 MEN 侍が楽しそうに歌っていて、過去の初代ジャニーズが笑顔で歌っていた写真と重なります。メンバーも楽しくて観客も幸せという、win-winなポジティブスパイラルに没入できる舞台でした。A.B.C-Zの筋肉が放つドーパミンのポジティブな作用もあるのかもしれません……。
辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」(祥伝社文庫)、「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)など。