CLASSY.ONLINEでは、数回にわたり、「日本漢字能力検定(漢字検定)」の2020年度に実際に出題された過去問から「間違えやすい漢字」を紹介しています。これまでは「読み」の問題だけでしたが、主催者発表のデータによると、「読み」は正答率の最も高く、逆に最も低いのは「誤字訂正」です。今週はこれを取り上げます。
問1.
極細色の女子群像で知られる国宝の古墳壁画の劣化が顕著になり石室を解体して修復作業が行われた。
この文には、間違って使われている「同じ読み」の漢字が一字あります。それを指摘し、正しい漢字を答えてください。さて、わかりますか?
「群像」「顕著」「修復」あたりかな、と考えた人もいるでしょうか。間違っているのは、「極細色」で正しくは「極彩色」でした。
ところで、これを「キョクサイショク」と読んでいた人もいるのではないでしょうか。「極」の音読みは、「キョク」以外に「ゴク」があり、これは「呉音(最も古く日本に伝わった音)」で、「極上」「極楽」「極秘」などが「ゴク」と読む代表ですね。また、「色」の音読みは「ショク」以外に「シキ」があり、これも「呉音」で、「色彩」「色紙」「景色」などはこれで読んでいます。なお、「極彩色(ゴクサイシキ)」の意味は、「いくつものあざやかな色彩を用いた濃密ないろどり」のことです。
問2.
賃貸住宅の契約時に渡す敷金は賃料等の債務を探保する目的の金銭で、原則として退去時に返金される。
これも、疑わしい熟語が並んでいます。「賃貸」「債務」「退去」あたりが怪しい、とにらんだ人もいるでしょうか。
間違いは、「探保」。正しくは「担保」でした。この「担」と字形が似ている漢字に、「平坦な土地」とかに使う常用漢字外の「坦」がありますね。
「担保」とは、手元の辞書によると「債務者が債務を履行していない場合、その債務の弁済を確保する手段として債務者にあらかじめ提供しておくもの」とあります。法律用語だから難しい。ざっくり言えば、「お金を返せなくなった時のために、貸している人にあらかじめ渡しておくもの」でしょうか。
ところで、この「担保」ですが、最近は「教育の質を担保する」とか「公平性を担保する」とか、動詞として「担保する」という使い方をよく聞くようになりました。これは先の意味を少し離れて、「確保する」「保証する」という意味で使っています。ある意味、はやりの使い方というような気がします。
問3.
検察庁は、架空の在宅医療で診療報収を請求し約二千万円を搾取した医師らを詐欺などの罪で起訴した。
疑わしい熟語は「検察」「架空」「搾取」「詐欺」あたりでしょうか。
間違いは、「報収」が、正しくは「報酬」でした。「報酬(ホウシュウ)」とは、手元の辞書によれば「労力・尽力または物の使用の対価として給付される金品」のことですから、それを「収める」とすれば「収入」「領収」の「収」と書いてしまうのも何となくわかるような気がします。「酬」の字は、この「報酬」の他、「応酬」などでも使うように、金品に限らず「お返しする」時に使いますが、「お酒」を意味する部首であるように、「主人と客が酒杯のやりとりをする」ところから、この意味があります。
いかがでしたか?誤字が含まれているという前提で問題文を読むから気がつきますし、文書作成ソフトなら正しく変換してくれますが、手書きだったら実際にやりそうな間違いかもしれませんね。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「漢検過去問題集2級」(日本漢字能力検定協会)
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第七版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)