京本大我主演『ニュージーズ』観劇レポート|辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2020 vol.29
約1年半の延期を経て上演された、SixTONSE京本大我さん主演のディズニーミュージカル『ニュージーズ』。大好評のうちに幕を閉じたこの日本初上陸作品を辛酸なめ子さんがレビュー。高貴な王子様キャラのイメージのある京本さんの熱演ぶりをレポートします。
1年半の延期を経てついに上演された舞台「ニュージーズ」
日本初上陸のディズニー ミュージカル『ニュージーズ』が日生劇場で開幕。2020年5月に上演予定でしたがコロナ禍で延期になってしまい……でも延期になってしまったからこそ出演者の才能や気合いもブレイクスルーしてさらなる高みに到達していそうな予感です。
主演をつとめるのはSixTONESの京本大我。公式サイトには「人生最大のチャレンジと言っても過言ではない程、高く大きな壁を目の前に感じながら日々稽古してきました。『ニュージーズ』を知っている方からすれば、ジャックと僕のイメージはかけ離れていると思いますが、僕だからこそ演じられるジャックを必ず皆様にお届けしたいです(後略)」という京本大我のコメントが。
ガチのお坊ちゃま・京本大我が演じるのは…
京本大我が演じるのは、19世紀末のニューヨークの路上で新聞売りをする主人公のジャック。感化院出身で両親はおらず、貧しさゆえに盗みを働くこともあったという少年です。「ジャックと僕のイメージはかけ離れている」と本人が言っていますが、京本大我は小学校から高校の途中まで名門校に通い、高校では乗馬クラブに所属。20歳の誕生日に父親の京本政樹氏から車をプレゼントしてもらったというガチなお坊ちゃまで、気品が全身の毛穴からにじみ出ています。そんな貴公子が真逆の存在のジャックを演じるとは、感慨深いものがあります。
ちなみに「女性セブン」(21年10月21日号)の京本大我のインタビュー記事では「6年間、ひたすら泥団子をつくってた! 授業中も机の上で磨いていたくらい(笑)」「基本、物持ちがいいんです。高校生の頃に買ったTシャツも、今でも着てますよ」などと語っていて、意外と庶民的な一面も。泥団子との蜜月を思い出せば、泥まみれの服で労働するジャックの境遇に感情移入できそうです。
男らしさと透明感を併せ持つ歌声に魅了される
幕が開くと、つぎはぎだらけのデニムの上下をスギちゃん以上に大胆に着こなしたジャック(京本大我)と、友人のクラッチー(松岡広大)がニューヨークのビルの屋上に佇んでいました。ジャック(京本)は本職のミュージカル俳優のようなエモーショナルな歌声で、NYを出たいという思いをほとばしらせます。男らしさと透明感を併せ持ちながらも、ビブラートがきいたよく通る歌声が素晴らしいです。しかしジャックは生きていくために1日中、路上で新聞を売る過酷な日々。当時NYでは「ニュージーズ」と呼ばれる未成年の子どもたちが、新聞の売り子をして生活の糧にしていたのです。カリスマ性から「ニュージーズ」のリーダー的存在だったジャック。前出のインタビューでは京本大我は「どこまでもエネルギッシュで、めちゃくちゃエモーショナル!」と、ジャックを評しています。
コロナ禍で疲れた心を鼓舞してくれるストーリー
ある日、新聞を売っている時に若い女性と出会ったジャック。咲妃みゆ(元宝塚歌劇団)演じる、女性新聞記者のキャサリンです。当初は上から目線でツンツンしているキャサリン。ジャックを「生意気な小僧」呼ばわりしますが、恋のフラグが立っているような……。
ジャック率いる「ニュージーズ」の「新聞売るぞ~♪」という大合唱と踊りも迫力大。どこか歌声喫茶などで歌われている労働歌を彷彿とさせますが、仕事の志気が高まる曲です。ジャンプ力もあって、このお芝居はジャニーズが主演なのにフライングがないのですが、物足りなさを感じる間がないほどのパフォーマンスでした。ほぼ全員ハンチングやベレー帽をかぶりあえて薄汚れた格好ですが、若さやエネルギーがうずまいています。
その「ニュージーズ」に、知性派のデイヴィとその幼い弟レスが参入。レスのかわいさを見て、新聞の売上げが増えると予測したジャック。ちなみにデイヴィを演じるのはかつて子役として一世を風靡し、スリムなイケメンに成長した加藤清史郎。弟の少年がちやほやされる姿はかつての自分を見るようだったのではないでしょうか……。
精力的に新聞売りに励んでいた「ニュージーズ」たちでしたが、売上部数の減少を懸念した新聞社のオーナー・ピュリツァー(ピュリツァー賞の元になった新聞王。演じるのは松平健)が、新聞の卸値を上げてしまいます。今でいうと動画サイトの広告の利益率を下げるみたいな感じでしょうか。ただでさえ苦しい生活がもっと大変になり、「ニュージーズ」はついにストライキを決意。「僕たちは奴隷じゃない~」と声を上げた少年たち。組合を立ち上げることになります。「ピュリツァーの奴隷じゃないよ~♪」「踏みつけるなら踏み倒してやるぞ~♪」といった力強い歌声が心に響きます。コロナ禍で厳しい今こそ、鼓舞される演目です。(ちなみにゲネプロで拝見した時は、街ではネズミのように扱われている「ニュージーズ」の少年たちが、幕間の段取りの確認ではスタッフから「◯◯さんいらっしゃいますでしょうか」「実行していただいてよろしいでしょうか」と丁重に扱われていて安堵しました)
とりあえずキャサリンに感情移入してみる
少年たちの奮闘ぶりに励まされるだけでなく、目の保養になるジャック役の京本大我もエネルギーを上げてくれる存在。女性新聞記者キャサリンとの恋模様に感情移入することで、めくるめく時を体感できます。たとえば劇場の席でキャサリンとジャックが再会するシーン。絵の才能があるジャックは、メッダという頼りがいのある女性支配人の劇場の背景を描く仕事もしていました。キャサリンと遭遇したジャックは、新聞紙に彼女の横顔のスケッチをサラサラと描いて渡します。イケメンにそんなことされたらどんな人でも絶対に落ちてしまうのでは……。その後、徐々にキャサリンの態度が優しくなっていきます。何度かキスシーンもあり、ロマンチックな空気に浸りながらも角度的に実際にはキスしてない、と思ってどこか安心している自分がいました。
ジャックはキャサリンに惹かれながらも、いつかNYを離れて憧れの地、サンタフェに行きたいという思いを歌い上げます。そしてついにハンチング帽を脱ぎ、乱れながらも顔に振りかかる髪がセクシーさを増していました。シャツにデニムのベストにパンツに帽子という露出度がほとんどない衣装だからこそ、たまに見せてくれる髪の毛がこんなにありがたいなんて……。正統派で社会派で露出度が低いけれど、京本大我のにじみ出るオーラやフェロモンは隠せませんでした。貧しい少年と王子様キャラの貧富の差を自在に行き来する京本大我は、格差なんて幻で、すべては自分次第だと身を持って教えてくれているようです。
辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」(祥伝社文庫)、「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)など。
構成/CLASSY.編集室