数多くの映画やドラマに出演、さらに舞台のプロデュースなどジャンルを問わず大活躍しているムロツヨシさんの主演映画『マイ・ダディ』が9月23日に公開! 意外にも今作が映画初主演という記念すべき作品について、またムロさんのパーソナリティーにも迫りました。
――映画『マイ・ダディ』では、信じがたい事実に傷つき翻弄されながら、病に侵された娘を助けるべく、ひとり奔走する父・一男を演じています。脚本を一読して出演を快諾し、「この物語の父になりたいと思いました」とコメントされていますが、牧師でもあるこの父親のどんなところに惹かれたのでしょうか。
「一男はまっすぐなんですよ。まっすぐだから牧師として『愛を信じましょう、愛は素晴らしい』と説いていたし自分でもそう信じこんでいたのに、そんなはずはないという出来事が起きて、人を恨むより愛を信じられなくなった自分を恨む。自分を否定し始めるところにこの人の人間臭さがあって、そこがすごく響きましたね。愛を信じられなくなった時、自らを叩き始めましたから。普通なら運命を呪ったり当事者を憎んだりするはずなのに、そうはならなかったところがすごいなと思いました」
――完成作を観た時の率直な感想は?
「脚本作りから関わらせていただいた作品なので、思いが強くて冷静に見れていないという(笑)。監督が編集の時から『自信を持ってムロさんにもお届けできます』と言ってくださったのでその言葉を信じて観てましたが、背中にじんわりと汗をかいておりまして(苦笑)。この作品が生まれてくれてよかったという感動で泣きそうになりました。演者としては、自分がこんな顔をするんだっていう気づきもありましたね。今回は現場でカメラチェックをほとんど見なかったので」
――キャリアの長いムロさんご自身も見たことのない顔をなさってたんですね。
「僕は今までの役者としての成功体験や失敗した経験を記憶していて、データとして残しているんですけど、今回はそれを消去するところから始めました。記憶を一回捨ててデータを利用することなく、現場で監督や共演の皆さんと向き合ってお芝居を作っていきました。もちろん台本は読みこみましたし準備はしていきましたが、『一男はどんな人で、どんな仕草をするんだろう』ってことも考えず、こういうお芝居をしようとか、こういう表情をしようとか、この台詞はこう言おうとかは考えなかった。他の作品の時はある程度の武器を持っていくというか、この武器が使えたらいいなって提案できるものを多少は持っていくんですが、今回はそれをしなかったですね」
――その理由は何だったのでしょう。
「照れくさくて今まで言ってこなかった言葉ですが、今作では感情のおもむくまま、生まれる感情を信じてお芝居をしました。僕は舞台のお芝居から始めたので、同じことを毎日繰り返す訓練というか、感情よりも決まったことを新鮮にやるという訓練はしてるんですけど。“感情のお芝居”は映像の醍醐味でもありますし、今回はそれにひたらせていただきました。それをやらないとこの物語を生んでくれた人に失礼だなとも思ったので。計算というか、自分のお芝居を良く見せたいとか、誉められたいとか、人を泣かせたいとか、そういう欲を捨てることを優先順位のかなり上に持ってきました。欲が大事な時もあるんですけどね。コメディとか、中途半端に欲を出すくらいなら出し切ったほうが面白い時もありますし。欲がバレた時は面白くないから、そういう時は欲の操作をしますけど」
――昨年から続くコロナ禍で、エンタティメントは今も厳しい状況に置かれています。今作も撮影が延期されたと伺いましたが、その時期もムロさんはできることを積極的に発信されていました。
「『マイ・ダディ』は本来なら2020年の4月がクランクインだったんですよ。でも最初の緊急事態宣言期間にドンピシャにハマってしまって……。活動が止まってしまった悔しさがありました。もし重なってなければおとなしい自粛期間になってたと思いますが、本当だったら映画を撮影してたという自分を悲しんだりマイナスにしたくないから、自ら人前に立つことを考えました。その始まりがインスタライブ。いつも忙しい友人のクリエイターたちも今なら時間があることをプラスに考えて、この時こそ今までやってきた知識や経験で営利目的ではないものを作るべきだと。インスタライブでは嬉しいことに1万人以上の方が見てくれているので、その方たちに向けて営利目的ではない何ができるかってことからスタートしました。自ら人前に出ていく僕らはバカにされたっていいところにいるんだから、前例を作っていく人間にならないと。何かをやらないと、また時代が変化した時に時代のせいにしてしまう。起こったことは受け入れられるところまでは受け入れて、その中でクリエイティブな何かを生み出す側にいないと悔しいだけだし……生み出す側にいたいという“カッコつけ”もあるんです。この“カッコつけ”がなければ、もっとラクなところにいますよ、きっと(苦笑)」
――ムロさんには、“優しくて気さくで面白い”というパブリックイメージがありますが、お話を伺っていると、とても理性的で物事をすごく考えている方だと感じました。どちらかというと理屈っぽいほうですか?
「結構、理屈っぽいかもしれない。自分は何でこれをやるのか、何でこれをやりたいのかばかり考えてるんですね。時の過ぎるまま、風のおもむくままにわが身を任せて生きていたいんですけど、そう生きてたら自分は“人が見たいと思う人間”ではないと自分で決めつけちゃっていて(笑)。本当はそうなりたいんですよ。何も考えずに『みんなに言われたことをパッとやってたら、いつの間にかここにいました』って人になりたいんですけど、それが無理なのよ、やっぱり(笑)。右行ったらこうなった、左行ったらこうなった、あの道行ったらこうなったというのを全部記憶してないといけないと思っていて、何でその道を選んだのか、その“何で”を自分で考えて決めていかなきゃいけない。それくらいやらないと、本来はずっとソファに座って何もしないで過ごしてしまう人間なんですね」
――でもイメージ通り、優しくて気さくで面白い方でもありますね。
「皆さんもそうだと思うけど、テレビカメラがあったり知らない人が10人以上目の前にいたら、いい人になりません?(笑) それだけよ、私。あと、いい人の振りをしてる経験が他の人より長いから。いい人のふりを4歳からしなきゃいけなかったから。染みついちゃってるものがあるから皆さん見抜けないだけで、そりゃあ優しいだけなわけないじゃない(笑)。冷たい部分もあるさね。破った約束も数知れず、あったさ(笑)」
――そんなムロさんが、自分に対して大事にしてることって何でしょうか。
「やりたいと思ったことは自分にやらせてあげようと思う。やりたいことが少なくなってきてるのが怖い。これからも増えてほしいなと思います。これまでは30歳までの『食べられる役者になる』という野心が、とてつもない原動力でガソリンだったんですね。まあ、走れた、走れた。ガソリンが全然減らないんだもん。19歳から役者を目指して、何もできなかった20代、成立しなかった20代から30代前半まではあがいてあがいて……。その結果、30代後半に食べられるようになった時の達成感はすごかったけど、40代になると次は何がやりたいかっていう自分に対しての質問に答えられなくなった。それくらい食べられる役者になるっていう原動力はすごかったから。今もずっと自分の尻を叩いてますけど、それが少ないこと足りないことへの危機感が大きいですね。でも落ち着く自分も見たいんですけどね~。まだ人前で焦るもんね(笑)」
次回は、ムロさんにCLASSY.読者の悩み相談にこたえていただきます。
ムロツヨシ
‘76年1月23日生まれ 神奈川県出身 血液型A型●‘99年、作・演出の舞台で活動を開始。ドラマ、映画、舞台とジャンルを問わず活躍中。’08年から始めた自身のプロデュース舞台『muro式.』では脚本・演出を手がけ、自らも出演している。最近の主な出演作は映画『最高の人生の見つけ方』『新解釈・三國志』、ドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』『親バカ青春白書』『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』、舞台『恋のヴェネチア狂騒曲』など。映画『べイビー ファミリー・ミッション』が12月17日(金)公開。
『マイ・ダディ』
小さな教会の牧師・御堂一男(ムロツヨシ)は中学生の娘と二人暮らし。妻は8年前に他界した。決して裕福とはいえずとも穏やかで幸せな日々を過ごしていたが、ある日、娘が白血病で倒れる。突然の病に動揺する一男に追い打ちをかけるように、衝撃の事実が発覚する――。娘を救おうとひとり奔走する父を、本作が初主演映画となるムロツヨシが熱演。出演/ムロツヨシ 奈緒 毎熊克哉 中田乃愛 光石研 ほか。監督/金井純一 脚本/及川真実 金井純一●9月23日(木・祝)全国ロードショー
撮影/木村 敦 ヘアメーク/池田真希 スタイリング/森川 雅代(FACTORY1994) 取材・文/駿河良美 構成/中畑有理(CLASSY.編集室)