おうち時間も増えた昨今、映画デートを自宅で楽しむカップルが増えましたよね。今回も前回に引き続き【大人女子のための映画塾】では、カップルで観るのはあまりお勧めしない名作を、映画ソムリエであるライターがナビゲートします。どの作品もAmazonで視聴可能です。くれぐれもカップルでのご視聴には、注意してくださいね。
1.ゴーン・ガール
女性恐怖症になる男性続出!?プロポーズ待ちの女性はやめたほうが…
『セブン』『ファイトクラブ』の鬼才デビッド・フィンチャー監督が描いた、いびつな夫婦の愛の形にゾクリとします。結婚5年記念日に、妻が血の痕跡を残して失踪します。果たして、この事件のその真相は?
ネタバレはしないように書きますが、体感温度が3度ほど下がるラストに、女性恐怖症になる男性が続出しました。いつかのプロポーズを期待している彼とは、観ないほうがまず無難でしょう。映画好きから敬愛され、新作を常に待ち望みされているD.フィンチャー作品で二転三転なストーリー、最後までどこに落ち着くかわからない脚本はとても秀逸なものなので、楽しめることは間違いないです。しかし、あえてこれを一緒に観なくてもよいかと。
裏テーマで「結婚生活の長続きにおいて、何が一番大事なことか」が描かれており、そのあたりが興味深いです。大事なのは愛ではなく、日々「理想の夫、妻」としての役割を演じきるというモチベーションの重要性。なんとも重く、でも本質を捉えた強烈なメッセージとして受けとれます。また、男性に対して「従順な良いコで3日で忘れ去られるような女より、どれだけ怖がられても生涯忘れられない女になるのも、ある意味勝利なのでは?」と、自分の中に潜む危険な思想と対峙してしまうのも本作。夫婦は「個」のユニットであり、小さな「チーム」なんだと、震えながらも学びとなった作品です。
2.ニンフォマニアック
性の話が多いゆえに、彼にあらぬ疑いをかけられぬよう
自らを色情狂(ニンフォマニアック)と認め、常に満たされず性にむきだしで不特定多数の相手と関係を持ってきた女性の「性の目覚めから50歳まで」を2部構成(なのでvol.2もあります…)で描いた衝撃作。言うまでも無いですが、セックスシーンに溢れすぎで、物議を醸しました。物語の進行も独特で、色情狂女子と年配独身男子の「具体的すぎる性に関する会話」により、露わになっていく彼女の壮絶な人生。いや、人性。「私が他の人と1つだけ違うことは、夕日に多くを求めすぎたことかも」と一周回ってどこか哲学的に見えてくる会話で展開される、性の話。知的かつ痴的…。エロいだけでは終わらない新感覚です。さすが、なにかと闇を抱えがちな性格が作風に顕著に現れる名監督の作品。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のラース・フォン・トリアー氏による映画です。
『ニンフォマニアック』は2009年の『アンチクライスト』、2011年『メランコリア』に続くトリアー監督の「鬱三部作」の最終作と呼ばれる作品ですが、色情狂という突き抜けたテーマでやりきってくれる作品なのでどこか面白おかしく、山崎ナオコーラさんには失礼ですが「人のセックスを笑うな」とは、この映画においては言えなくなりました。大事な彼に「お前もまさか色情狂では?」と、一瞬でも疑われぬように、一緒に観ない方がよさそうでしょう。
3.世界一キライなあなたに
ラブロマンスのようなDVDジャケットと裏腹に「尊厳死」「安楽死」がテーマ
この映画、数千本の映画に出会ってきた映画ソムリエとしても大好きな作品ですが涙の塩梅をコントロールできないほど泣いてしまうので、デートには私はおすすめできません…。世界40カ国以上で翻訳されベストセラーとなった恋愛小説、『ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日』が原作です。安心感のある恋愛映画と思いきや、テーマは「尊厳死」「安楽死」。順風満帆の人生を送っていた男性が交通事故に遭い、ある日から脊椎損傷により首より下が動かなくなってしまい、その介護を任された女性との恋物語を描いております。男女が出逢い引かれ合い、恋に落ちてゆくラブストーリーではあるのですが…鑑賞したあとの会話がどうしても重くなりがち。
「何がなんでも生きるべき」なのか「死は自由に選択できるべき」なのか。ハードル高めのテーマについて討論すること不可避でしょう。彼の価値観を深く知りたいときには良いかもですが、DVDジャケット写真のようなテンションのラブロマンスを期待して観るのは危険です。劇中に出てくるスイスの自殺幇助を支援するディグニタスという団体は、実在しており、未だ正解の出ていないテーマに対して丁寧に繊細に映画が作られています。作品に触れて自分はどう考えているか、自分の胸に問いただすことでいつもと違った時間を味わえるはずなので、1人の夜に是非。
4.恋の渦
男女の「よくない」面が浮き彫りになってしまうかも
制作費10万円。製作日数わずか4日間のインディーズ映画にも関わらず満席や立ち見が続出し脅威のロングランへ。公開当時に話題になった『恋の渦』は、第1作目『愛の渦』に続く、渦シリーズの第二弾です。恋の本質を描く天才『モテキ』の大根仁監督がメガホンを取りました。とある宅飲み合コンに集まった男女9人。正直、ドキュンと呼ばれる面々たちです。そこから始まる恋模様ですが、「男性の言う可愛い」と「女性の言う可愛い」の概念の差異があったり、男と女の欲望渦巻く関係性の中に起きがちなあるあるがとにかくリアルで惹き込まれます。バーナーでエイヒレを炙っている時の感覚に近いような…ジワジワと出来上がっていく、ゲスな人物像。恋愛における既視感ある会話が生々しくて、映画というより、部屋で合コンしてる様子を覗き見しているくらいの感覚です。
ひとりの寂しい夜に観ると、なんだかその人間臭さに妙にホッとするかもしれません。男女それぞれのよろしくない面が浮き彫りになっていくのでデートには不向きですが、登場人物たちが卑しすぎて、人間が猿に見えはじめてくるという新感覚を堪能させてくれる唯一無二の映画です。ひとり時間には推し!
いかがでしたでしょうか?今回も「カップルで見てはいけないAmazon作品」を、映画ソムリエこと東紗友美がお届けしました。貴重な映画デートタイム、作品選びは本編と同じくらいに重要ですし、すべては作品選びに関わってきているといっても過言ではないです。くれぐれも、映画デートはご注意を。
この記事を執筆したのは
東 紗友美(ひがし さゆみ)
’86年、東京都生まれ。映画ソムリエ。元広告代理店勤務。日経新聞電子版他連載多数。映画コラムの執筆他、テレビやラジオに出演。また不定期でTSUTAYAのコーナー展開。映画関連イベントにゲスト登壇するなど多岐に活躍。
http://higashisayumi.net/
Instagram:@higashisayumi