【宝塚】ネタバレあり!宙組『アナスタシア』を観てきました|ヅカオタ編集Mがアツく語る➉

withコロナ時代に少しずつ活気を取り戻しつつあるエンタメ業界。『宝塚歌劇』もその影響を受けつつ、出演者とファンの熱い思いにより連日公演を続けています。この機会に宝塚デビューしたい!というCLASSY.読者の方に、ヅカファン歴20年の編集Mがその魅力を好き勝手にご紹介します。

今回は、東京宝塚劇場で公演中の宙組公演『アナスタシア』について。1997年公開のアニメーション映画「アナスタシア」をもとに制作されたミュージカルです。寒い今の時期とリンクするようなロシアが舞台の物語を堪能してきました!

【宝塚】ネタバレあり!宙組『アナスタシア』を観てきました|ヅカオタ編集Mがアツく語る➉

【簡単なあらすじ】
20世紀初頭、帝政末期のロシア。皇帝ニコライ2世の末娘として生まれたアナスタシアは、パリへ移り住んだ祖母のマリア皇太后から貰ったオルゴールを宝物に、家族と幸せに暮らしていた。ところが、突如ボリシェビキ(後のソ連共産党)の攻撃を受け、一家は銃殺されてしまう。それから時が経ち、街中ではアナスタシア生存の噂が広がっていた。パリで難を逃れたマリア皇太后は、アナスタシアを探すため多額の賞金を懸ける。詐欺師ディミトリと仲間のヴラドは、アナスタシアによく似た孤児の少女アーニャを利用し、賞金をだまし取ろうと企てるが…。

男役トップスター真風涼帆(まかぜすずほ・92期)さんと、娘役トップスター星風まどか(ほしかぜまどか・100期)さん。このお二人がトップコンビになって丸3年以上が経ちますが、最高傑作がついにきた!と思いました。主人公のディミトリは真風さんそのもので、ヒロインのアーニャは星風さんそのものでした。主演のお二人について、まずは語っていこうと思います。

男役トップスター・真風涼帆さんの「大人の余裕」

この作品はもともとブロードウェイで大人気を博したロングラン作品のため、楽曲がとにかく素晴らしい!イントロからぐっと引き込まれるメロディに、乗せられた訳詩がまた素敵でした。今回は宝塚版としてディミトリが主役の物語として潤色されているため、真風さんのディミトリにより焦点が当てられ、彼の心の動きがよくわかるようになっていました。

真風さんの男役は「どこか諦念したような大人の男性」の体現だと、編集Mは個人的に感じています。175cmの長身の真風さんがスーツを着てアンニュイな表情を浮かべるとそれはもう色っぽいのですが、なぜか時おり「お母さんらしさ」を感じることもあり、そのギャップが最大の魅力だと思います。今回のディミトリという役は、この二面性が舞台上で生きた役だと思いました。

生き延びるために何でもやってきた詐欺師のディミトリですが、アーニャと出会って恋が芽生え、彼女こそ本物のアナスタシアと確信して、なんとか皇太后と会せようとします。そしてついに叶った謁見の日、アーニャが去った後、それまで「大人の男」の余裕に満ちていたディミトリの表情が、一瞬にして心配そうな、困ったような顔になる場面がありました。それを観たとき、編集Mは何かぐっと胸にこみ上げるものを感じ、思わず泣きそうになりました。どれだけリアルな男性らしくても、決して本物の男性役者とは違う、あれが真風さんのディミトリならではの、他の人には表現しえない「愛情深さ」なのではないかと思いました。見た目は完全に男性なのに、あんなに母性を感じたのは初めてでした。

一方で、書き下ろしの新曲「She Walks In(彼女が来たら)」を歌う時はどこか少年らしさもあり、これがまたディミトリという人物をより立体的な人物に見せてくれていました。ここで言う「She(彼女)」が、ヒロインのアーニャを暗に示していることが、二人の恋に向けた完璧な助走でした。そのなんとも言えない「宝塚らしさ」に、星風さんとの積み上げてきた関係性の深さを感じ、また胸がいっぱいになりました。

ディミトリの台詞のなかで一番好きだったのはアーニャとの思わぬ過去の接点が分かったときに言う「これも君の物語にしろよ」。自分の大切な思い出を目の前の愛する人に与え、自らは身を引いていく。彼女に光の当たる道を歩かせて、その報酬も受け取らずに去っていく。そういうディミトリの献身的な優しさがこの台詞に詰まっていると感じたのですが、これは真風さんご自身の優しさに通じるところがあるのではないかと思います。

そしてそんな真風さんの、母性に近い愛情を一身に受け取る星風さんのアーニャが、また本当に可愛らしく、美しかった!

娘役トップスター・星風まどかさんの「娘役芸」

入団一年目から抜擢され、多くの注目を浴びてきた娘役さんでした。研一ですでに舞台中央で台詞を言う姿に当時は驚きましたが、そこからずっと、沢山の期待と重圧に耐えてきたのだろうと思います。でも、そんな期待をしてしまうほど、星風さんはどこか希望を感じたくなる娘役さんでした。個人的にその最たる理由が「歌声」だと思っています。

編集Mが星風さんの過去の役で一番好きだったのは、同じくロシア革命をモチーフにした『神々の土地』の皇女オリガでした。その時も演出家の上田久美子先生は、「この作品における希望のような存在」と仰っていましたが、たしかに主人公のドミトリーを想って歌うオリガは、この世界の希望そのもののような輝きを放っていました。すべての人の夢を背負ってもらいたくなるような、道を切り開くような強さのある美しいソプラノは、今回の『アナスタシア』でも、聞くだけで自然と涙がでるほど存分に生かされています。

ですが実は、私がオリガを一番好きだった理由は、彼女が最後に「母親への愛」を選んで亡くなったことです。オリガはまさにロシア革命で銃殺された皇族の一人ですが、物語の終盤、革命の直前に、母親の皇后を「今ならまだ間に合う」と正しい道へ導こうとします。しかしその要求は受け入れられず、最後、オリガは何か観念したように「私がママを守る」と自ら破滅への道を選びます。その時のオリガの声は、ただただ、母親への愛に満ちていました。私はそれを見て、星風さんの本質は、希望を持って力強く未来を切り開くよりも、愛する誰かに優しく寄り添いたい人なのではないか、と思いました。

『アナスタシア』において、1幕のアーニャは、逞しいけれど、つついたら壊れてしまいそうな脆さもありました。それがラスト、徐々にディミトリと心を通わせ合い始めると、少しずつアーニャの表情が穏やかになっていくのがわかりました。そして2幕でついにアーニャが自分の生きる道を決めるときの、幸せそうな笑顔。一人で生きていかなければという強さを確かに持っている女性だけれど、本当はずっと誰かの愛情を求めていたのだろうと感じるお芝居でした。それはどこか、『神々の土地』のオリガに通じるお芝居のようにも感じました。

「まかまど」トップコンビの集大成として

”演者が発光して見える”というのは宝塚でたびたび起こることですが、今回はデュエットダンスがまさにそれでした。「She Walks In(彼女が来たら)」の曲で、真風さんが舞台中央に登場し、少し遅れて星風さんが花道のセリから上がってくる演出。素晴らしい構成でした。

舞台はあくまでフィクションの世界です。演者のバックボーンを重ねてみるのは、本来の演劇の楽しみ方としては邪道かもしれません。でも今回は、どうしても重ねて観てしまう事情がありました。宝塚大劇場での公演中、星風さんがこの公演の千秋楽をもって専科へ異動することが急きょ発表されたからです。

あまりのイレギュラーなことに、言葉を失うファンが大勢いました。大人っぽい雰囲気の真風さんに対し、トップに就任した頃の星風さんはまだ若く、持ち味を合わせるため、お互いに努力もしたのではないかと思います。それが報われたかのような今回の『アナスタシア』でした。だからこそ、このタイミングで二人の宙組が終わってしまうことが、あまりにも惜しい。デュエットダンスで真風さんが信じられないほど優しい眼差しで星風さんを見つめることも、星風さんがまたとびきり幸せそうな笑顔で真風さんに寄り添うことも、泣けて泣けて仕方ありませんでした。

決まってしまったものを覆すことはできません。でもデュエダンのあまりに幸せそうなお二人を見て、ふと、真風さんのなかに「失った愛」として、星風さんはずっと残るのではないかと思いました。先日発表された次回作ポスターの、どこか哀愁を帯びた表情と、それとは別人のように朗らかに笑う今回の真風さんを見て、そんなふうに感じました。

そして星風さんもまた、この先どんな道へ進んでも、素晴らしい舞台を見せてくれることと思いますが、それが観客だけでなく、彼女にとってもまた幸せな道でありますように。そのためにも、どうか星風さんが心から受け入れられ、愛される最高の道を、慎重に選んでもらいたいと、切に願います。舞台人としての誇りや喜びだけでなく、愛する誰かの隣にいられる喜びを、「宝塚の娘役」としての幸せを、体いっぱいに感じられる道へ進んでもらいたいです。観客の、宝塚の、あらゆる夢を背負って走り続けた彼女が、アーニャのように、最後に”安らげる場所”を見つけられることを、願ってやみません。

以上、ヅカオタ編集Mによる、宙組公演の感想でした。この公演は2/21まで東京宝塚劇場で上演しています。チケットの取り方や公演日程は、ぜひ宝塚歌劇団公式サイトをチェックしてみてくださいね。

そもそも宝塚歌劇団とは?

花、月、雪、星、宙(そら)組と、専科から成る女性だけによる歌劇団。男性役を演じる「男役」と女性役を演じる「娘役」がおり、各組のトップスターが毎公演の主役を務める。兵庫県宝塚市と千代田区有楽町にそれぞれ劇場があるほか、小劇場や地方都市の劇場でも年に数回公演をおこなう。
公式サイト:https://kageki.hankyu.co.jp/
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