家の代々の精神でもあり、歌舞伎に限らずどんなことにも挑戦したい
劇場版アニメ『サイダーのように言葉が湧き上がる』で映画初出演、初主演、初声優を務めた市川染五郎さん。「一昨年、13歳で『ハムレット』の朗読をした時、声だけの芝居の難しさを痛感して――。正直、二度とやりたくないと思ったんですが(苦笑)、挑戦することが大事だと思って出演を決めました」完成作を観た時は、温かな気持ちになって率直に感動したそう。「演じている時から、サイダーのような爽やかな気持ちになれる作品だなと思っていました。でも自分の声を聴くのは耳が痛かった。気持ち悪いなって(苦笑)」演じたのは俳句が趣味の男子高校生〝チェリー〞。人見知りな性格でコミュニケーションが苦手。「今作ではチェリーと自分が似ていると感じたので、自分と重なる部分を自然に表現することが目標でした。そうじゃないと自分がやる意味がないと思ったので、無理に役は作らずに演じました」人見知りに加えて共感したのは、好きなことに対する情熱。「チェリーにとっての俳句のように、自分には歌舞伎がある。好きなものに対する思いは強いと思ってます」父は松本幸四郎、祖父は松本白鸚という梨園の御曹司。’18年に市川染五郎を襲名以来、〝美少年!〞〝色気がすごい!〞と話題に。「そう言われるのは不思議な気持ちです。性格は……人には変わってるとよく言われます。自分では思ってないですけど、本当に変わってるとすれば完全に父からの遺伝ですね。父以上に変わってる人を見たことがないので(笑)」舞台に立っている時が一番楽しいと言う染五郎さんですが、歌舞伎に限らずどんなことにも挑戦するのが役者としての目標。「家の代々の精神でもあり、幅を広げることを常に意識していたい。高麗屋はもともと立役の家ですが、父が初めて女形を演じたように、歌舞伎に関してもいろんな役ができるようになりたいです」映像の仕事では、アクション映画に挑戦してみたいそう。「『ジョン・ウィック』シリーズが好きで全部観ています。洋画を観るのが好きで『ダークナイト』を観たのは小学校1、2年の頃。小さい頃からバットマンよりジョーカーに惹かれてました。映像でも悪役がやってみたいです」音楽を聴くのも仕事を離れた趣味。聴くのはほぼマイケル・ジャクソンですが、欅坂とビリー・アイリッシュも好きですね」
いまいちばんやってみたいこと、行ってみたいところは?
いま一番やってみたいことは?
悪役をやってみたい。歌舞伎には勧善懲悪な物語が多いんですけど、〝悪〟の美学も描かれているので小さい頃から憧れています。うち(高麗屋)は悪役をやることも多くて、ずっと見てきたからかもしれません。たとえば一番好きなのは『女殺油地獄』の河内屋与兵衛。一言で言えば〝クズ〟な男なんですが(笑)、そんな役を演りたいんですよね。
いま一番行ってみたいところは?
海外に行けるようになったら、NY。母が学生の頃に住んでいたことがあって、いずれ連れていきたいとよく言ってますし、NYの街並みや雰囲気も好きです。あとはラスベガス。父のラスベガス公演のときにシルク・ドゥ・ソレイユを観て、すごくハマったのでまた行きたいです。
いま一番会いたい人は?
会いたかったのはマイケル・ジャクソンです。パフォーマンスはもちろん、温かい人柄も大好きです。彼のパフォーマンスに対する情熱にもすごく惹かれます。
INFORMATION
『サイダーのように言葉が湧き上がる』
サイダーのように甘く爽快なボーイミーツガール・ストーリーを描くオリジナルアニメ。コミュニケーションが苦手な俳句少年とコンプレックスを隠すマスク少女が言葉と音楽で距離を縮めていく。歌舞伎界の新星・八代目市川染五郎と若手トップ女優・杉咲花が声優を務める。原作/フライングドッグ 監督・脚本・演出/イシグロキョウヘイ 他の出演/神谷浩史 坂本真綾 山寺宏一ほか。近日公開予定。
プロフィール
’05年3月27日生まれ 東京都出身 血液型AB型●’07年『侠客春雨傘』で本名の藤間齋で初お目見得。’09年に歌舞伎座『門出祝寿連獅子』で初舞台を踏み、四代目松本金太郎を襲名。’18年、歌舞伎座『勧進帳』で八代目市川染五郎を襲名し、その美少年ぶりも注目される。最近の出演作は、『仮名手本忠臣蔵 七段目』『龍虎』『東海道中膝栗毛』、三谷かぶき『月光露針路日本』など。父に十代目松本幸四郎、祖父は二代目松本白鸚。叔母は女優の松たか子。
撮影/イマキイレカオリ ヘアメーク/野坂朱子 スタイリング/中西ナオ 取材・文/駿河良美