麻布競馬場さん出演!「恋愛って、多分一番ファンタジーから遠いテーマ」【アンソロジー『それでもまた誰かを好きになる』発売記念・座談会①】
CLASSY.ONLINEで連載していた「うまくいかない恋」がテーマの短編小説が、アンソロジーとして文庫になります! 2026年2月10日の発売に先駆けて、著者のおひとりである麻布競馬場さんと、読書インフルエンサー・マオさん、CLASSY.読者のNさんによる、ご自身のリアルな恋愛体験を絡めた座談会をしてもらいました。
全部「あ、その角度は思いつかなかった」という内容だった
――では最初、自己紹介からお願いします。
マオさん(以下・マオ) 名前はマオと申しまして、28歳です。神奈川県の書店で文芸書と文庫の担当をしています。その傍らにInstagramで読書記録の発信をしながら、毎日本を読んでいる感じです。
Nさん(以下・N) 年齢は29歳です。仕事は事務職なんですが、プライベートでは本がすごく好きで、ライターのお仕事もさせていただいてます。
麻布競馬場さん(以下・麻) じゃあ年功序列の最後です。34歳、普段は普通にサラリーマンをやってまして、会社が終わった後とか、週末とかに小説を書いています。最初、読んでみた感想を聞いてもいいですか。
マオ うまくいかない恋ってどんなのだろうと思った時に、想像しやすいのはやっぱり不倫とか、遠距離恋愛とか思いついたんですけど、全部「あ、その角度は思いつかなかった」という内容で。特に一穂ミチさんの作品がめちゃトリッキーで、好きだった相手とも結ばれてなくて、相手が亡くなってその子供と…っていう。よくそんなのが思いつくなと。他の作品も全部、すごい角度からみんないくんだな、作家さんってやっぱりすごいなっていうのを、まず思いました。
麻 確かにそうですね。もともと企画の趣旨自体が、20代後半から30代の女性に向けて、うまくいかない恋愛に悩んだり、苦しんだりしてる方に向けてっていう、間口広めの設定だったので、他の方がどうくるんだろうとは考えてたんですけど…誰もわかりやすい形で勝負してなかった。読後感としてもわかりやすく「苦い」とかじゃなくて、ちょっと寂しいとか、ちょっと痛いとか、さじ加減が本当に皆さんうまかったし、みんな同じ空気感で書ききってるから、短編集としての完成度はすごくいい形だったなと思いました。
マオ 私、会社の昼休みに読んでたんですけど、1回の昼休みで1話読めるぐらいの長さだったんですよ。それがちょうどよくて。1時間ぐらいで少しずつ読み進めるっていう楽しみができるなと思いました。
N 私はちょうど30歳手前になって、自分のコンプレックスやちょっとこじれた性格とかが恋愛に影響している気がして。だからどの作品も自分に当てはまる部分が多くて、実際にそういう恋愛をしたわけじゃなくても、自分の心との読み合わせみたいな部分が多かったです。作家さんが違うのに、読み終わった後に、感情がぱっと同じになるというか。私はあえて作家さんのお名前を見ないで読み進めていったので、結局残ったものはなんだか一緒だったという感じがして、そこがすごく面白かったです。
麻 読み合わせって素敵な表現ですね。だいたいこういうのって特定の一作品に対して共感することが多いんですけど、今回は全体にちりばめられた感じがしたじゃないですか。見覚えのある自分のダサさとか、あの時にやらかしたこととか。なんかいろんなこと思い出しましたよね。
マオ 全部に共感できるポイントがありました。
麻 恋愛って、多分一番ファンタジーから遠いテーマでもあると思ってて、みんな経験したリアリティを持っている。今回の作家さんは性別も年齢も様々な方で、大人の恋愛をこういう風に捉えてるんだっていうのも見えて良かったです。デート場所のチョイスひとつとっても、広尾でやる人もいれば新宿に行く人もいる。かっこいいデートの瞬間とかはインスタとかで見られるじゃないですか。でも揉めてるデートの話を本当は聞きたい(笑)。ちょっと遅刻してきた時にどっちがどれくらい謝って、どれくらい怒るのか、そういうのを覗き込めるのはすごいよかった。みなさん、特に好きなお話や刺さった部分はありますか?
マオ 私は個人的に一穂ミチさんがすごく好きなんですけど、やっぱり好きだなっていうところがたくさんあって、30ページでもすごく満足しました。みんなパンチ食らうと思います。思ってたのとちょっと違うかも、みたいな。砂村かいりさんも元々好きなんですけど、すごいわかるなっていう感情が…。
麻 一番好きな“うまくいかなさ”でした。元カレとか元カノのダサいとこを知るって設定が僕めっちゃ好きなんです。今起きてる恋愛より、昔憧れたものに失望し、過去の自分が恥ずかしくなるという経験が、僕はうまくいかない恋愛の象徴と思うので。
マオ 元彼をこう出してくるかっていう…。そこで終わってたらそんなに悪い思い出じゃなかったのに、自分と仲いい子と付き合っちゃって、嫉妬されて…みたいな新しい思い出が加わった時、元彼の見方が変わってきちゃったというのが、すごくリアルだなと思って。
麻 完全に偏見なんですけど、男性作家が描く恋愛って、過去をちょっと美しくしがちで、また巡り合ったら始まるんじゃないかなっていう節があるじゃないですか。でも実際はそんなことないんですよ。明確にない。そこのリアリティをぐっと突きつけてきたっていう点で、砂村さんの作品はほんとにすごかったなと思って。自分自身も大学の友達と飲んでた時とかに変な火がついちゃうとか、通ってきた(過去の)ところから恋愛が起こってくることも最近増えてきたんですけど、そこが必ずしも安心して帰れる家じゃないっていう警告を発してくれるんです。恋愛している30代男性全員に読ませたい。
――麻布競馬場さんのお話もそれこそ過去の…。
麻 そう、元彼に至らなかった人ですけど…。でも、恋愛ってどこから(恋愛だと)取るかが人によって違ったのは面白かったですね。大人の恋愛トラブルがあらゆるフェーズに存在することがわかりました(笑)。付き合う前も大変だし、付き合った後も別れた後も大変。
――どこのフェーズでもあり得る話なんだなっていう。
マオ 「うまくいかない恋」の語義の広がりを感じます(笑)。
アラサーになって恋愛が年々しんどくなっています
麻 ちょっと踏み込んだ話で、聞いていいかわからないですけど、皆さん、パートナーの方とかいらっしゃいますか。
マオ 私はいないです。
N 私は彼がいるんですけど、結婚はしていないです。
麻 恋愛ってやりやすくなってますか。しんどくなってますか。
N しんどく感じることはあります(笑)。年齢的にも周りの環境が変わってきて、自然と将来のことを考える機会が増えて…次のステップとして結婚を考えていきたいと思う反面、今付き合っている人が年下ということもあり、そのタイミングとかペースには配慮が必要だなと思ってて。別れるとか新しい恋を始めるというより、今の関係をどう育てていくかを考えたいですけど、結婚のタイミングをすり合わせるって難しいですね。
マオ そこは同じ歳の男子を通ってきた麻布さんからすると…。
麻 やや自認が早めかもしれませんが、わかる、おじさんには(笑)。僕も前、婚約してたんですけど、小説家デビューする2ヶ月ぐらい前に婚約破棄したんです。その時付き合ってた女性が3歳上で、やっぱり同じ問題があったんですよ。でもなかなかまわりに言えないんです、こういう話って。
――こちらもちょっと突っ込んだ質問をするんですけど、破棄しちゃったのは、やっぱり麻布さんの中でちょっと結婚は…みたいな感じだったってことですか?
麻 向こうがちょっと急ぎすぎてたんですよ。今振り返ると仕方ないなとも思うんですけど、合意ができないままにいろんな物事を急に進めようとして。でももうそこで別れてから3年経つんですけど、彼女3年間いないんですよ。もう今更恋愛できないですよ。恋愛トータルでいうと疲れるのがわかってるから、頑張れないですよね。20代前半とかだとなんとなくで恋愛できてましたけど、正直自分1人の暮らしもある程度固まってきたじゃないですか。1人でもやっていける中で、今更恋愛するの結構きつくないですか。
マオ じゃあ結構この『独身の女王』はわりと麻布さんが思ってることというか、この「教祖様」みたいな像があって、ちょっともう結婚しない未来に踏み出すかもしれない、みたいなのはご自身もちょっとあるんですか。
麻 明確にそうですね。もう恋愛、結婚はいいかって立場に最近なりかけてます。
N それを聞くとまた面白い…!
麻 20代後半で、今結婚とか恋愛に向けてモチベーションってありますか?
マオ 結婚願望も子育て願望もあるんですけど、じゃあ今すぐ結婚できるかって言われたら、1人の時間も全然まだまだ欲しいですね。今は仕事が楽しいし。いい人がいればとは思うんですけど、出会いもないので。
麻 確かにそうですよね。出会い方がもうわかんないじゃないですか。今回もどういう出会い方をしてるかって読んだ時に、出てくる女性が20代後半から30代女性だと、職場か、元カレ元カノか、あるいはマッチングアプリか、みたいになってて。少女漫画みたいな恋愛はできないんだなっていう。
マオ でも一つ、朝比奈あすかさんの『出会い』は、フレッシュだったと思います。
麻 たしかに、一番ピュアだ。そして結局恋愛が起きないですからね。
マオ かっこいい店員さんがいたとして、連絡先を渡せるかって言われたら、絶対私もできないタイプなので、そこをちゃんとできないまま終わったっていう…。
麻 書ききったってすごい勇気だなと思いました。確かに普通の小説だったら渡すんです。渡さなきゃ始まらないから。でも始まらないまま何してるかって、めちゃめちゃ仕事してる。それリアルですよね。もう恋愛だけのために生きられないし、恋愛で辛いことがあっても結局暮らしは続けていかなきゃいけないっていう厳しさが、今回出てきたなって思いましたね。
N 私、以前お付き合いしていた人に浮気をされた経験があって。性格が素敵だなと思ってお付き合いしていた分、裏切られたときに一気に気持ちが冷めてしまったんですよね。それから、私にとって「譲れないものって何だろう?」って考えるようになりました。そしたら性格やお金よりも、まずは直感的に惹かれるルックスかどうかが大事なのかもって思ったんです(笑)。
麻 顔だけは変わらないですからね。付き合ってるうちに、接し方は結構変わっていったりするんですけど。
N 「顔は飽きる」なんてよく言うじゃないですか(笑)。でも私の場合は裏切られてしまった経験があるからこそ、人柄だけで判断するのが怖くなりました。今の彼も完璧というわけではなくて、たとえば時間にルーズなところがあったりするんですけど、待ち合わせで彼の顔を見て「ごめん」と言われると、不思議と気持ちが和らいじゃう(笑)。一緒にいて、まあいっか、と思えるところがあると、ある意味いい関係が作れるのかなと思ってます。
――めちゃめちゃいいじゃないですか(笑)。
麻 自分の基準が見つけられてるのはうらやましいですよね。本当はみんな顔で選びたいけど、ちょっと世間体とか気にして性格に行っちゃったりして。
さすがに書店って職場で出会いないですか。
マオ ないですね…。書店は男性がそもそも少ない。異性に限らず、同世代の書店員友達を見つけるのも大変です。
麻 レジカウンターで連絡先は…。
マオ いやいやいやいやいや。ない、ないです(笑)。なんかみんな、確信がないとなかなか行動しにくくなってる感じがあるので、例えばご飯とか行っても、楽しかったけどまあまあ、ぐらいだと、終わっちゃいますね。
――自分の中でこれが一番の基準かも、とかは特にまだない?
マオ そうですね…。もちろん顔も自分の好みであればいいですけど…面白い人がいいなとは思ってます。でも本の話ができない人は結構きついなと思っちゃう。日常でも休みの日でも、やっぱり本の話をしてるのが一番楽しいし盛り上がるので。大学生の時の友人とご飯に行っても、そんなに華やかな世界ではないので、仕事の話もそんなに盛り上がらないし、恋愛の話も特にない、ってなると、それで終わっちゃう。本の話ができないと、あんまり楽しくないと思っちゃいますね…。
麻 自分の生活の形とか、好きなものが固まってくるじゃないですか。そうなると、全然違う趣味の人と会っても、興味持つこともできなかったりするから、きついですよね。
――2人の年齢だったら、本当に結婚したいって思ったらアプリとかですぐ出会えそうですけど…。
マオ いや、うまくいったことないです。3回ぐらいしか会ったことないんですけど。
麻 いいアプリ教えますよ(笑)。
②に続く
麻布競馬場(あざぶけいばじょう)
1991年生まれ。会社員。覆面作家としてXに投稿した小説が話題に。2022年9月に自らの投稿をまとめた短編集『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』で小説家デビュー。Amazonの文芸作品の売上ランキングで1位を取得する。2024年『令和元年の人生ゲーム』で第171回直木三十五賞候補に初ノミネート。
マオ
1997年生まれ。書店員として働きながら、アカウント名@maomao_bookでSNSで日々のリアルな読書記録を発信し、同世代の読者から厚い支持を得る。Instagramでは「書店員と書店に行く」同行ツアーを実施中。
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CLASSY.ONLINEで連載された短編が待望の文庫化! とびきり不幸でもないけれど、完璧な幸せでもない――そんな「30代」を切り取った、人気作家たちによる「うまくいかない恋」がテーマのアンソロジー。
(著者:一穂ミチ、麻布競馬場、砂村かいり、こざわたまこ、田中兆子、朝比奈あすか、千加野あい、カツセマサヒコ)
定価814円(税込)
構成/前田章子
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