仕事に、生活に。気づけば「頑張る」が当たり前になっている30代。広瀬アリスさんが語ってくれたのは、完璧じゃなくていい、昨日の自分をちゃんと褒めてあげていいということ。がむしゃらに走り続けた20代も、少し肩の力を抜けるようになった今も。そのどれもが、ちゃんと自分をつくっている。そんなシンプルな気づきが、静かに心に残る時間でした。
Profile
1994年生まれ、静岡県出身。2008年にデビュー。2017年のNHK連続テレビ小説『わろてんか』で注目を集め、以降、映画『地獄の花園』、NHK大河ドラマ『どうする家康』、ドラマ『知ってるワイフ』『マイ・セカンド・アオハル』『366日』など、話題作に多数出演。近作では、ドラマ『なんで私が神説教』で主演・先生役を務め、若い世代と向き合う姿を自然体で演じた。
「自分が昨日できたこと」を、ちゃんと自分で褒めるようにしています
――CLASSY.の読者は、25〜35歳の働く女性が中心です。この世代は、仕事にプライベートにと頑張り続けてしまう時期でもありますが、そんな日々の中で、広瀬さんが心と体のバランスを保つために意識していることはありますか?
私は「次の日の自分がちゃんと褒められること」を、毎日ひとつは作るようにしています。
たとえば昨日アクションシーンの撮影があって、翌日に筋肉痛が来たときは「ちゃんと動けた証拠だな」って、ちょっと嬉しくなるんです(笑)。あとは、水を1.5リットル飲めたとか、半身浴ができたとか。ほんの小さなことでも、それを重ねることが大事なんですよね。
――小さな“できた”を積み重ねるんですね。
はい。続けたことって、すぐに結果が出なくても自信につながるんです。「昨日できたから、今日もやろう」でいい。だから私は、自分をちゃんと褒めてあげること、ちょっと自惚れるくらいでもいいと思っています。
“ちゃんとサボる”ことも、自分を守るために必要でした
――そうした意識は、何かきっかけがあったのでしょうか?
ありますね。3年ほど前に体調を崩してしまったことが大きかったです。当時は仕事が重なっていた時期で、「寝なくてもなんとかなる」「ストレスで食べすぎちゃったけど、まあいいか」って、いろんな“無理”を正当化してしまっていて。結果として、心も体も悲鳴をあげちゃったんです。そこから「もう同じことはしない」と決めました。
それ以来、睡眠を優先するようになったし、台本のセリフ量が少ない日は、覚える時間を短くしてでも、休む時間にあてたりします。“ちゃんとサボる”ことも、自分を守るために必要なんだと気づきました。
――仕事のパフォーマンスを保つために、大切にしていることは?
この仕事は、生身の人間が表現するものなので、心と体が整っていないと、どうしてもそのまま出てしまうと思うんです。だからこそ、プライベートな時間をおろそかにしないこと。自分が「気持ちよくいられる状態」でいるために、日々ちゃんとケアをする。それは、表現者としてというより、ひとりの人間として、とても大切なことだと感じています。
20代のがむしゃらは、ちゃんと私をつくってくれた
──20代を振り返って、「頑張ってよかったな」と感じることがあれば教えてください。
体調を崩したこともありましたが、あのがむしゃらに頑張っていた時期があったからこそ、今の自分があると思っています。30歳になったとき、「この状態はずっと続かない」と気づいたんです。だから、長く仕事を続けるための“土台作り”が必要だと感じました。その土台を作るには、「ここは踏ん張りどころ」という瞬間が絶対にあります。
もちろん、失敗もたくさんしましたし、怒られることも多かったです。当時の私は、人と“ちゃんと向き合う”ことがすごく苦手で…。でも、それでも向き合ってくれた人たちがいて、その時間が今につながっていると感じます。20代って、失敗していいし、ぶつかっていい時期だと感じていて。だからこそ、30代になってふと「全部、必要な通過点だったな」と思える瞬間が来るんだと思います。
作品がひとつ終わるたびに、「頑張った証」としてアクセサリーを買っています
──20代から30代にかけて、ファッションやメークでの価値観が変化したことはありましたか?
私服のスタイル自体は、実は昔からあまり変わっていないんです。年中Tシャツにデニム、そこに羽織りを合わせるくらいのシンプルなスタイルが基本で。ただ最近は、“形”や“ディテール”の違いに敏感になった気がします。同じTシャツでも、生地感や袖の長さ、首の詰まり具合で印象って全然変わりますよね。20代の頃は洋服そのものにお金をかけていたけれど、今は少しずつ小物――バッグやシューズ、アクセサリーに気持ちが向くようになりました。
その中でも特に、アクセサリーは気持ちを整えてくれる存在。作品がひとつ終わるたびに、「頑張った証」としてアクセサリーをひとつ買うようにしているんです。“このリングはあの役のとき”“このピアスはあの現場の帰りに”というように、ひとつひとつに思い出がある。だから、つけるだけで気持ちが上がるんです。自分の中にちゃんと積み重なってきたものがあるんだな、と感じられるというか。
──お気に入りのアイテムはありますか?
リングとピアスが多いです。でも、たくさん重ねるよりは“ひとつだけ”が好きで。耳たぶが小さくてピアスホールもひとつしか開けられないので、そのぶん存在感や形にこだわって選ぶようにしています。
最近はありがたいことに忙しくて、「次は何を買おうかな」と考える余裕もないくらいで(笑)。だから今は、ちゃんとリフレッシュできるタイミングを見つけて、「ひとつのお守り」を選びに行く時間を楽しみにしているところです。
最近のベストバイは、このフリース一択
──最近ご自身で購入されたもので、「これは当たりだった!」というアイテムはありますか?
あります。〈ザ・ノース・フェイス〉の黒いフリースです。
先日、洞窟で撮影する機会があって。「気温は14度くらい」と聞いていたんですけど、実際は想像以上に寒くて…。みんなダウンを着込んでストーブの前で震えるほどで(笑)。
そのとき、たまたま私物で持っていたそのフリースを着たら、本当にあたたかくて。「これでいけるじゃん!」って、まさに救われました。今季のベストバイは間違いなくこれですね。黒はどんな現場にも馴染むし、私服も黒が多いので合わせやすい。「これひとつあれば大丈夫」という安心感があります。
若い世代からも距離を感じさせない人でありたい
──広瀬さんは、ご自身の中で「こんな30代でありたい」という理想像はありますか?
若い人から「話したい人」「面白い人」だと思われる存在でいたいです。最近は、自分より若い世代と一緒に現場に立つことが増えて、最年長になることも多くなりました。春に先生役を演じたときもそうですが、10代・20代の子たちといると、ふと“年齢の差”を意識する瞬間があるんです。
でも私は、そこで線は引きたくなくて。「年上の女優さんは話しかけにくい」と思われるのは、もったいない。むしろタメ口でも呼び捨てでも全然いいんです。実際、『366日』で共演した長濱ねるちゃんや綱啓永くんとも、年齢差はあるのに同級生みたいな距離感が心地よくて。
──その距離感は、意識して作っているんですね。
はい。私は本当に人見知りなので、黙っていると逆に壁ができてしまうタイプなんです。でも役者として“上の立場”に見られる場面も増えてきて、そのままにしておくと余計に距離を感じさせてしまうな、と。
だからこそ、自分から「私はこういう人なんです」と近づくようにしています。そうすると相手も安心してくれる。年齢ではなく、“人”としてつながれる関係が好きなんです。30代は、誰かと上下で向き合うんじゃなくて、横に並んで立てる人でいたい。そんなことを、日々イメージしています。
Information
映画『新解釈・幕末伝』12月19日(金)公開
坂本龍馬と西郷隆盛――激動の幕末で日本の未来を変えようとした二人の関係を、ユーモアとあたたかさを交えて描く“もうひとつの幕末史”。 ペリー来航から薩長同盟、新政府樹立へと続く歴史的事件を福田監督の新解釈を交えてながら描き、英雄たちの迷いや絆を浮かび上がらせます。歴史に詳しくなくても楽しめる、笑えて心に残る一本。
ワンピース¥61,600(BAUM UND PFERDGARTEN/バウム・ウンド・ヘルガーテン)ショートブーツ¥48,400(YOSHITO/ヨシト)ピアス¥20,900(MAYU/マユ)
【SHOP LIST】
BAUM UND PFERDGARTEN/バウム・ウンド・ヘルガーテン(S&T)03-4530-3241
YOSHITO/ヨシト(ニューロンドン) 03-5603-6933
MAYU/マユ(MAYU SHOWROOM) kohocoon@mayuokama
撮影/上村透生 ヘアメーク/岡野瑞恵 スタイリング/梶原浩敬(Stie-lo) 取材/池田鉄平 編集/越知恭子
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