映画『新解釈・幕末伝』で、坂本龍馬の妻・おりょうを演じた広瀬アリスさん。ドラマ『366日』で繊細な心を見せた直後に挑んだのは、愛をまっすぐぶつける、力強い役どころでした。現場では思い切り“解放”できたという今回の撮影。肩の力がふっと抜けるような、のびやかな言葉に触れる時間をお届けします。
Profile
1994年生まれ、静岡県出身。2008年にデビュー。2017年のNHK連続テレビ小説『わろてんか』で注目を集め、以降、映画『地獄の花園』、NHK大河ドラマ『どうする家康』、ドラマ『知ってるワイフ』『マイ・セカンド・アオハル』『366日』など、話題作に多数出演。近作では、ドラマ『なんで私が神説教』で主演・先生役を務め、若い世代と向き合う姿を自然体で演じた。
“時代劇ってこんなに軽やかでいいんだ”と思えたんです
──初の時代劇映画への出演でしたが、脚本を読んだとき、どんな印象がありましたか?
最初は、正直ちょっと構えていたんです。これまで時代劇に出演する機会がほとんどなくて、歴史の知識にも自信がなくて。でも、読み始めたら一瞬でした。まず、とにかく面白い。歴史に詳しくなくても流れがつかめて、気づいたらゲラゲラ笑っていて。「あ、時代劇ってこんなに軽やかでいいんだ」と思えたんです。
その一方で、物語の芯にはちゃんと熱がある。“大きな時代のなかで、ひとりの人がどう生きるか”という部分が、人間らしく描かれていて。だからこそ、「これは大人も子どもも楽しめる作品だな」と感じました。
──今回、広瀬さんが演じたのは、坂本龍馬の妻として豪快さと愛情深さを併せ持つ“おりょう”。役作りで意識したことはありましたか?
まずは「自分の中にエネルギーをしっかり溜めてから現場に入る」ことでした。直前まで月9ドラマ『366日』で繊細な感情を抱える役を演じていたので、今回は思い切り解放したかったんです。
おりょうはとにかくパワフルな女性。舌打ちのシーンでも、初日から「もっとインパクトを」と言われて、振り切ることが求められました。ただ、史実に基づく人物なので、崩しすぎると浮いてしまう。でも、勢いや遊び心がないとおりょうらしくならない。その“ちょうどいいライン”を探す時間が、一番楽しかったところでもあります。
全身タイツが出てきた瞬間に、「来たー!」ってノリノリでした(笑)
──今回、福田雄一監督作品には初参加でしたが、どんな印象をお持ちでしたか? 現場で感じたことも教えてください。
福田監督の作品って、俳優さんの見たことのない一面がどんどん引き出される印象があって。「この人って、こんなに面白かったんだ!」という発見があるんですよね。ずっと憧れがありました。私自身、コメディは好きな分野でもあったので、「いつか福田組で思い切り爆発したい!」という思いはずっとあって。今回はその夢が叶ったような気持ちでした。
現場では、「コメディこそ真面目にやるから面白い」ということを改めて実感しました。ムロツヨシさんとのシーンが多かったのですが、ムロさんは一見軽やかに見えて、実はとても緻密に積み上げていく方。その上で、ふっと遊び心を入れてくるんです。もちろんアドリブもあったんですけど…私のほうが勢いよくいきすぎちゃった瞬間があって(笑)。ついノリで「ハゲタカ!」と言ってしまったことがあったんですが、ちゃんと謝ったら「いいよ」と優しく受け止めてくださって。懐が本当に深い方でした。
──今回の撮影で、「自分の中に新しい扉が開いたな」と感じた瞬間はありましたか?
…やっぱり、全身タイツですかね(笑)。台本を読んだ瞬間に「これ楽しめるの、私だな」と思いました。他の人には譲りたくない(笑)。
衣装合わせで最後に全身タイツが出てきたとき、スタッフさんが少し気まずそうにしていたんですけど、私は「来たー!」ってノリノリでした。撮影中もスイッチが入りすぎて、ムロさんに「ノリすぎ!」って笑われるくらい(笑)。
──おりょうという人物を演じるうえで、共鳴した部分はありましたか?
似てるかというと…全然違うと思います(笑)。私はかなり平和主義なので、おりょうみたいにまっすぐグイッといけるタイプではなくて。
でも、「感情を迷わず出せるところ」はすごく好きでした。優しく寄り添うときは包み込んで、ぶつけるときはバーン!といける。その振れ幅が、おりょうの魅力なんです。演じていて爽快でしたし、心にも残る役になりました。
実はすごく緊張しいで、小さなことでも焦ってしまうタイプ
──もし広瀬さんが幕末に生きていたら、どんな女性でいたいですか?
むしろ“おりょう“みたいに生きてみたいです。あの時代って、今ほど女性の立場が強くなかったと思うんですけど、その中で自分を貫いて、はっきり愛を示せる女性ってすごく魅力的で。
それに、お着物って背筋が自然と伸びるんです。心までスッと整うというか。もし幕末にいたら…ちょっとモテにいきたいです(笑)。
──今以上に?(笑)
だって、あの時代はSNSもないですから!“誰に見られているか”とか考えなくていい分、今よりもっと自由に生きられそうじゃないですか(笑)。
──劇中のおりょうは、龍馬のピンチを救う存在としても描かれていますが、広瀬さん自身はピンチに直面したとき、どう乗り越えていますか?
私、実はすごく緊張しいで、小さなことでも「どうしよう…!」と焦ってしまうタイプなんです(笑)。でも最終的には「もうノリでいくしかない!」と切り替えるようにしています。考えすぎると動けなくなってしまうので、「まずやってみて、ダメなら直せばいい」という感じで。『R-1グランプリ』の生放送MCのときも、舞台袖ではせいやさんと「やばい、やばい!」って言ってるのに、本番が始まるとスイッチが入るんです。
今回の福田組に“新参者”として入るときも緊張はあったんですけど、福田監督がよく笑ってくださるので、空気がふっと柔らかくなって。本当に心強かったです。私は「まずは大きくやって、そこから調整する」派。小さく始めると広げるのが難しいけれど、大きく出たものは引ける。だから、最初は思い切って“バーン!”といく。その切り替えが、私にとって“前に進むスイッチ”なんです。
「偉人」じゃなく、“ひとりの人”として描かれているんです
──作品を観る方には、どんなふうに作品を楽しんでほしいですか?
時代劇ではあるんですけど、すごく入りやすい作品なんです。登場するのは、坂本龍馬や西郷隆盛といった歴史上の偉人たち。でも、堅苦しさはまったくなくて。「教科書に載っている人」ではなく、“感情のあるひとりの人”として描かれているんです。だから歴史に詳しくなくても楽しめるし、むしろ「難しそう」と思っている人ほど観てほしいです。私自身、歴史に詳しいほうではなかったんですが、「この背景を知ったらもっと面白くなるかも」と思えて、観終わったあとに改めて調べてみたくなりました。それは自分でも新鮮な体験でした。
大人はもちろん、お子さまにも届く作品だと思います。気負わずに観られて、でも観終わったあとにちょっと心が動く。そんな“余白”のある映画です。
Information
映画『新解釈・幕末伝』12月19日(金)公開
坂本龍馬と西郷隆盛――激動の幕末で日本の未来を変えようとした二人の関係を、ユーモアとあたたかさを交えて描く“もうひとつの幕末史”。 ペリー来航から薩長同盟、新政府樹立へと続く歴史的事件を福田監督の新解釈を交えてながら描き、英雄たちの迷いや絆を浮かび上がらせます。歴史に詳しくなくても楽しめる、笑えて心に残る一本。
ワンピース¥61,600(BAUM UND PFERDGARTEN/バウム・ウンド・ヘルガーテン)ショートブーツ¥48,400(YOSHITO/ヨシト)ピアス¥20,900(MAYU/マユ)
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撮影/上村透生 ヘアメーク/岡野瑞恵 スタイリング/梶原浩敬(Stie-lo) 取材/池田鉄平 編集/越知恭子
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