有村架純さん(32) 「もう出せるものがないかも、と心が折れそうになった」 転機になった作品とは

17歳で上京し、俳優としてのキャリアをスタートさせた有村架純さん。代表作とともに、数多くの受賞歴も誇る、まさに国民的俳優のひとりです。芸歴15年、トップを走り続ける中で、意識的に“変えたこと”と“変わらないこと”。そして、作品終わりのリフレッシュ法まで。有村さんの現在地を聞きました。

緊張しやすい性格は15年経っても変わりません。でもそれが、いい影響を与えてくれてるかなって

仕事を任されるのは光栄だけど、同時に孤独感を覚えたことも

実は、25〜27歳の時期に、「もう自分から出せるものがないかも」と一度心が折れそうになったときがあるんです。そのときは、考える間もなく目の前の仕事をとにかく乗り越えている感覚でした。一旦ストップしたいけれどできない状況でもがくなか、転機になったのは、映画『前科者』。苦しい物語で精神力も求められたのですが、「お芝居が楽しい」という感情に再び出合えたんですよね。以降、ポジティブな思考でトライできることも増えたので、思い入れのある作品のひとつです。今年32歳になり、20代とは違った悩みに直面し、去年もモヤモヤしていました。30代の悩みはまたちょっと違った角度のもので、それこそ、読者のみなさんにも共感していただけると思うのですが、この世代になると、お仕事ができて当たり前になってくるじゃないですか。

任されるようになって、それは光栄でありがたいことではあるけれど、「もうできるよね」という雰囲気に、私は孤独感を覚えてしまったんです。年齢的に叱られる機会も少なくなり、自分自身で気づいて、見出していかないといけないフェーズに入ったことに怖さもありました。そんな戸惑いをつい去年まで持っていたのですが、ある日お世話になったスタッフさんに「有村さん、諦めずに本当によく頑張ってるね」って声をかけてもらい、「ひとりじゃないんだ」って思える瞬間があったんです。諦めずに使命を全うし続ければ、結果としてついてくるものはあるし、年齢を重ねても見てくれる人はいる。そこに気づけて、また前を向くことができています。

映画『ブラック・ショーマン』は役者を続ける面白さを再確認した現場でした

『ブラック・ショーマン』も、諦めずに続ける面白さを感じた現場でした。伊藤淳史さんとは、映画『ビリギャル』以来の共演。その際は塾講師と生徒の役でしたが、今作では婚約者同士で。全く違った役柄で再会できるところに、役者を続ける意味や醍醐味を感じました。福山さんとは初共演ですが、撮影の合間に劇中で福山さんが披露するマジックを教えてもらったり、過去作品のお話を聞いたり。自分が見てきたスターの方とご一緒するのはすごく不思議で、「この世界線、なんだ?」と未だに思いますね。

場数を経験しても、常にプレッシャーは感じています。私は、現場を楽しむ気持ちよりも、不安が大きくなるタイプ。緊張して、手が震えることもあるくらい。「ちゃんと役が報われるように全うしないと」って変に責任を背負いすぎている部分があるのは自覚しています。多分、周りはそこまで求めていないと思いますが(笑)、このスタイルがお芝居にプラスの影響を与えている面は少なからずあるし、プレッシャーがなくなると緩くなってしまいそう。仕事に関してはどうしても乗り越えどきがあると思うんです。その先にいい景色が待っているとわかっているのに翻すのはもったいない。普段の自分でいるときは無理しないけれど、仕事では、ここぞ!というときに踏ん張れる人でいたいです。

有村架純さんの〝取捨選択〟

【取】
キッチンに立つ時間を作ります

コンディションが良くないと、仕事に前向きになれないし、自信も失っていくので、自分の生活を整えることは大切にしています。20代から意識していましたが、当時は立ち止まる時間もなくて、なかなか実現できませんでした。最近は、キッチンに立って料理をしてみたり、丁寧に掃除をしたり、整理整頓したり……。生きるための行動みたいなものをちゃんとするように心掛けています。インプットも重要視していて、インタビュー記事もよく読みます。本気で何かに向き合っている方のお話の中には、自分のモヤモヤが言語化されていることもあって勉強になるんです。好き嫌いせずに作品も観ますが、あまり選ばないのはホラー作品。幽霊が怖い、とかはないのですが、急に驚かされることが苦手で、積極的には観ません(笑)。

【捨】
無理するのをやめました。
自分からかけ離れたことはしないようにしています

以前ご一緒した役者さんで、計算ではなく、自然とスタッフ陣を巻き込むのが本当に上手な方がいて、ずっと憧れていました。私もその姿勢に助けられたので、同じように振る舞ってみたことがあったんです。でも、元々率先して現場を盛り上げるタイプではないから、自分が自分じゃない感覚に陥ってしまって。頑張りすぎると自分からかけ離れてしまう、と気づいてからは本番以外では無理をしないことに決めました。ムードメーカー的存在ではないですが、現場では口角を上げるようにしたり、スタッフさんと話す場面では、「○○さん、どうですか?」と名前で呼びかけることは大事にしています。

お香を焚いて、何もしない時間を作り、シャープになった気持ちを丸くします
仕事が続くと、気合いが入ることもあって、気持ちがどんどんシャープになる感覚があるんです。その状態がずっと続くと自分も疲れるので、休日やクランクアップ後は、本能に任せる時間を作ります。ゆっくり起きて、好きなものを食べたり、観たり。お香もリフレッシュのマストアイテム。特に好きなのは、白檀とフランキンセンスの香り。気持ちが丸くなったと思えたら、好きな人たちに会いに行って、英気を養う。それだけで結構、リセットできます。

INFORMATION

©2025映画『ブラック・ショーマン』製作委員会

映画『ブラック・ショーマン』(9月12日公開)
突然父親を殺され、真実を知りたいと願う神尾真世(有村架純)。彼女の前に現れたのは、元マジシャンの叔父・神尾武史(福山雅治)だった。武史の卓越したマジックと巧みな人間観察&誘導尋問を武器に、二人は事件の謎に挑む。原作は東野圭吾の『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』(光文社文庫刊)。

有村架純さん/KASUMI ARIMURA
1993年生まれ。兵庫県出身。2010年、テレビ朝日『ハガネの女』でドラマ初出演を果たす。2015年には、主演作の映画『ストロボ・エッジ』『ビリギャル』が公開。『ビリギャル』では、日本アカデミー賞優秀主演女優賞・新人俳優賞をW受賞。2021年公開の映画『花束みたいな恋をした』では、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。近年の主な出演作は、NHK大河ドラマ『どうする家康』、フジテレビ『海のはじまり』、映画『ちひろさん』『花まんま』など。

【衣装クレジット】トップス¥118,580パンツ¥95,590(ともにデストレー/IZA)イヤカフ上¥7,700下¥8,800(ともにマサナ)リング¥23,100(アグ)

撮影/東 京祐 ヘアメイク/尾曲いずみ スタイリング/瀬川結美子 取材/坂本結香 編集/越知恭子 再構成/Bravoworks,Inc.
※CLASSY.2025年10月号「私たちの取捨選択」より。
※掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。

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表紙モデル:山本 美月