「〇〇年も付き合っているし…」「これだけこの仕事にお金をかけたから…」と、取り返せるかわからない時間やお金をもったいないと思って前に進めていないことありませんか?実はそれ「サンクコストバイアス」にとらわれているかも?この記事でセルフチェックしてみて!
そもそもサンクコストバイアスって何?
「サンクコスト」とは日本語にすると「埋没コスト」といい、投資や事業にかけたまだ芽がでていない、お金や時間のことを言います。「サンクコストバイアス」とは、時間、努力、お金をかけたから捨てられない、早く見切りをつけた方がいいのに手放したくなくなる心理傾向のことを言います。これはキャリア、恋愛にも置き換え可能です。
悩みの放置は決断麻痺!?〝脱・犠牲者〞までの思考術4ステップ
今までかけた時間やお金よりも、失う機会に目をむけて!
サンクコストバイアスの代表的な原因のひとつは「時間」。最近話題の〝コスパ〞や〝タイパ〞にも深く関わっていて、特に日本人は「この服、30%引きで買えたの!」のようなコスト意識は非常に高いけれど、「残業などでかけた時間に自身の労力を評価する」などの時間意識が大変低いと感じています。会社でも意思決定に費やすまでの会議が多く組まれていたりすることも、同じ構造ですね。このように日本人特有の時間をかけることに美徳を感じている文化が根強く、そこに費やした時間に対してもったいなさを感じ、手放すことに躊躇してしまう人が多いように思います。決断に時間をかけたり、見切りが遅れることによって、新たなチャンス・出会い・キャリアなどの選択肢を逃してしまっているんです。
その状態を脱するためには、まずサンクコストバイアスを認識し、自分がその犠牲になっていることを理解することが最も大切。そして「現状にとどまらなかったときの結果を先読みする」ことで、決断することだけにとらわれず損失回避もできます。また人間には直観的に判断する脳=「system 1」と、論理的に判断する脳=「system 2」の2つが備わっていて、サンクコストバイアスを感じるときは「これほど時間をかけたしもったいない」とsystem 1の考え方になりがち…。
現実的な解決策を導くなら、system 2を上手に使い問題を客観的に推論して判断するのがコツです。例えば転職を考えているなら、今の職場と転職を考えている職場の待遇や環境面などの客観的事実をメモに書き出すなどの〝可視化〞で、自然と解決策が見つかり意思決定ができるようになります。それでも決断できない場合は期限を決めてみて。結婚でいう「お金が貯まったら〜」「余裕ができたら〜」は決断麻痺!期限を設けてもそこまでに決められなかったら次に進んだ方がよいでしょう。
「もったいない」が理由でも大丈夫!恋愛や仕事で〝損切り〟をする基準って?
仕事であれば「現在の職場」と「転職を考えている職場」で5:5で悩んでいるのであれば「転職を考えている職場」に切り替えてしまってOK。なぜなら、本来「現状維持バイアス」や「サンクコストバイアス」によって、「現在の職場」が有利であるはずなのに、5:5になっている時点で「転職を考えている職場」にだいぶ傾いていると言えるからです。これは恋愛においても当てはめることが可能です。現在の状況を維持している理由が「〇〇年勤めたから」や「〇〇年付き合っているから」しか出てこない場合は、新しい環境に身を置くことを積極的に考えましょう。
知っているだけで、客観的な自己理解にもつながる自分を見直せる行動経済学用語
【IKEA効果】
同じ家具でも自分で組み立てる必要のあるIKEA製品には、組み立てた労力分の愛着が湧いてしまい捨てにくくなってしまう心理傾向。
【機会コスト】
ある決定を下した場合に、他の有利な選択肢から得られたであろう利益のこと。サンクコストバイアスにとらわれると、この機会コストを失いがちになる。
【現状維持バイアス】
たとえそれが現在の状況よりもよいとわかっていながら、新しいことを行うより、慣れ親しんだ現状の環境を維持したがる心理傾向。
【エンダウメント効果】
人は自分が所有しているものに対して価値を置く傾向があり、手に入れるものより、何かを手放すことに対してストレスを感じる心理傾向。
教えてくれたのは…行動経済学コンサルタント・相良奈美香さん
日本で数少ない「行動経済学」博士号取得者。まだ行動経済学が一般的に広まる前から10年以上にわたり最前線で活躍する第一人者。著書に『行動経済学が最強の学問である』がある。
イラスト/kirinpicnic 取材/川上あまの 編集/大島滉平 再構成/Bravoworks,Inc.