どんな役柄でもその人にしか見えないような、憑依型の天才俳優…というイメージを抱いていた門脇 麦さん。素顔はあっけらかんとしていて、とてもフラット。そしてとにかく明るい!たのしそう!正直かなり意外だったのですが、その理由がわかるインタビューでした。
自分も周りも幸せにするウェルビー女子な生き方、教えてもらいました
〝仕事をたのしむ〞のも筋力。でもどうしてもたのしめないことは30代ならやめてもいい
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自分に自信がないから、ストイックだった
19歳で俳優の仕事を始めて以来、〝自分を追い込んでなんぼ〞という日本的なスタンスで役に向き合ってきました。でもそれって結局、自分が知っている苦しみの中でしか生み出せないし、自分の心を痛めつけることになるんですよね。25歳くらいになると、このまま仕事を続けるのはきついなと感じ始めていました。ちょうどその頃、『わたしは真悟』というミュージカルでフランス人演出家との出会いがあったんです。その方から「たのしまないといいクリエーションは生まれないよ」と言われて、「演技ってたのしんでいいものなんだ」ってハッとしました。たしかに、自分を圧迫するよりも緩めたほうがいいものが生まれるかも、と。それまでは主人公が抱えている悩みを私もそのまま引き受ける、という覚悟でやっていた部分もあって。今振り返ると当時の演技は二度とできないと思うから、それはそれで貴重な時期だったけれどこの言葉がきっかけで、プラスの感情でものづくりすることの大切さと豊かさを学びました。
それから「謝るな」と言われたことも心に残っていて。あるシーン見せで彼の「ちょっと違うな」という反応に、私が「すみません!」って咄嗟に謝ったことがあったんです。そのとき「なんで謝るの?今あなたの提案を見て、僕は違うっていう判断ができた。ひとつの材料を与えてくれたんだから、むしろありがとうだよ」と言われて。日本人ってすぐ「すみません」って口にしちゃうじゃないですか。提案するのが怖いし、違うって言われたらどうしようってなるからつい謝っちゃう。私も無意識にそうしていたけど、彼の言う通り、恐縮しすぎなくていいんだなっていう発見にもなった。たのしむことと同じくらい、必要以上に謝らないことも大切にしています。
最近はだいぶ、自分を緩められるようになりましたが、25歳までは〝ストイック麦〞でした(笑)。特にバレエをやっていた頃は鬼ストイック。体が固くて人一倍ストレッチしなきゃと思って壁に開脚したまま寝たり、夜ご飯を抜いたり、30分は必ず湯船に浸かって汗をかくとか、自分に厳しいルールを課していました。でももう、それはしません。今は明日の撮影が早いなら、お風呂に浸かるのはいいやって考えられるようになりました。結局自分に自信がないから、ストイックだったんだろうなって思うんです。ストイックにしなくても「大丈夫、できる」って自信がついてきたから、自分を緩められるようになった。例えば今なら、家でボーッとYoutubeを見ているときに、いきなり監督が入ってきて「よーい、スタート!」って言われても現場と同じようにできる何かはあると思っています(笑)。
自分だけ…という気持ちに溺れないように
今は、いっぱいいっぱいになって仕事がたのしめなくなる、ということはなくなってきたかな。余裕がなくて周りが見えないって、自分の感情に溺れてしまっているからだと思うんです。そうならないために意識しているのは、一緒に働いているスタッフや仲間を頼ること。あとはちゃんと「疲れた」って言う。現場にはともに戦っている人たちがいるから、みんなで「疲れたよね!」と言い合って、少しでもたのしい方向に持っていく。「なんで、私だけ……」って捉えてしまうと視野が狭くなるから、いい意味でふざけたり、適当にやることも大事。そうやって緩急がつけられるようになると、ネガティブな感情に溺れなくなると思います。
門脇 麦
1992年生まれ。東京都出身。2011年に女優デビュー。2015年には映画『愛の渦』などで第88回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞など新人各賞を受賞。以来、映画『あのこは貴族』、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』など数多くの作品で活躍。現在は日本テレビ「リバーサルオーケストラ」(毎週水曜22:00)に出演中。3月24日から始まるWOWOWの連続ドラマW-30「ながたんと青と-いちかの料理帖-」(毎週金曜23:00)では主演を務める。
撮影/水野美隆 ヘアメーク/秋鹿裕子〈W〉スタイリング/佐々木翔 取材/坂本結香 再構成/Bravoworks.Inc