大河ドラマ『鎌倉殿の13人』など、ドラマや映画、舞台に大活躍している瀬戸康史さん。2月から上演される舞台『笑の大学』の出演を前に、2回にわたりインタビューをお届けします。前編では瀬戸さんにとって初の二人芝居という今回の舞台のお話をメインに伺いました。
――25年ぶりの再演となる三谷幸喜さん作・演出の『笑の大学』は内野聖陽さんとの二人芝居です。瀬戸さんが三谷さん演出の舞台作品に出演するのは3作目ですが、オファーが来たときの気持ちを教えてください。
また三谷さんが呼んでくれたという嬉しさがありました。演出家さんや監督に自分がはまってるかどうかってわからないじゃないですか(苦笑)。こっちが好きだったとしても何度もご一緒できるわけでもないし、「またやろうよ」って言われたとしてもそれが本当なのかわからないですし。だけど三谷さんは本当に連続で呼んでくれる。しかも20数年、「この作品を託したい俳優さんに出会うまで再演はしないと決めていた。やれる役者を探していた」と三谷さんがコメントしているのも嬉しいなあって思いました。僕は二人芝居が初めてで内野さんも初めましてなので、そういうことではどうなるんだろうっていう気持ちはあるんですが、今は早く稽古をやりたいっていう気持ちのほうが強いですね。
――出演された大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も三谷さんが脚本を担当していました。三谷作品の魅力はどんなところにあると思いますか?
どの作品にも共通して、役者さん全員に愛があるなっていうのは感じています。『鎌倉殿の13人』で言えば、どんどんダークになっていく北条義時でさえ、どこか見捨てないというか嫌いになれないところがあって。三谷さんが一人一人に思いを込めて書いてるからなのかなって、とても感じます。僕、大河ドラマでは「全シーン、笑わせてください」って三谷さんに直で言われたんですよ(笑)。そんなドSな部分もあって。舞台『日本の歴史』の演出でも「次、こういう感じでやってください」ってむちゃぶりされたり、僕で遊んでました(笑)。
――三谷さんは「役者さん全員に愛がある」とのことですが、瀬戸さんが三谷さんから「愛されてるな」と思ったエピソードはありますか?
結構、メールをくださいます。『鎌倉殿の13人』では、僕が演じる北条時房がSNSでトレンド入りすることが多かったんです。オンエアしてないときもなぜかトレンドに入っていたり(笑)、トレンド1位になったときは三谷さんが「大人気じゃないですか~」ってメールをくださいました。何か作品が終わるごとに「瀬戸さんのおかげで」みたいなメールをくださったり、お会いした時にも直接そう言ってくださったりします。
――稽古や演出に関してはいかがですか?
野放しじゃないですけど、自由にやらせてくれます。「やりすぎたら僕が止めるので」って。もしかしたら、相手によって演出の仕方は違うんですかね。僕の場合は、野放しにしといたほうがいいだろうって思ってるのかもしれないです(笑)。
――今作は初演以来、世界各国で上演され映画化もされた作品。戦時色が濃い時代に、内野さん演じる警視庁検閲係と瀬戸さん演じる劇団の作家との上演許可をめぐる丁々発止のやり取りが描かれます。今、どんな期待感をもっていますか?
初演舞台も映画も、演じる役者が違うとこんなにも見え方が違うというか、二人のバランスが違うんですね。それもこの作品の魅力のひとつだと思います。これを僕と内野さんがやるとどういう感じになるんだろうって楽しみです。見た目は圧倒的に内野さんのほうがいろんな意味で強そうだけど(笑)、ここをくすぐると壊れるんじゃないかとか、役者によっていろんなやり方があると思うんです。そういうところはワクワクしますね。僕らがどれだけ真面目に必死にやるか…観る人にはそれが面白いと思います。時代背景とか複雑な部分はあるんですけど、それを知らなかったとしても見やすいし、楽しめる作品になると思います。
――’22年出演の舞台『世界は笑う』でも、瀬戸さんの大真面目でいてとぼけたお芝居がとても笑えました。今作では自分なりの課題はありますか?
コメディにおいて、僕の場合は笑いを狙ったり変に計算したり、芝居にいやらしさみたいなものが出るとダメだと思うんです。それを器用にできる役者さんもたくさんいらっしゃいますけど、僕は脚本のままに大真面目にやることが正解だと思ってるんで、そのスタンスは変わらないですね。今回はセリフも多いですし、リアクションも含めて検閲係の内野さんを言葉で攻めるときに面白くできればいいなと思ってます。
――三谷さんは「瀬戸さんは、今、僕が最も信頼している俳優の一人」ともコメントしています。
こんなに嬉しいことはないですよね。三谷さんにそんなこと言われるなんて、ねえ。ずっとそう思われるような働きはしたいです。
――今後もずっと三谷作品に呼ばれそうですね。
三谷さんが公式コメントで「全部の作品に出てほしい」とも言ってくださってました。
――今作に参加することで、個人的な楽しみはありますか?
本当に小さなことですが…先日、福岡に行くことがあって母親に会ったんですけど、最近は孫の世話で忙しいらしく僕の舞台を観られてなかったんです。でも今回は福岡でも上演するので観に行けるって、母がすごく楽しみにしているのが嬉しかったですね。こんなことでもいいですか?(笑)
瀬戸康史
‘88年5月18日生まれ 福岡県出身 血液型A型●’05年よりドラマや映画、舞台に出演。‘17年の舞台『関数ドミノ』で文化庁芸術祭演劇部門新人賞を受賞。最近の主な出演作はドラマ『私の家政夫ナギサさん』『霊媒探偵・城塚翡翠』、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、映画『コンフィデンスマンJP -英雄編-』『愛なのに』、舞台『日本の歴史』『彼女を笑う人がいても』『世界は笑う』など。映画『愛なのに』で第44回ヨコハマ映画祭の主演男優賞を受賞。
PARCO劇場開場 50 周年記念シリーズ
『笑(わらい)の大学』
‘96 年の初演で読売演劇大賞「最優秀作品賞」を受賞、世界各国で翻訳上演され映画化もされた三谷幸喜の傑作二人芝居。三谷幸喜が演出するのは初となる。戦時色が濃厚になる昭和15年、登場人物は警視庁検閲係・向坂睦男(内野聖陽)と劇団「笑の大学」座付作家・椿 一(瀬戸康史)。非常時に喜劇など許さないとする向坂と、なんとか上演許可をもらいたい椿。相対する二人のドラマが始まる。作・演出/三谷幸喜 ●東京公演’23年2月8日(水)~3月5日(日)PARCO劇場。その後、新潟、長野、大阪、福岡、宮城、兵庫、沖縄の全8都市にて上演。https://stage.parco.jp/program/warai
撮影/木村 敦 ヘアメーク/須賀元子 スタイリング/小林洋治郎 取材・文/駿河良美 構成/中畑有理(CLASSY.編集室)