漢字の世界には、いわゆる「誤読の定番」と呼ばれるものが存在します。その多くは、全く「読めない」というよりも、正しいつもりで「間違って読んでいる」と言えるでしょう。これらは、日常生活の思わぬところで出会うこともありますし、学校や入試問題の漢字テストでは好んで(?)出題されるものでもあります。今回は、そんな漢字を紹介します。
1.「完遂」
まず、「完遂」です。「完」「遂」ともに常用漢字です。「所期の目的を完遂する」のように使います。さて、何と読むでしょうか?
正解は、「完遂(カンスイ)」でした。意味は「終わりまですっかり成し遂げること」です。これを「カンツイ」と読んでしまった人はいませんか? 「遂」は訓読みでは、「つい(に)」と読みますが、音読みでは「スイ」と読みます。「遂行(スイコウ)」「未遂(ミスイ)」などの熟語でも「スイ」です。普通に読めば間違えないはずなのですが、音訓が「スイ」「つい」と似ているところが誤読の原因と考えられます。
なお、問題には直接関係ありませんが、例文の「所期(ショキ)」にちょっと注目してみてください。この「所期」は「そうしようと心に決めていること。また、期待していること」という意味ですが、「所期の目的」というフレーズの形でおなじみの割に、これを「初期の目的」と書いている(変換している)事例をよく見ます。あわせて覚えておきましょう。
2.「罹患」
次は、「罹患」です。「罹」は常用漢字外です。「インフルエンザに罹患する」のように使います。さて、何と読むでしょうか?
正解は、「罹患(リカン)」でした。意味は「病気にかかること」です。「ラカン」と読んでしまった人はいませんか? 常用漢字外「罹」は、音読みは「リ」、訓読みは「かか(る)」ですが、字形が似ている字に、常用漢字の「羅」があります。「網羅(モウラ)」などの熟語でおなじみですね。この「羅(ラ)」と「罹(リ)」は、字形が似ているだけでなく、音読みの発音も同じ「ラ行」で隣り合っているだけに、間違えてしまうのではないかと考えます。ここ3年の間のコロナ禍で、「罹患(率)」は、よく耳にする言葉となってしまいましたが、「災害にあうこと」という意味の「罹災(リサイ)」という言葉もありますから、読み書きともに注意しておきたい言葉です。
3.「団塊」
最後は、「団塊」です。「団」「塊」ともに常用漢字です。「私の父は、いわゆる団塊の世代だ」のように使います。さて、何と読むでしょうか?
正解は、「団塊(ダンカイ)」でした。「団塊」の意味は、「かたまっていること。かたまり」ですが、「団塊の世代」と使われた場合は、「第二次大戦直後から数年後の第一次ベビーブームに生まれた世代のことを指し、これは作家の堺屋太一氏が自身の小説で名付けた言葉です。
これを「ダンキ」または「ダンコン」と読んでしまった人はいませんか。これは、昔からテレビのアナウンサーの「誤読の定番」で、それこそ周期的に誤読しるアナウンサーが出現し、そのたびに話題になります。常用漢字「塊」は、音読みが「カイ」、訓読みが「かたまり」ですが、字形が似ている「鬼」「愧」からの連想で「キ」と、同じく「魂」からの連想で「コン」と読んでしまうのでしょう。
なお、「団塊」の「団」はいつでも「ダン」だからと侮ってはいけません。「布団(蒲団)」は「フトン」、「団栗」は「ドングリ」と、「トン」「ドン」の音読みも持っています。
いかがでしたか? また、続編を考えております。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「読めそうで読めない間違いやすい漢字」(二見書房)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)