心に深い傷を負った男たちの葛藤と戦い、そして愛を描いた映画『恋い焦れ歌え』。本作品で長編映画初主演を務めたのはCLASSY.本誌にも何度も登場している俳優・稲葉友さん。初めての主演にかける思いや心に恐ろしいトラウマを抱えた小学校臨時教員・桐谷仁役を演じた感想、作品を通して伝えたいメッセージについてお話を伺いました。
無事に公開を迎えられたこと、それ自体にホッとしています
−−初の長編主演作がいよいよ公開となります。今の率直な気持ちを教えてください。
やっと皆さんに届けられるという喜びが大きいです。内容的になかなかハードな作品なので、脚本の熱量に自分は追いつけるだろうか、ちゃんと体現できるだろうかっていう不安が大きかったんです。それだけに、公開の段階までたどり着けて単純に嬉しいですし、ほっとしています。
ハードな役柄を演じ抜けたのは…監督と築き上げた関係性のおかげ
−−難しい役どころでしたが、役作りはどのようにされましたか?
ピアノやラップ、アクションのシーンがあったので、そのあたりは撮影が始まる前に色々と準備をしました。あとは熊坂監督やKAI役の遠藤健慎とたくさんディスカッションをして、少しずつ桐谷仁という人間を創り上げていった感じですね。基本的に役作りに関しては人に相談しないタイプなんですけど、今回は熊坂監督が「何でも話して」って言ってくださったので、胸を借りるというか…頼らせていただきました。しっかりと意思疎通ができていたので、すごく集中力のある現場でしたし、渦巻くエネルギーのようなものも確かに感じました。作品自体はハードですけど、撮影中の僕の心は穏やかだった気がします。
映画を通して役者として“一歩踏み出すべき瞬間”を体感できた
−−演じるにあたって特に苦戦されたシーンがあれば教えてください。
どのシーンも難しかったですよ(笑)。でも特に、KAIと出会ってシェルターのようなところに連れて行かれ、目を覚ましてラップをして、っていう一連のシーンはとても緊張感がありました。かなり長回しで撮影したので、現場がエネルギーに満ちていて、熱狂に近いものがあったように思います。役柄としても、俳優としての僕自身も、一歩踏み出さなきゃいけない瞬間だったので、すごく思い出深いシーンになりましたね。
あとはこの作品、去年の7月に約12日間で撮影したんですけど、本当に毎日毎日雨で(笑)。雨にもなかなか苦しめられたという…。
ガチのトラウマは…そりゃあ内緒ですよ(笑)
−−桐谷仁は心に深い傷を抱えた男でしたが、稲葉さんご自身にも“トラウマ”ってありますか?
小さいトラウマでいいですか?ガチのやつは話せません!(笑)。僕、嫌なことは忘れるタイプで。忘れたことすら忘れちゃうくらいなんですけど(笑)。そんな中でも未だにフラッシュバックするのは、お医者さんが病棟をゾロゾロ歩く“総回診”のようなシーン。というのも、中学生のとき足を怪我して手術を受けたことがあって。それで術後だいぶ良くなってきたなという頃に、たくさんのお医者さんが僕の部屋に入ってきて足を見ながらあれこれ話をしていたんですけど、最後にその中で一番偉いだろう先生が僕に向かって「よかったね、足が残って」って言ったんです。それが衝撃というか…それからはお医者さんの集団を見るたび「うわ、怖っ」って思っちゃいます。
自分の中にある衝動に、愛に、気づいてくれたら嬉しい
−−稲葉さんが、この作品を通して伝えたいメッセージはありますか?
人によって捉え方が違うのはもちろんですが、同じ人であっても、そのときの状況や体調によって感じ方が大きく変わる作品だと思います。それでも多くの皆さんに“愛”というものが伝わるといいかな。誰かの背中を押すことも、手を引くこともしない作品なのかなと自分自身では思っているんですが、作品を観ていただいた皆さんの中にあるエネルギーを揺さぶるというか、何かの衝動が湧く体験に繋がると嬉しいです。
映画『恋い焦れ歌え』2022年5月27日(金)渋谷シネクイントほか全国順次公開
Netflix映画部門1位を獲得した記録的BL実写映画『性の劇薬』のフューチャーコミックス、『百円の恋』『アンダードッグ』のスタジオブルーがタッグを組んだ衝撃作。身も心も凌辱された小学校臨時教員と彼を追い詰める孤高のラッパー。社会からはみ出し、心に傷を持つ者たちが生きるために葛藤と戦い、その先にある“真実の愛”に触れる。
出演:稲葉友 遠藤健慎 さとうほなみ 高橋里恩 ほか
原作・監督・脚本:熊坂出
© 2021「恋い焦れ歌え」製作委員会
【衣装詳細】
カーディガン¥13,200Tシャツ¥8,800〈ともにエバース〉パンツ¥22,900〈テイクオン〉サンダル¥33,000〈クルニ〉(すべてシアン PR tel.03-6662-5525)ソックス¥2,420(ザ・ロールデザイン/スタンレーインターナショナル tel.03-3760-6088)
撮影/木村 敦 ヘアメーク/岡本典子 スタイリング/添田和宏 取材・文/伊藤綾香 構成/宮島彰子(CLASSY.ONLINE編集室)