昨年のデビュー以来、テレビで見ない日はないほどの活躍を見せている「なにわ男子」。中でも次々にドラマ、映画に出演し、俳優としても存在感を高めているのが道枝駿佑さん。道枝さん演じるいまどきな「はじめちゃん」像が好評のドラマ『金田一少年の事件簿』を辛酸なめ子さんとチェックしてみました。
5代目・金田一を演じるのは、勢いがすごい道枝駿佑
エターナルな人気の『金田一少年の事件簿』シリーズ。堂本剛、松本潤、亀梨和也、山田涼介、と珠玉のジャニーズたちが名探偵・金田一耕助の孫の金田一 一(はじめ)役を演じてきました。5代目の一役は、最近勢いがすごい「なにわ男子」道枝駿佑です。
道枝駿佑は山田涼介が演じる4代目金田一を見て、事務所に履歴書を送ったというエピソードが運命的です。卒業文集にも「金田一 一をやる!」と書いていたとか。入所時からの夢だったので、ドラマが決まった時は嬉しすぎて号泣したと「ザ・テレビジョン」(4/29号)のインタビューで語っています。夢を叶えるためには、アファメーション(肯定的な自己暗示)をすることが大切だと教えてくれるエピソードです。5代目金田一のテーマの一つは「Sっ気」とのことで、犯人を追い詰めて快感を得るようなドSな面を演じてほしい、とプロデューサーから提案されたとか。「普段の僕には全くSっ気がないんでね…」とインタビューでは語っていましたが、素はふわふわしたキャラだそうです。そんな素の部分とドSな演技が入り交じる『金田一少年の事件簿』、早くも迷宮に入り込んでしまいそうな吸引力を感じます。第1話「学園七不思議殺人事件」を見て、「何よりも一番の不思議は道枝駿佑の美しすぎる肌では?」と思わされ、事件が頭に入ってこないほどでした。もちろん若さもあるでしょうが、若い男子にありがちな肌荒れを感じさせない、透明感とツヤときめの細かさに感動しました。
美雪→一への片思いと空回りに感情移入
第2話と第3話は「聖恋島殺人事件」がテーマの前後編。原作マンガ『金田一少年の事件簿Rシリーズ』でも人気のエピソードです。ある時、剣持警部(沢村一樹)に誘われて、フィッシングツアーに参加することになった金田一一と幼なじみの七瀬美雪(上白石萌歌)と、後輩の佐木竜太(美 少年の岩﨑大昇)。大人の警察官が高校生を外泊旅行に誘うなんて,しかも男女混合ってアリ?と思ってしまいますが、金田一 一に漂うピュアさやストイックさに、風紀の乱れはないという安心感があったのかもしれません。他のツアー参加者はクセの強そうなメンツでした。高圧的な医師の影尾(佃典彦)を含む帝王大学病院の医師3名と、医師に取り入ろうとしている医療機器メーカーの営業マン2名。探究心旺盛なライターの右竜あかね(生田絵梨花)に、ツアーガイドの凪田(吉谷彩子)。ゴージャスな旅行を好みそうな医師たちが、なぜ豪華なホテルも観光スポットも何もない島に行こうとしたのかも謎です。金田一 一たち高校生には青春の思い出に良さそうですが……。
島で待ち受けていたのは唯一の住人で、またいわくありそうな熟女、霧声(余貴美子)でした。彼女がなんとひとりで細々とロッジを経営。リゾートアイランドとは名ばかりでした。さらに「ポーーーウ」と時折不気味な鳴き声が響いていて、「あれはセイレーンの鳴き声よ」と、右竜がリサーチしてきた知識を披露。かつて特攻隊の訓練所と出撃港があったという悲しい歴史を持つ聖恋島。不気味な声を聞いた米兵がセイレーンアイランドと名付けたのが島の名前の由来だそうです。「セイレーンは今もこの島に住み着いておりますよ」と、無闇にあおる霧声。金田一一は不安げな表情です。
各々の部屋に入った参加者たち。セイレーンを怖がる美雪に「ここで寝てく?」と、幼なじみのノリで言う一。「そんなことできるわけないでしょ!」と美雪は自意識過剰気味に怒ります。このドラマで感情移入できそうなのは、美雪の一への片思い。好きだけど素直になれなくて、でも相手に尽くそうとして空回りしてしまう……そんな姿がほほえましく共感が持てます。もし高校時代、身近に道枝駿佑みたいな美少年がいたら、美雪以上に自分を見失って毎分毎秒が黒歴史状態になってしまいそうです。最初の事件は、さっそくその晩に発生しました。参加者の女医が「午後22時ちょうどに1階のサロンに来てください」と唐突に招集をかけて皆で集まったところ、女医の眉間に矢が刺さって死亡。「ボオオオー」というセイレーンの声も不気味に響きます。目の前で殺人が起きて、しかも女医さんが目を開けたまま死んでいるというのにほとんど動揺せず、剣持警部と佐木と一緒に外を調べに行く一。冷静な彼らが犯人グループだと思われないか少し心配になります。
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全身ずぶ濡れでも麗しい道枝・金田一少年
次の朝、なんと食料庫が荒らされていて食事が出ないというさらなる試練に見舞われた一行。セイレーンのしわざ説も出る中、医療機器メーカーの2人が「ここで成果を出せば営業でさらに食い込める!」と釣りに出かけます。フィッシングツアーの当初の目的がここで発揮。しかし結局魚はとれず……次は剣持と金田一、医師の潮が釣りに挑戦。命をかけたフィッシングツアーは、潮が釣り竿を持ったまま海中に引きずり込まれて溺死,という悲惨な結果に。
ドラマのハイライトは、一が潮を助けようとして咄嗟に海に飛び込むシーン。荒波に揉まれながらもかっこいいし、全身ずぶ濡れで陸に上がってきた姿も麗しい……。普通の人なら見るも無惨な姿になってしまいます。しかも助けてくれた剣持に対し「ありがとう、、おっさん」と言い放つ一。異を唱える彼に対し「でもおっさんだし」と、さらに畳み掛けます。沢村一樹も見た目は十分若いですが……十代の美少年を演じる道枝の無敵さを感じたシーンでした。これがドSキャラの演出の一つなのでしょうか。後半も一はクールに推理しながら、時々Sっぽさをかいま見せます。ロッジの女主人・霧声を問いつめた時は、霧声はちょっと嬉しそうでした。また、ツアーガイドの凪田が実は元看護師で医師の影尾と付き合っていたと知った時は,思わず「あんなおじさんと!?」と叫びます。またもや美少年の強気ぶりや残酷さを感じたセリフでした。そして推理に必要になったらその都度、遺体安置所に行って冷静に遺体をチェックする姿にも常人離れしたものを感じさせました。
キメの「じっちゃんの名にかけて!」で瞬殺!
美雪のサポートもあって、最後はついにトリックを見破った一。医者に治験で娘を殺された恨みが動機となった事件でした。もう何も怖れるものがなくなった一は、セイレーンが住むという洞窟にひとり降りていきます。そこで「ボオーーン」と鳴き声を発していたのは、湖の中に屹立する魚雷の残骸でした。岩の間から光が差し込む中、「必ず俺がその謎を解いてみせる! じっちゃんの名にかけて!」と凛々しい表情でキメ台詞を放つ一。魔物のセイレーンよりも魔力を感じさせる美しさ。このキメ台詞で、画面ごしに多くの女性たちが殺されたことでしょう……。一番重罪なのは金田一 一、という結論に達せざるを得ないドラマです。
辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」(祥伝社文庫)、「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)など