5月20日(金)よりHuluにて全話独占配信中のHuluオリジナル『あなたに聴かせたい歌があるんだ』。それぞれの夢を叶える人生から“降りた”人たちを描く本作の中で、成田凌さんは役者になる夢を諦めきれずにもがく荻野智史役を、そして伊藤沙莉さんはそんな荻野の恋人であり、アイドルを夢みて上京したものの厳しい現実に打ちのめされる前田ゆか役を演じています。役柄とほぼ同世代のお二人は、どのように作品と向き合ったのか、そして作品を通して伝えたいメッセージとは—。
主演。それでも存在感は一番薄くていいと思った
−−どんな夢も叶うと信じていた17歳と、夢と現実の分岐点で揺れ動く27歳。『あなたに聴かせたい歌があるんだ』では、年齢の変化によって移りゆく夢との向き合い方が描かれています。お二人はご自身が演じる役柄をどのように捉えて役作りをしていたのでしょうか?
成田 凌さん(以下、成田):脚本が完成する前に、僕が演じる荻野がどんなキャラクターなのかを細かく書いた資料を監督からもらいました。それを読んで、「荻野はヘラヘラしたやつにしたいな」って思ったんです。ヘラヘラしていることで、荻野の発言がその場に溶けていくというか…登場人物の中で荻野の存在感が一番薄くなればいいと思って撮影に入りました。撮影が始まってからは、普段ヘラヘラしている中にも、荻野がふと無理に背伸びをする瞬間があることに気づいて。セリフの「僕」を「俺」に変えて切なさを表現してみたり、細かい言い回しを意識しながら演じていました。
伊藤沙莉さん(以下、伊藤):なるほど…。今すごく納得がいったことがあります。作品の中で、ゆかが荻野にプロポーズされるシーンがあるんですけど、なぜかすごいムカつくプロポーズなんです(笑)。普通ならプロポーズってキュンキュンするようなシーンなのに、どうして腹立つんだろうってずっと思っていました。でも今やっと謎が解けました! とにかく荻野にヘラヘラさせようっていう成田さんなりの人物構築があったから、あんなに意思の感じられない“響かない”プロポーズになったんですね。与えられて演じているものだと思ってたのに…成田凌、スゴっ!(笑)
成田:いやいや(笑)。
−−伊藤さんは、ご自身が演じた“前田ゆか”という役をどのように捉えていましたか?
伊藤:成田さんと同じように、私も監督から事前にゆかのプロフィールのようなものを頂いていたんです。彼女には強い意地があって、「夢を叶えなきゃ終われない」という想いが足枷になっているなと自分なりに解釈して把握していました。ただ私、入れてはどんどん捨てるタイプというか…。情報を入れても、それに沿って戦うことができないんです。だから、もともと思い描いたゆかという人物像はありつつも、現場で気づいたことをその都度監督に伝えて、修正しながら撮影を進めていった感じでした。特にゆかがオーディションを受ける場面では、私自身の経験を生かしたアイディアを出させていただいて、監督も「面白いね」と言ってくださって。お陰で監督とは一緒に作品を創り上げている戦友という感じがしましたし、すごく居心地のいい現場でした。
役作りは“知っている感情”や“知っている感覚”を集める作業
−−今回演じた役柄とご自身の性格、似ていると感じる部分はありますか?
成田:似ている部分はないかもしれないです。
伊藤:私もゆかとは似てないかな。素直じゃないとか、ちょっと意地を張るとこは似てなくもないんですけど、私のそれはゆかほどじゃ無いんで(笑)。でも、若い頃に哀れに感じた立場に自分がいたり、理解できなかった他人の意見を時が経ってから「あ、こういうことが言いたかったんだ」ってわかるようになったり、そういう色んなことに気づきながら大人になっていく感じには、自分を投影できるかなって思いました。
−−自分と似ていないと感じる役を演じる時、役作りはどのように行うのでしょうか?
成田:たとえば居た堪れない気持ちになって心がきゅっとするとか、どう処理していいかわからないから無かったことにするとか、誰しもが一度は経験したり感じたことのある感情や感覚を集めていって、荻野という存在を作っていった感じです。もともと自分の中にある感情から、そのキャラクターを理解していくというか。
“自分だったらどう演じるだろう”--思わずゾワっとした注目のシーン
−−お互いの演技で印象に残っているシーンはありますか?
成田:僕は、ゆかがオーディションで審査員に「笑って」って言われるところかな。ゆかのなんともいえない、ゾワっとするような表情が堪らなかったですね。ト書きにただ「うまく笑えていない」って書いてあるとして、自分だったらどう演じるだろうって考えました。
伊藤:私はやっぱり、さっき話したプロポーズのシーンですね。ずっと心に残る感じだったんですよね、あの薄っぺらい感じとか、腹が立つ雰囲気とか。なので、その裏にある役に対する考えが聞けて、すごく納得できました。
やめてもいい、続けてもいい。生き方や夢の抱き方に正解はない
−−CLASSY.の読者はアラサーと呼ばれる世代で、本作のキーポイントとなる27歳、引いてはお二人とも近い年代なのですが、作品を通して、どんなメッセージを伝えたいですか?
成田:全8話それぞれで、色んな種類の悩みが描かれています。伝えたいメッセージとしては、色んな人間がいるから、みんなそれぞれの生き方で大丈夫だよってことですかね。夢を諦めることもそうですけど、ずっと続けてきた何かを27歳になってやめるって、ものすごいエネルギーがいることじゃないですか。でも、やめた先に別の幸せがあるかもしれない。27歳って大人の中盤みたいに思えるけれど、実はまだまだ人生始まったばかりだから、このドラマを観て「まあ、明日も生きてみようかな」と思ってくれたらいいですね。
伊藤:そうですね…どんなことでも「いつでもやめられる」と思えば、気持ちが楽になるよと伝えたいです。色んな可能性を無視してしまうのって、すごく残念。興味があれば飛び込むべきだし、続けることにもやめることにも意味がある。途中で休憩していいし、嫌になったら逃げてもいい。ドラマを観て、もっと軽く楽に生きていいんだということを感じてもらえたら嬉しいです。
Huluオリジナル『あなたに聴かせたい歌があるんだ』
2022年5月20日(金)Huluにて全話独占配信中〈全8話〉
俳優、アイドル、バンドマンなど、それぞれの夢を抱く20代の男女が、思い通りにならない現実にもがきながら生きる様子を描く全8話の連続ドラマ。それぞれが人生の岐路を迎え、理想と現実に葛藤する日々を瑞々しく描き出した群像劇。
公式サイト:https://www.hulu.jp/static/anatanikikasetai/
公式Twitter:@aku_Hulu
公式Instagram:@aku_hulu
撮影/川﨑一貴〈MOUSTACHE〉 ヘアメーク/宮本 愛(成田さん)岡澤愛子(伊藤さん) スタイリング/カワセ 136(成田さん)吉田あかね(伊藤さん) 取材・文/伊藤綾香 構成/宮島彰子〈CLASSY.ONLINE編集室〉