あまたのイケメンを擁するジャニーズの中でも、ひときわ整った王子様ルックスで知られる「Hey! Say! JUMP」の山田涼介さんが主演するドラマ『俺の可愛いはもうすぐ消費期限⁉』。女子を惑わせる「あざとい系男子」を山田さんが演じていることも話題のこのドラマを、辛酸なめ子さんにレビューしていただきました。
「あざとい系男子」も画面越しなら安全な距離感が
あざとい系男子の笑顔の裏側には何があるのでしょう……。以前、CLASSY.本誌の「あざとい系男子」特集の記事を読んで、想像以上のあざとさと魔性に戦慄したことを思い出します。甘え上手で計算高く、好意をチラつかせて女性の反応を観察。女性がどんなにアプローチしても、がんばってるなと思うだけで心を動かされることはないという「あざとい系男子」。もし周りにいたら、危険なので近付けません。『俺の可愛いはもうすぐ消費期限⁉』では、あざと可愛い系男子を「Hey! Say! JUMP」の山田涼介が演じていて、画面ごしに安全な距離感で翻弄されてみたいです。
「可愛いバイアス」で女子のみならずおじさんも虜に
山田涼介演じる丸谷康介は、「俺は可愛いという才能だけで選ばれてきた」と自認する29歳の会社員。ビールメーカーの新商品発表会では飲み干した後、わざと口に泡をつけて微笑んでギャラリーのマダムたちを熱狂させたり、取引先のおじさんの心までつかんだり、人たらしぶりを発揮していました。自らの「可愛いバイアス」を武器に順調に会社員人生を歩んでいた康介ですが、そんな彼を遠くから見つめる謎の男性が。古田新太演じる中年男性は康介に近寄り「マジ可愛い! 超絶可愛い!」とほめ讃えた後、「この可愛い、もうすぐ終わっちゃうんだよな……」と不吉なことをつぶやきます。「可愛いが終わる?」と動揺する康介。受付の仕事をしている彼女、森保莉子(鞘師里保)からは「ビジュ最高」とメッセージが来て、まだそんな気配は一切ありません。
古田新太も別のベクトルで「可愛い」
いっぽう、新しく営業部に配属された真田和泉(芳根京子)は無表情でロボットのように仕事をこなす、今まで康介が接したことがないタイプ。(俺の笑顔スルーですか)と、内心苛立つ康介。既にこの時彼女のことが気になりはじめているような……あざとい系男子には、無関心を装うのが効くのかもしれません。謎の中年男性と出会ってから、運気が下降していった康介。康介の後輩・一ノ瀬圭(大橋和也)に自分の仕事を取られてしまい、その無邪気な可愛いさに敗北。莉子には「自分にしか興味がない」と指摘されて別れを告げられます。やはり「あざとい系男子」は基本ナルシスト。でも、世のお騒がせ芸能人などを見ているとナルシストこそ最強に思えますが、康介はそこまでの強者ではありませんでした。芸能人のように芸があれば良いのですが、康介は「可愛い」以外の才能がないことを自負していたのです。その「可愛い」に期限があると告げてきた謎の男性は「俺はお前なんだよ!」と衝撃の事実を告げます。29歳の康介の30年後、59歳の康介だというのです。あまりの外見の変貌ぶり。この30年間にどんな波乱やストレスがあったのでしょう……。しかし古田新太も別のベクトルで可愛いので、康介が年齢に応じて「可愛い」を模索していった結果なのかもしれません。60近くになってもあざとい系の可愛さは痛々しいので、ゆるキャラ的な可愛さを目指そうと……。ドラマでは見た目の変遷についても描いてほしいところです。
ビジュアルが好きだと別れても未練が残る?
2話では山奥の取引先に和泉と一緒に向かった康介。取引先の社長(きたろう)から「可愛い」と言われ、少し精神的に復活。しかし山奥で車が動かなくなってしまうというハプニングに見舞われ、スマホの充電もなくなって車中泊する流れに。和泉には「私、丸谷さんに興味ないんで」とはっきり言われてしまいます。しかしめげずに靴擦れの和泉のためにスリッパを探してきたり、通りかかる車を寝ないで待ったり、緊急事態に対応する康介。あざとい系男子は皆に愛されることで承認欲求が満たされるので、関心がないとまで言われると、とりあえず好きにさせようとがんばってしまうのかもしれません。しかしそんな康介にもライバルが出現。3話では商品開発部のチーフで和泉の元上司、須藤周平(津田健次郎)が和泉に最接近。どこか嬉しそうな和泉に、もやもやする康介でした。イケオジの登場は嬉しいですが、古田新太が1話以降出てこないのが少し寂しいです。
休日に康介の家で、ビールに合うレシピを考えることに。後輩の一ノ瀬はマンションのトラブルで来られず、康介と和泉の2人きりで料理というドキドキのシチュエーションです。美容に良いカシューナッツを使ったコロッケを作り、レシピ考案の仕事は順調に進みました。しかし、急に康介の家に元カノの莉子がやってきます。あわてて身を隠そうとしますがもつれて倒れて、2人が床で絡み合っているところを莉子が目撃し、ブチギレられる羽目に。莉子の方からフったはずですが……やはりビジュアルが好きだと、別れてもそのあと未練が残ってしまうのでしょう。視聴者的には康介のシャツがはだけた姿の残像がいつまでも残ります。
「あざとい」けど不器用な恋の行方を見守りたい
4話は体調が思わしくなく、康介が社内診療所で診察を受けるシーンからスタート。またシャツがはだけていて、美肌に目が釘付けに。「食欲がなくて胸が締め付けられる」という症状を訴える康介に対し、医者は「おそらく恋だね」と診断していました。しかし康介は世間一般のあざとい系男子と違い、モテモテでずっと恋愛に対して受け身だったので、自分からアプローチする方法を知りませんでした。感情を出さない和泉と、実は恋愛初心者の康介の不器用なラブストーリーにキュンキュンさせられる展開に。いわゆるあざとい系男子はわざと無理な要求を出したり、時には甘えモードになったりして相手の反応を楽しむらしいですが、康介は恋愛をゲームとして楽しんでいないのが好感持てます。リアルな山田涼介はゲーム好きとして、実況チャンネルも持っているとか。ゲームで遊びたい欲は発散しているので、恋愛ゲームで駆け引きはしないのでは?と勝手に想像。
とはいえ康介は和泉に恋心を抱きながらも、「恋はアンチエイジングに効く」と内心、美容効果に期待しています。「恋をすれば未来は変わる」と信じて思いをつのらせる康介。しかし恋をしてきれいになるのは、良い恋をした場合のみかもしれません。悪い恋ではエネルギーや運気を吸い取られたり、自己肯定感が下がって運気低下したり、相手の塩対応で苛立って逆に見た目が劣化する可能性も。30年後の康介は、ひどい失恋を重ねてあんな感じになってしまったのかもしれません……。ナルシスト系の男子は愛するより愛されるほうが幸せなのでは? と老婆心ながら心配しつつ、恋の行方を見守りたいです。
辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」(祥伝社文庫)、「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)など。