宝塚のレジェンド・剣幸さんインタビュー|今も昔も変わらない、その輝きとカッコよさにクローズアップ

宝塚のレジェンド的トップスターとして人気を集め、長く舞台で活躍している剣幸さん。三世代にわたる女性たちの物語を描いたミュージカル作品Musical『The Parlor』に後輩の美弥るりかさん、花乃まりあさんとともに出演。主演の美弥さんが尊敬してやまない大先輩である剣さんに、今回の作品への思いや人生における選択、今も変わらない輝きについてお聞きしました!

――演出家・小林香さんの作品に

――演出家・小林香さんの作品に出演するのは今回で3作目ですが、脚本を読んだ印象はいかがでしたか?

「世の中には〝男はブルー、女はピンク〟というような既成概念がたくさんあって、それにとらわれないで生きていけたらという香さんのメッセージを感じました。私自身は今まであまり気に留めていないことだったので、香さんのたくさんの疑問を聞いて、常識を気にする人や刷り込まれている人が多いことに驚きました。一人ひとり違っても理解し合える世の中になったらいいなとつくづく考えさせられました。三世代それぞれの時代で生きづらさを抱えた人が集まり、仲間とともに前に進む物語なんですが、この作品が面白いのは〝語り合う〟というアナログなことと、〝ゲームの中〟というデジタルなことを融合させているところ。私はゲームに触れたことがないのですが、遠いようで近い存在でもあるのかなって思いました」

――作品には対面で人と接してい

――作品には対面で人と接している祖母と、接触を避けながら生きている孫が登場します。コロナ禍の今は接触を避けないといけない状況も多く、人との繋がりを保つのが難しいと感じることも多いですよね

「できなくなって大事だったと気づくこと。会って、話して、食事をする、そんな当たり前なことが幸せだったと誰もが感じたと思います。そんな中、試行錯誤した結果、オンラインで繋がっているわけです。オンラインはツールとしては必要ですが、直接話すこととは違う気がするんです。ライブってやはり大事ですよね。私は手紙をモチーフにしたコンサートを毎年やっていて(『剣幸kohibumi concert』)、手紙の朗読とその内容からイメージされる曲を合わせて歌っています。相手のことを考えながら、ペンや便箋を選んで手紙を書く。それはすべてラブレターだと思うんですよね。現存する戦争当時の手紙も、アナログな手紙だからこそ残っているし、愛に溢れています。これはどうしても直接お客様に伝えたい、とライブにこだわっています。今回の作品ではゲームの世界が描かれているんですが、ゲームの世界ってボーダーレスでジェンダーレスなんです。デジタルが人間として相手に接することができるツールになり、人生に対して何か得られるんだったらいいことだなと、今回の作品を通じて思うようになりました。私はアナログ人間ですが、デジタルもやり方次第で大切なものになると思うんです。結局は、どちらも扱う人の心次第なのかもしれませんね」

――物語の中で剣さん演じる阿弥

――物語の中で剣さん演じる阿弥莉は「あと一つ、それとも無し」という選択を迫られ、「あと一つ」を選びますね。ご自身でも諦めないでよかったということはありますか?

「やはり、舞台ですね。今年68歳になりましたが、ずっと続けていられますから…。実は、宝塚を卒業したら英語を勉強しに海外に住もうと思っていたんですが、実現することなく今に至ります(笑)。これまで、いろいろな選択がありました。普通科か工業高校か、大学か宝塚か、結婚か仕事か、海外移住か舞台か…。選ぶ基準は、やりたいかどうか。間違いを犯さない人はいないのだから、失敗したと思ったら方向転換すればいい。だから若い人にはいろんなことに挑戦してほしいと思います。私の年齢ですと選択肢は多くないですが『あと一つ、それとも無し』と言われたら、私ももちろん『あと一つ』を選びたいです。まだ挑戦できることに感謝をして!」

剣幸さんにとっての「ウェルビーイング」
「これが答えとして合っているかどうかはわかりませんが、私は舞台が大好きです。まわりの人を理解し、リスペクトしながらひとつの作品を創ること、仲間と一緒に、その現場に居られることが幸せです。仕事の関係で防災士の資格をとったのですが、講習ではまず自助の大切さを教えてもらうんです。自分が無事でなければ、人を助けることはできない。皆が幸せになってほしいと考えるなら、まずは自分が幸せでないといけないんだなと改めて思っています」
――昔も今も変わらない美しさを保つ秘訣を教えてください。
「美容のことは本当に疎くて、日焼け止めクリームも塗らないんです。女優として失格ですよね(笑)。唯一続けているのは、やはり舞台に立ち続けていること。今はジムにもあまり行けていませんが、家のなかでは歯磨きやドライヤーのときに片足で立ったり、つま先立ちしたりしています。無理をするよりは、続けられることをするのが一番です!」

剣幸

‘74年宝塚歌劇団に60期として入団。’85年大地真央の後を受け、月組トップスターに就任。’87年には現在も宝塚で再演を続けている『ME AND MY GIRL』の初代ビルを務める。’90年退団。卒業後も舞台を中心に活躍。今も多くのファンに支持され、宝塚の記念公演には欠かせない存在。

Musical『The Parlor』

気鋭の演出家小林香によるオリジナルミュージカル作品。三世代の女性により守り継がれてきたパーラーを舞台に〝なりたい自分を求め〟集う人々の物語。宝塚OGの美弥るりかが主演を務め、剣幸、花乃まりあが共演。音楽はアメリカを拠点に活躍するアレクサンダー・セージ・オーエンが担当。4月29日(金)~5月8日(火)東京公演(よみうり大手町ホール)5月14日(土)、15日(日)兵庫公演(兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール)

撮影/平井敬治 ヘアメーク/miura(JOUER INTERNATIONAL) スタイリング/津野真吾(imiger) 取材/よしだなお 構成/中畑有理(CLASSY.編集室) 衣装協力/CUCINA

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