1年の始まりは「ジャニーズ・アイランド」から|辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2020 vol.31
故ジャニー喜多川氏のエンターテインメントの集大成とも言われる舞台「ジャニーズ・アイランド」。今年はJr.48人が全員座長というフレッシュなメンバーで、さらに滝沢秀明副社長が初めて演出を手がけたことも話題に。過去の公演も観劇している辛酸さんに今年の「ジャニアイ」の注目ポイントを語っていただきました。
年始の重要イベントといえば「ジャニアイ」
年始の重要なイベント「ジャニーズ・アイランド」がさらにパワーアップ。一般参賀がなくなってしまったので、皇居のかわりに帝国劇場にジャニーズ参賀することで慶祝パワーを吸収したいです。
「JOHNNYS’ Island THE NEW WORLD」は総勢68人のジャニーズJr.全員が座長を務める舞台、若さが渦巻いています。今回は滝沢秀明副社長が初演出なので期待が高まります。「HiHi Jets」「美 少年」「7 MEN 侍」「Jr.SP」「少年忍者」などの気鋭のグループが出演。「1年が12カ月、それって誰が決めたの?」少年の素朴な問いかけから始まり,12カ月のその先、13カ月目を探す旅へ出るジャニーズたち。序盤の曲からそれぞれのグループが個性をアピール。「Jr.SP」はアクロバティックにバク転しまくりでした。「新しい世界、NEW WORLDを一緒に作っていこう!」という叫びに、歴史を更新していこうというJr.たちの気合いが込められているようです。
13月を探す旅は「Jr.マンション」からスタート
1月から12月まで、歌やパフォーマンスで表現するコーナーへ。1月は法被を着用したJr.48名がボックス(通称Jr.マンション)に入って和太鼓を披露していて圧巻でした。続いてシルバーの衣装の「HiHi Jets」が華麗に登場。3月は桜。「美 少年」がピンクの衣装で華やかにパフォーマンス。風船をつなげた小道具の不思議な演出も新鮮でした。
そして4月。「地球の歴史。それは 悲惨な災害の歴史と言ってもいい」というナレーションに、来た来たーという感じです。毎回重要なメッセージを放っているのが1年の中の悲劇のカレンダー。人間の業が招いた災厄や戦争が目の前で再現されることで、厳粛な気持ちになります。美青年と悲劇という組合せも涙腺を刺激。
船の模型が登場し、プロジェクションマッピングにも大きな船が投影され「タイタニックの悲劇」の演出だとわかりました。「僕たちの部屋は窓のない地下の船室……」とパーティする富裕層を羨ましそうに見つめる少年2人。その時、ドーン!という衝撃音があり、船が傾きはじめます。氷山にぶつかり、沈没していく運命に……。
特攻隊員の手紙の朗読は号泣必至!
ここで今回、新演出の新しいセットが登場しました。「SWING SHIP」という全長6mで底が曲面になっている船の模型が激しく揺れ、約10人が船上で揺れを表現するパフォーマンス。高さもあり、最大傾斜50度まで傾くそうでかなり怖そうです。アクロバティックなスキルを持つ精鋭が船に乗っていたようですが、タイタニック号の沈没の恐怖を例年以上に実感できました。
5月は硬式飛行船ヒンデンブルク号の水素爆発。ドイツ・フランクフルトからNYを目指す途中に爆発事故を起こしてしまいます。炎に包まれる演出が迫力で恐ろしかったです。そういえばタイタニックもイギリス・サウサンプトンからNYを目指していたので何か意味深です。アメリカを目指すのは容易ではないというメッセージでしょうか。
6月は悲劇の間のオアシス的なジューンブライドの表現があり、一転して7月は戦争の色が濃厚に。これまで、空襲で逃げ惑う人々だったり、出兵する兵士の演出はありましたが、今回はさらにリアリティを追求。特攻隊の手紙を朗読するという、涙なしでは見られない演出がありました。80年前の発声を学んだという「美 少年」浮所飛貴の、特攻隊員穴澤利夫氏が恋人にあてた手紙の朗読は感動的でした。「穴澤は現実の世界には、もう存在しない!!」と覚悟を込めて叫びながら、「勇気を持って,過去を忘れ,将来に新活面を見出すこと」と、恋人の将来にも思いを寄せます。「智恵子、会いたい、話したい、無性に」という本音も吐露。直後,彼は出撃し帰らぬ人に……。戦争の残酷さが胸に迫ります。「ジャニーズ・アイランド」は、戦争教育の貴重な場でもあります。「戦争なんて絶対やだ~!!」という少年の叫びが耳に残りました。ちなみに涙活プロデューサーの知人によると、人には泣きのツボが108あり、「ジャニーズ泣き」「戦争もの」も入っているので、この二つの要素が合体することで、泣かせる力が二乗になるとか。
悲劇のシーンのその後は,戦争からの復興ということで明るい舞台に転換、オリンピックのパフォーマンスが。ピクトグラムにインスパイアされた「コヨミグラム」は、「鏡餅」「鯉のぼり」「てるてる坊主」などを体で表現していて、ユルくてかわいいです。戦争シーンの緊張感が和らぎました。「9月は悲しみの月。幾度となく襲いかかる台風の被害」と、まだ油断できない感じでしたが……。
宇宙に行くと発言がシンプルかつ直球に
「地球の12月は悲しいことばっかりだね」「この先の世界に手がかりあるかな」と、Jr.たちは目の前に現れた小屋に入ってゆき、宇宙へワープします。白いスモークの中、浮いているフレームの中を歩く人がいたり手品が披露されたり,宇宙はシュールな世界でした。
しかし「僕もう何したらいいかわからないよ!!」「早く地球に戻りたい!!」「13月ってなんだよ!!」と急に我に返り、彼らの間に不穏な空気が。本音をぶつけ合い、ジャニーさんの存在の大きさについてほのめかすやりとりも。
すると唐突にUFOみたいな乗り物が現れ、未知との遭遇に感化されるJr.たち。宇宙まで行ってUFOと遭遇すると、達観した思いになるのでしょう。そういえば前澤友作さんも宇宙に行ったことで「(地球は)マジで丸いしマジで青いです」「がんばっていれば夢は叶うんだ」とシンプルなメッセージを放っていました。
この舞台でも、宇宙に行った彼らが「一人一人が人生という物語を生きている」「ここにいる全員が主役なんだ」「共に高め合うその先に新しい世界があるんだ」と口々に直球な格言を放った後、満足したのか「もう帰ろう、地球に」と帰還することに。地球でまたパフォーマンスを繰り広げます。ジャニーズJr.たちが宇宙に行ったままでなく、帰ってきてくれて本当によかった……彼らがいる惑星でよかった,と地球のありがたみ、平和の素晴らしさを実感。地球の歴史は悲劇が多くても、その合間にジャニーズの姿を見ることで癒され、不安も軽減されます。舞台が中止になってしまい残念でしたが,また生の舞台で平和の大切さ、地球愛を世の人々に伝えてほしいです。
辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」(祥伝社文庫)、「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)など。