地元以外では読めないかもしれない難読市名を各県1市ずつ選んで構成してきた「日本難読市名に挑戦」も、最終回となる「九州」編です。この「九」とは、古代に始まる行政区分である、「筑前・筑後・豊前・豊後・肥前・肥後・日向・大隅・薩摩」と呼ばれた9つの国を意味しますが、現在では、九州7県に沖縄県を加えて「九州地方」とくくります。それでは始まりです。
1.「直方市」(福岡県)
福岡県からは、「直方」です。「チョクホウ」あるいは「なおかた」「のうかた」と読んだ方はいませんか……?
正解は「のおがた」と濁ります。「のうがた」でもありません。かつて福岡藩の支藩である東蓮寺藩は、江戸時代に改名により直方藩となりました。その際、藩内「能方村」の読みを取り、中国の古典から縁起の良い「直方」の字を当てたといわれています。直方市は、福岡県の北部、筑豊平野の中央に位置し、かつては石炭産業で栄えたところです。
2.「鳥栖市」(佐賀県)
佐賀県からは「鳥栖」です。「チョウセイ」などと読めそうですが…。
正解は「とす」でした。常用漢字外である「栖」は、「セイ・サイ/す(む)・すみか」の音訓を持ちます。ですから、この市名は「鳥の栖(すみか)」という意味です。奈良時代の書物によると、当地の人々が鳥小屋を作って飼いならし、朝廷に献上したそうです。サッカーファンなら、Jリーグチームの「サガン鳥栖」を思い出したかもしれません。鳥栖市は、佐賀県の最東端に位置し、九州陸路交通の要衝地です。
3.「諫早市」(岐阜県)
長崎県からは「諫早」です。常用漢字外である「諫」は「カン・いさ(める)」という音訓を持ちます。
正解は「いさはや」でした。どちらも訓読みで読めばよかったのですね。鎌倉時代の文書に既に登場する「伊佐早(いさはや)」の地名ですが、この地の領主となった新藩主が姓を「諫早」に改名したことにより、佐賀藩諫早領になったそうです。
4.「合志市」(熊本県)
熊本県からは「合志」です。一見すると簡単そうです。「ゴウシ」でしょうか?
実は、「コウシ」が正解です。常用漢字「合」は「ゴウ・ガッ・カッ/あ(う・わす・わせる)」の音訓を持ちますので、私も「ゴウシ」だと思っていました。この手の濁る濁らないは、本当に難しい。この名は、戦国時代に存在した肥後の領主の「合志」氏に由来するそうです。合志市は、熊本県北部に位置し、南西部に隣接する熊本市のベッドタウンです。
5.「杵築市」(大分県)
大分県からは「杵築」です。「杵」は常用漢字外ですが、「餅つき」に使うあれです。県内には石仏で知られる「臼杵市」もありますが、ここは何て読むでしょうか……?
正解は「きつき」でした。この「杵」は、「ショ・きね」の音訓を持ちますが、ここでは「き」と読みます。「木村」と名付けられたこの地が、江戸幕府からの朱印状で「杵築」と誤記されたそうです。そんなことがあるのですね。杵築市は、大分県の北東部に位置し、「きものが似合う歴史的町並み」に認定された九州の小京都です。
6.「日向市」(宮崎県)
宮崎県からは「日向」です。今の時代なら「日向坂」から「ひなた」と読む人が多そうですが…。
正解は「ひゅうが」でした。実はここ「日向国」は、古くは「ひむか」とも呼ばれていたようですが、それがどうして「ひゅうが」となったのかはよくわからないとのことです。日向市は、宮崎県の北東部に位置し、日向灘(なだ)に面する、商業・工業・交通の要地です。
7.「曽於市」(鹿児島県)
鹿児島県からは「曽於」です。「曽」は常用漢字で「ソ・ソウ」の音がありますが、さて常用漢字外「於」は…。
正解は「ソオ」でした。「於」は「オ・ヨ/お(いて・ける)」の音訓を持ち、日常の生活で目にするとしたら、「於 ○○ホテル」のようなパターンで、場所を示す、あれです。市の前身「曽於郡」は古くからある地名のようですが、その由来については諸説があるようです。曽於市は、鹿児島県の東部を形成する大隅半島の北部に位置し、畜産業が盛んな地です。
8.「豊見城市」(沖縄県)
沖縄県からは「豊見城」です。ある年齢以上の方は「とみしろ」と読まれるのではないでしょうか。かつて甲子園で活躍した「豊見城高校」が、「とみしろ」でしたから。
実は、高校名は「とみしろ」ですが、市名は「とみぐすく」が正解です。「とみぐすく」は、13~15世紀に、高台に「城(ぐすく)」を築き、それを「とよみ城」と呼んだことに由来すると言われます。それが時代とともに「とよみぐすく→とみぐすく」と変化したとわけですね。
豊見城市は、沖縄本島南部に位置し、北は県庁所在地である那覇市に隣接しています。
全7回にわたる「日本難読市名に挑戦」はいかがでしたか? これまでのコンセプト通り、いわゆる「漢字クイズ」ではなく、日常生活での読み間違いを防ぐための「漢字常識」を念頭に置いて企画しました。実際のビジネスや日常会話の中で、お役立ていただければ幸いです。なお、原稿作成にあたり、取り上げた全市の公式HPを拝見しましたが、トップページに踊る「コロナ」の文字が、現在の世情を物語ります。皆様、くれぐれもご自愛くださいませ。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「難読漢字の奥義書」(草思社)
・「旅に出たくなる地図 日本」(帝国書院)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)