昨年は映画4本が公開、連ドラにも2本出演し、さまざまな顔を見せてくれた中村倫也さん。映画『ファーストラヴ』で演じたのは、動機なき殺人事件の担当弁護士、庵野迦葉。彼もまた複雑な生い立ちを抱えています。
『あの人ってこうだよね』っていう印象が固まらない俳優でいたい。
──さまざまな役を演じる中村さんには、ミステリアスでつかみどころのない印象もあります。
「若い頃は『やる気あるのか』ってよく怒られてましたね。誰よりもやる気に満ちていて、心の炎を燃やし尽くそうとしている男なのに(笑)。見た目と気持ちが一致しない感覚がよくあるというか、自分は一生懸命にやってるつもりがそうとは見られない。それがもどかしくもあったんです。特に若い頃は、見た目と声と性格と考え方が一致している俳優のほうが仕事を振りやすいはずだから。でもいつからか『しょうがねえな』と思うようになり、ぶっちゃけ、歳とともにどうでもよくなってきてますけど(笑)。10代の頃から何を考えてるかわからないって言われ続けてきましたからね。当時、付き合ってる彼女にもそう言われたってことは、もうそういう人なんだろうなと。何かとふた癖ある役ばかり来るのも、そういう人だからなんでしょうね(笑)」
──「草食そうに見えて、実は肉食っぽい」という女子の意見も。
「いろんな見られ方や印象の与え方をする仕事なので、どう思ってもらってもいいし、見る人によっていろんなふうに思ってもらえることが嬉しいです。見られ方はいっぱいあったほうが楽しいかな。役者ってそういう仕事じゃないですか」
完成作を見た時、自分の何かがちょっと許されたような気持ちになった
「登場人物はみんなハードライフですよね(苦笑)。自分自身とはもちろん違うので、どこまで役に寄り添って落とし込むか非常に繊細で難しい時間でした。自分と違う役ほど、いろんな記憶を掘り起こしながら自分の中の要素を探す作業に入るので、すごくしんどかったですよ(苦笑)」
──普段もフラットで明朗な中村さんですが、自然体な演技でどんな役を演じても〝その人〟にしか見えません。
「特に今作はスタンバイの時間もずっと緊張していましたが、役者ってそれを乗りこなす仕事。僕は緊張とか頑張ってる気負いみたいなものがスクリーンに映らないようにしたい。自分が客として観ていても『わー、気合入ってるわー』って感じるとその役も気合の入ってる人になってしまう。役の裏が見えちゃうのは自分にとって本望じゃないんです」
中村さんのいま一番やりたいことは?
「ゴルフ、陶芸、散歩。ゴルフは1年くらいやっていたんですが、最近は行けてないなと思って──。陶芸はやったことがなくて、家庭用の電気窯を買って家でやりたいなと思っています。散歩は趣味の一つで空き時間に歩いていたんですが、最近はできていないので。またヘラヘラ歩きたいなあ。」
Information
映画『ファーストラヴ』
直木賞を受賞した島本理生のベストセラーを完全映画化。父を刺殺した女子大生の事件を取材する公認心理師・真壁由紀(北川景子)は、夫の弟で弁護士の庵野迦葉(中村倫也)と共に、本当の動機を探るため面会を重ねる──。予測不能な結末とタイトルの裏に隠された濃密な人間ドラマ。他の出演/芳根京子 窪塚洋介 木村佳乃ほか 監督/堤幸彦● 2月11日(木・祝)公開
中村倫也
’86 年12 月24 日生まれ 東京都出身 血液型A 型●’05 年、俳優デビュー。’14 年『ヒストリーボーイズ』で舞台初主演、第22 回読売演劇大賞優秀男優賞受賞。’18 年NHK 連続テレビ小説『半分、青い。』に出演し人気を博す。最近の主な出演作は、ドラマ『凪のお暇』『美食探偵 明智五郎』『 この恋あたためますか』 、映画『水曜日が消えた』『人数の町』『サイレント・トーキョー』など。映画『騙し絵の牙』が公開予定。
撮影/内田紘倫(The VOICE MANAGEMENT) ヘアメーク/ Emiy スタイリング/戸倉祥仁(holy.) 取材・文/駿河良美 撮影協力/AWABEES