withコロナ時代に少しずつ活気を取り戻しつつあるエンタメ業界。『宝塚歌劇』もその影響を受けつつ、出演者とファンの熱い思いにより連日公演を続けています。この機会に宝塚デビューしたい!というCLASSY.読者の方に、ヅカファン歴20年の編集Mがその魅力を好き勝手にご紹介します。
今回は、1/19に東京国際フォーラムで千秋楽を迎えた花組公演『NICE WORK IF YOU CAN GET IT』について。例によってネタバレに配慮していないため、これから観る予定の方はご注意ください!
個性あふれる魅力的なキャラクターたち
【簡単なあらすじ】
1920年代、禁酒法時代のニューヨーク。主人公のジミーは4度目の結婚を前に、もぐり酒場で独身最後の夜を仲間と大騒ぎしながら楽しんでいた。そこで偶然、酒の密売をするギャングの一味、ビリーに出会う。一見少年のような風貌のビリーに、ジミーは興味を持つ。一方、ビリーはジミーから「絶対に使わない」別荘があることを聞き、そこへ大量の密造酒を隠すことを思いつくが、運び込んだ矢先になんとジミーが婚約者のアイリーンとハネムーンでやって来てしまい…。
【感想】
「人はいいけど女性にだらしないバツ3のボンボン」ジミーと、「酒の密売人であるボーイッシュな女の子」ビリー。この二人が偶然出会うところから物語は始まります。住む世界が全く違うジミーとビリーが、徐々に惹かれあい、まわりの人物を巻き込んでひと騒動起こす数日間が描かれるのですが、とにかくアメリカン!コメディ!ハッピー!という感じで、終始カラフルな衣装やセット、そして出演者総出の豪華なダンスナンバーとともに、声を出して笑えるようなストーリーでした。だから舞台上は熱量がすごかった!見どころは書ききれないのでキャラごとに箇条書きでご紹介します。
・主演の柚香光(ゆずかれい・95期)さんはダンスが得意なスターのため、とにかく踊る、踊る、踊る。ガーシュインの名曲に乗せ華麗なタップダンスをいたるところで披露してくれるのですが、まあ、脚捌きの軽やかで洒脱なこと。現代的な華やかさをもつ柚香さんがスーツ姿でタップを踏むと、もうそれだけで女性はみんな恋に落ちるな…という感じでした。劇中のとあるナンバーで「大西洋横断だ!」という台詞があり、なぜかわかりませんがその台詞がものすごく好きです。
・相手役の華優希(はなゆうき・100期)さん。『ポーの一族』のメリーベルや『はいからさんが通る』の花村紅緒などが代表作ですが、抜群の演技力でこれまた新境地のビリーという女の子を演じていました。華さんのお芝居は憑依型で、普段の彼女は大和撫子を絵にかいたような人なのですが、血液から入れ替えたのか?と思うくらい、その人物になりきれるのがすごいところ。そして落ち着きのある上品な歌声がとても耳に心地よく、彼女の歌うソロ曲は思わず泣いてしまいました。
・座長も務めた男役スターの瀬戸かずや(せとかずや・90期)さんは、ビリーの仕事仲間のクッキー。コメディの間の取り方は演技をするうえで特に難しい一つだと思いますが、確かな実力で、ドタバタシーンも完璧な間で登場することに、毎回感動しました。花男らしい精悍な佇まいと、力の抜けたコミカルさのバランスが素晴らしかったです。柚香さんとの男同士の台詞の応酬が個人的にツボでした。
・同じく男役スターの永久輝せあ(とわきせあ・97期)さんは、今回アイリーンという娘役(ジミーの4人目の妻&「舞台上で何をやっているのかわからない」モダンダンサー役)でしたが、めちゃくちゃ可愛かった!いわゆる恋のライバル役なのですが、超素直で面白い子のため、全然嫌いになれない。でもお風呂が長い(4時間以上入ってる)。登場するたび笑いが起こる、このご時世に免疫力を上げてくれる素晴らしい役どころでした。
・鞠花ゆめ(まりかゆめ・92期)さんのウッドフォード公爵夫人。禁酒主義婦人会の会長で、お酒の匂いに敏感。だけど飲むと実は大トラになる。編集Mがこの作品でやりたい役No.1。数々の大ナンバーを美声で熱唱してくれますが、個人的には酔っぱらいの演技が涙が出るほど最高でした。ピッチャーごと最後の一滴まで飲み干す姿が見事。怖そうに見えて、実はとっても可愛らしい女性だと思います。フィナーレでは「公爵夫人!?」と二度見してしまうようなショーガールスタイルでタップまで披露してくれるので、宝塚娘役の振り幅の広さを見せつけられます。
・音くり寿(おとくりす・100期)さんのジェニー・マルドゥーン。ジミーの友人で、1920年代のいわゆるフラッパーガール。とにかくセレブなイケメンと結婚することを夢見ています。劇中で華さんのビリーと二人で会話するシーンがあるのですが、間の取り方や台詞の強弱が毎回違って、普段のリアルなお二人を見ているかのようでした。三拍子そろった実力派の音さんですが、意外にもお芝居は「型を決めないと不安になってしまう」タイプだそうで、でも今回、その壁をひとつ越えたように感じました。ちなみに音さんと華さんは同期。ここでも同期萌えというジャンルが確立されています。セレブ妻になることだけを目指していた彼女が最後に選んだ恋には、自然と泣かされました。
他にもビリーたちの仲間であるデューク(=演・飛龍つかささん。コメディ調なのに軽くならない台詞回しが本当にお見事)、アイリーンのお父さんであり上院議員のマックス(=演・和海しょうさん。あの衝撃のラストを受け止めるられる演技の包容力がすごい)、そして専科のお二人が演じるニューヨーク市警のベリー署長や、ジミーの母親ミリセントなど、個性的な魅力あふれるキャラクターがわんさか出てきます。
主演トップコンビのお芝居が素晴らしい!
これだけ多彩なキャラクターによるドタバタの、「おもちゃ箱をひっくり返したような」ミュージカルコメディですが、煌びやかなナンバーの連続でも物語がとっ散らからずにいるのは、実は主演二人の芝居にしっかりした芯が通っているからなのでは、と思います。柚香さんと華さんが編集Mの「推しコンビ」であるというのは以前も書いたのですが、見た目の少女漫画的な美しさはもちろん、このコンビが最強なのは、とんでもない共鳴力をもったお芝居だと思います。
当初、この話は思い切り笑えるごく一般的なコメディでした。ですが回を重ねるにつれ、主演二人のお芝居が台詞の行間を埋め続け、ともすると表層的に楽しむだけで終わりそうなコメディ作品が、とても奥行きのあるヒューマンドラマに仕上がっていました。
ジミーは現実にいたら正直あまり関わりたくないタイプの男性です。でも、柚香さんのジミーには、華さんのビリーによって引き出された「誠実さ」がありました。可愛い女の子に囲まれたら嫌なこと全部忘れちゃうらしい(と、作中で歌ってます)けれど、ビリーが絡むと、そのときだけジミーは真剣になる。ビリーが色仕掛けと称してジミーの寝室にしのびこむ場面があり、恋愛経験のないビリーはそれはもう頓珍漢な色仕掛けをしますが(ちなみにそれはそれで、めちゃくちゃ可愛い)、ジミーはそんなビリーに、今まで誰にも見せたことのないような優しい笑顔を向けます。これが、柚香さんと華さんだからできることなのでは、と思いました。おそらくこういう、愛のある演技が、自然と生まれるお二人なのだろうと。
個人的に特に印象的だったのはとある二人の喧嘩シーン。公演当初は痴話喧嘩をこじらせた、くらいのものだったのが、後半期間はそのシリアスさがぐっと増し、続く二人のデュエット「Will You Remember Me?」が非常に深いものになっていました。柚香さんの、徐々に決意を抱いて、最後何かを悟ったように微笑むお芝居は、この目で見たとき私の中に衝撃をもたらしました。
柚香さんのお芝居は柔軟性があり、毎回違うので、本当に舞台上で生きている!という感じなのですが、そこに華さんがぴったりと呼応して確実な反応を返していくのが素晴らしかった。どれだけ一人で深めても、やはり呼応する相手がいなければお芝居は成り立ちません。その点、柚香さんと華さんのお芝居はわずかな変化にも寄り添い、共鳴し合っていく、もはや二人にしかできない感性の芸術でした。見せ場の一つである名曲「’S Wonderful」に乗せたタップダンスは、二人でひとつの生き物になったかのようなシンクロぶりと、全身から発される”ともに踊れることの喜び”で、まるでダンスを通じて会話しているかのようでした。あまりの多幸感に、初めて観たとき、自分でもびっくりするくらい涙がぼろぼろ出てきたのを覚えています。これほどの雰囲気を醸し出せるトップコンビは、そうそう現れないと思いました。
ですが残念なことに、先日、華さんが退団することが発表されました。最後に、少しだけそのことについて書こうと思います。
華優希さん退団によせて
世界中の「かわいい」を集めて人にしたような娘役さんでした。宝塚の「清く正しく美しく」を地でいく、まだ若い娘役スターさんでありながら、どこかクラシカルな魅力も持った方でした。宝塚は男役さんをご贔屓にすることが多い編集Mですが、時おり、一挙一動全てが大好きな娘役さんに出会うことがあります。華優希さんもそのお一人でした。
その華さんが、7/4をもって宝塚を退団すると発表されました。前日に柚香さんのトップお披露目公演『はいからさんが通る』を大盛況で終え、私は完全に花組の明るい未来を信じ、夢見心地でした。あの日のショックは忘れることがないと思います。
『はいからさんが通る』の紅緒さんも、『ポーの一族』のメリーベルも、華優希さんという稀有な娘役さんがいたからこそ成り立つ役だったと思います。ぴったりな役を当てられたから、ではなく、華さんの場合、どの役も自分にぴったりのものにさせてしまう。冒頭でも言いましたが、本当に体の中からなにかを入れ換えたのではないかと思うような変貌ぶりに、毎回驚かされました。もっともっと、色んな役に生まれ変わる華さんが観たかった。そしてそれを、柚香さんとのお芝居で観たかった。
宝塚の男役と娘役が描く世界は基本的に嘘の世界です。でも華さんと柚香さんは、そこに一つの真実を生み出せるお二人でした。どうか今回の公演のあの熱狂が、華さんの心に届いていますように。柚香さんとの、ほかの誰にも替えがたい儚く美しい並びを、最後のその日まで堪能できますように。「れいはな」コンビの素晴らしさを、永遠に忘れないでいようと思います。
以上、ヅカオタ編集Mによる、花組公演の感想でした。この公演は2/2から大阪の梅田芸術劇場でも上演されます。そしてなんと、2/6にはネット配信&映画館でのライブビューイングも行われることが決定しました!チケットの取り方や公演日程は、ぜひ宝塚歌劇団公式サイトをチェックしてみてくださいね。
そもそも宝塚歌劇団とは?
花、月、雪、星、宙(そら)組と、専科から成る女性だけによる歌劇団。男性役を演じる「男役」と女性役を演じる「娘役」がおり、各組のトップスターが毎公演の主役を務める。兵庫県宝塚市と千代田区有楽町にそれぞれ劇場があるほか、小劇場や地方都市の劇場でも年に数回公演をおこなう。
公式サイト:https://kageki.hankyu.co.jp/
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