連続ドラマの原作となった小説『サバイバル・ウエディング』の著者が、婚活してみたら…。Over40こじらせ男子の奮闘記をお届けします。
婚前契約について聞いてきました
ひとり暮らし歴22年、「ひとり焼き肉」「ひとりたこ焼きパーティー」「ひとり温泉」をこなすだけでなく、「(架空の彼女を呼び出し)結構な音量のひとり言」という婚活末期症状まで発症した僕。「ひとり」で完結するライフスタイルのため、家に自分以外の誰かがいて、生活を変える、ということが難しくなってきました…。というわけで、婚活方針を「僕のひとりライフを受け入れてくれる包容力のある人を探す」に決定した僕は、弁護士事務所に行ってきました!事前に、「ひとりライフの保障」を、憲法の基本的人権のように保障してもらえるよう契約しておきたいんですね。流されやすいタイプなので、「別居する」とか「ディズニーランドへ一緒に行かない」など事前に決めておいて、それがなし崩し的に一般的な結婚生活にならないようにしたのです。今回、お伺いしたのは、アリシア銀座法律事務所で代表弁護士を務める竹森現紗(ありさ)先生です。さっそく自分で作ってきた契約書の草案を竹森先生に見せます。
■婚前契約書案(甲=僕、乙=相手)
一、乙は甲の発する独り言を無視すること
二、乙は甲の髪の生え際、あるいは甲が行っている生え際の維持に対し口を出さない
三、乙は甲に対し週2回以上の面会を求めない
四、乙は甲に対し「前髪切ったほうがいい?」と聞かないこと
五、乙は甲に対し「いま何を考えてるの?」と聞かない。何も考えてないので。
…など32条
「こういう契約を結びたいんですけど…」
「…」
「これを婚活の時点で見せたらヤバい人ですかね…」
「でしょうね。…ただ、試みとしては、理解できる部分もあります」
さすが若くして銀座に事務所をかまえる弁護士さんです。否定するのではなく、懇親丁寧に婚前契約について教えてくれました。
通常、法律事務所で扱う「婚前契約」は、「婚姻中に稼いだ資産はどちらのものにするのか」「婚姻費用の分担をどうするか」「離婚するときの財産分与はどうするのか」など夫婦の財産について事前に契約を結んでおくもので、「夫婦財産契約」と呼ばれており、経営者の方などが利用することが多いそうです。 一方、「別居したい」「子育てや家事の分担」「家は買うか」「子供の教育」「親の介護」など、結婚後のライフスタイルについては、契約書を結んでも法的な効力は微妙なところで、「契約書に書いたのに別居してくれないじゃないか!離婚だ」と言っても、認められる可能性は低いそうです…。それでも、結婚する前によく話し合って、契約書のような形式的なものでなくても、書面に残しておくことはおすすめだそうです(ちなみに竹森さんも、婚前契約をされたとのこと)。というのも、弁護士さんですから離婚するときに揉める夫婦を何人も見てきたといいます。
「大体の夫婦って、あまり結婚後の生活について話し合わずに、好きになって結婚するじゃないですか。暮らしてみて『あれ、思ってたのと違った』みたいなことになるんです。だから結婚する前に、そういう現実的なことを詰めていくっていうのは、長い時間、夫婦生活を進めていくうえで必要なことだと思います」
紙に書いたことが全て法的に有効になるわけではありませんが、少なくとも結婚の前提としてこういう合意があったということについての証拠にはなります。また、形に残しておくことで、見返してみてお互い約束を守ろうと思えることもあるでしょうし、結婚する前に腹を割って話して、お互いで決めたことを紙におこしておくことは、それなりに効果があるのではとのことでした。
「ただ、先ほどのような条件は出会った段階では見せないほうがいいですね」
「そうなんですか?」
「最初はどうしても譲れないものだけに絞って、結婚が見えてきた段階で、他の条件について話すのが、良いのではないでしょうか…」
「そうですか、では、ペットボトルに突然話しかける行為はスルーしてもらうことを条件にしようと思います」
「…」返答に窮する竹森先生。
弁護士事務所の前に、病院に行くべきでした。
この記事を書いたのは「大橋弘祐」
『文庫版 サバイバル・ウエディング』文響社¥680
大橋弘祐(おおはしこうすけ)
作家、編集者。 立教大学理学部卒業後、大手通信会社を経て現職に転身。初小説『サバイバル・ウェディング』が連続ドラマ化。
『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』はシリーズ40万部を超えるベストセラーに。
撮影/小田駿一