「タイムマシンがあったらどこに行く?」という質問に出くわせば即答で平安を望み、出会った女性を勝手に源氏物語の登場人物にこっそりキャラハメして暗記しているほど、平安愛&源氏物語愛が深い筆者にとって外せない映画が公開されます。11月6日公開『十二単衣を着た悪魔』は、これまで幾多の源氏物語関連のエンタメが映像化されてきましたが、特にフォーカスされるのは弘徽殿女御(こきでんのにょうご)だというから注目なのです。正直、意外ですが興味深い人選です。
なぜなら、弘徽殿女御といえば悪女、意地悪女の代名詞。私の知っている弘徽殿女御といえば、帝のいる清涼殿へ桐壷更衣が会いに行けなくなるように、廊下を歩けなくするために糞尿を撒いた女。源氏物語を読み始めて早い段階で“糞尿でいじめる”というパワーワードなシチュエーションに出くわした時のあの衝撃が忘れられません…。そして、のちにあの光源氏を出産する桐壺更衣は、弘徽殿女御からの数々のいじめによって最終的には病みがちとなり、亡くなると言われているのです。その、弘徽殿女御がメインキャラ。どんな物語か気になりませんか?
正直なところ、どんな話かドギマギしておりましたが…面白かったです。無数の名作を生みだしてきた内館牧子氏の原作によるもので“弘徽殿女御”のキャラクターのヒントとなったのは映画『プラダを着た悪魔』(06)のメリル・ストリープが演じたファッション誌の某編集長だとか。『源氏物語』のヒールキャラが実際は、息子を帝にすべく切磋琢磨していたキャリアウーマンだったのでは?という斬新な見立てで生まれたこの作品。強くてたくましい弘徽殿女御が、現代からタイムスリップしてきたネガティブ男子を徐々に変えていくという物語となっています。今回は、弘徽殿女御から学ぶ後輩から慕われる“デキる女の特徴”を映画から紐解いていきましょう。
まずは『十二単衣を着た悪魔』のあらすじをチェック!
?10秒でわかる 映画『十二単衣を着た悪魔』の簡単なあらすじ
●就職59連敗中のフリーター男児、タイムスリップする。
●源氏物語の世界で皇妃・弘徽殿女御の陰陽師として仕える。
●分析力に長けた強い女性・弘徽殿女御の生き様に影響を受けていく。
後輩から慕われる!憧れの的になれる!デキる女の特徴
その1:パワフルな女性であること
人生に対して受け身ではなく能動的でパワフル。自分でチーム(息子を帝にするため)を引っ張る覚悟を決めた女性は周りを巻き込む力を持っています。また嫉妬や不条理な出来事さえも生きるエネルギーに変換できるタイプの女性は、人の心を打ち、敬われる傾向が強いです。
その2:未来を見極めるための努力をしていること
未来のことを考えている女性は、つねに今何をするべきかを逆算しているものです。今この瞬間としっかり向き合い、分析して、未来につながるように生きようとする。そんな向上心を持ち合わせているはいつの時代も周りから慕われます。
その3:人にすぐ頼らないこと
誰でも構わず人に頼るのではなく、相談相手を決めていたり、話を聞いてもらう相手を決めていることは大事です。また「誰にも相談しない」ではなく、相談相手がいるという事実に潜む、知的な人懐っこさも人を逆に引き寄せます。映画でも弘徽殿女御は相談は陰陽師のみに意見を聞くことで解決を探ろうとしています。
その4:物事を俯瞰的に見られること
大人の女性の能力として、もっとも重要なもののひとつとも言えます。辛い状況でも騒ぎ立てるのではなく、冷静に起きている状況を把握できる女性はできる女として慕われます。「可愛い女にはバカでもなれる。怖い女には、能力が必要」と自分を冷静に俯瞰して眺めることができる弘徽殿女御のセリフは一貫して冷静でハッとさせられます。
最後に作品の見所を、映画ソムリエのライターがさらに熱く解説!
高貴な人しか出てこない。にもかかわらず(だからこそ?)エグみがあってドロドロしている印象を持たれがちな源氏物語ですが、本作は、ありきたりな弘徽殿女御イメージを壊し、強い女の生きざまに触れて、時代を超越したたくましさをお裾分けしてもらえるような映画となっています。監督である黒木瞳さんの作品愛を感じました。三吉彩花さん演じる弘徽殿女御からは性的な色気ではなく、知性さでコーティングされた人間的色気が溢れています。
深々とお辞儀をし、相手を上目遣いで見つめる姿勢ですら、あざとくならずに、意思を持った視線に変換されていて、姿勢や声のトーンなども参考になります。男性に軽く見られがちな女性にも参考にしてほしいです。ブリっ子やあざとさが流行を迎えたこの時代に、誰かに媚びることではなく、力強くたくましく生きる女性の姿は不思議と心をニュートラルな状態に戻してくれます。“あざといは正義”という風潮から解放されたかった自分に気付き、もう媚びなくて良いのだと、ひと安心です。
最後になりますが、源氏物語にとどまらず「悪役」と認識されてきた他の名作に登場するキャラクターだって、今回の弘徽殿女御のように、もしかしたら生まれてくる時代が早すぎたのではと思うと、これまで出会ってきた文学や映画の見方が広がって面白い。源氏物語キャラを身近に感じる、野心的で広い意味で可能性を感じる映画に没入する時間でした。
『十二単衣を着た悪魔』
11月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて公開
(C)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー
制作・配給:キノフィルムズ
この記事を執筆したのは
東 紗友美(ひがし さゆみ)
’86年、東京都生まれ。映画ソムリエ。元広告代理店勤務。日経新聞電子版他連載多数。映画コラムの執筆他、テレビやラジオに出演。また不定期でTSUTAYAのコーナー展開。映画関連イベントにゲスト登壇するなど多岐に活躍。
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