連続ドラマの原作となった小説『サバイバル・ウエディング』の著者が、婚活してみたら…。Over40こじらせ男子の奮闘記をお届けします。
ていねいな暮らしハラスメント
前回、「原宿の母」と呼ばれる占い師さんの元へ行き、僕の婚活の運勢を占星術で占ってもらいました。原宿の母いわく、僕に合う女性は、地味だけどさりげなくセンスが光り、水回りがきれいで、和テイストの食器を愛用しているそうです。今思えば、息子の嫁を選ぶような、ま さに「母」の目線でした。
さて、そんな女性のタイプを聞いて思い出すのは、以前、お付き合いさせていただいたBさんという女性です。何を隠そう、Bさんは「ていねいな暮らし」の有段者だったのです。(これから僕は、こんな女性はイヤだ的なことを書いていくのですが、読者のみなさまは「お前にそんなことを言う権利があるのか」と思うかもしれません。しかしながら、CLASSY.の「残念なオトコ図鑑」では、ピザをピッツアと呼ぶ男がイヤだとか書いておりますので、男側の言い分も聞いていただきたいと思います)まず、Bさんはよく料理を作ってくれるのですが、主食が白いご飯じゃなくて玄米なんですね。背筋を伸ばして、それを咀嚼し「大地の味がする。太陽に感謝しよう」と、感謝を強制してきます。
食後にはお茶を出してくれるんですけど、湯飲みが骨董の茶器で「部屋の温度とか、その日の気分でお茶の味って変わるんだよね」と千利休みたいなことを言い出します。あと、Bさんはベビーリーフを水耕栽培で育ててるんですが、発芽させるのが大変で、何度もやり直してるんですよ。やっと、育ったやつが茶色くて、「お前が食べろ」と毒見をさせられます。すごいパサパサしてますし、ベビーリーフなんて、あんまり味もしませんから、労力と成果が全くあっていません。
さらに、風呂上がりには、表面がでこぼこになっている、筒状のヨガのグッズを床に置き、胸の横にゴリゴリあてるんですよ。「これいいから絶対やって!リンパの流れがよくなる」とその器具も強制されます。ですが、僕の場合はBさんと違って、アバラが出てるので、僕がやるとめちゃくちゃ痛いんですよ。すごく赤くなって、1週間くらい後遺症が残りました。その他にも「それは化学物質が入っていてよくない」とか「この素材は森林を破壊してるの」と、環境にやさしいことを言うのですが、僕には厳しいんですね。食べてはいけないものがたくさんありました。
逆にいいこともあって、その子のおかげで、深夜にちょっと「散歩してくるわ」と、外に脱走して、セブンイレブンでこっそり買って食べるアメリカンドッグがうますぎるんです。そして、環境のことを言うわりには食器やラグにこだわっているので、ネットで買い物をしまくっていて、アマゾンの段ボールが大量に送られてくるんですね。
それで、その「ていねいな暮らし」をひけらかすべくブログに一生懸命なんですよ。おばあちゃんから譲り受けたミシンの写真をアップして「いまだに現役です♡」とか、Bさんが作った料理を僕が食べて、(しかたなく)「おいしいね」と言ったら「彼も喜んでました☆」とか、そのアピールいる!?ってことを書いています。(しかもそのブログはアフィリエイトだらけでした…)ファッションはボーダーとか麻袋のようなワンピースを着がちで、下着もギンガムチェックとかで色気を感じないのです。「暮らし」の対義語は「興奮」なのかもしれません。
さて、占いに行って、Bさんのことを思い出し、その勢いでここまで書いてみましたが、いまなにやってんだろうと気になってきました…。きっと、ヨガインストラクターとか名乗ってサーフボードの上での謎のポーズでもやって、こじらせているんだろう。そんな悪い気持ちで、SNSを覗いてみました。
そしたら、アップされていたのは子供の写真でした。普通に結婚して、時短料理とかも食べさせて、「ふつうの暮らし」をがんばっているようでした…。Bさんは流行を卒業していたのです。
一方、僕はそのSNSを猿田彦珈琲で、ステッカーを貼ったiPadプロで見ていて、今度のバスケで履く限定モノの赤いスニーカーを海外から取り寄せようとしていたんですね…。こじらせていたのは僕でした。僕の婚活は続きます…。
この記事を書いたのは「大橋弘祐」
『文庫版 サバイバル・ウエディング』文響社¥680
大橋弘祐(おおはしこうすけ)
作家、編集者。 立教大学理学部卒業後、大手通信会社を経て現職に転身。初小説『サバイバル・ウェディング』が連続ドラマ化。
『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』はシリーズ40万部を超えるベストセラーに。
撮影/小田駿一