少しずつエンタメ業界も活気を取り戻しつつある今日この頃。『宝塚歌劇』もその影響を受けつつ、先日とうとう公演が再開されました。この機会に宝塚デビューしたい!というCLASSY.読者の方に、ヅカファン歴20年の編集Mがその魅力を好き勝手にご紹介します。
今回のテーマは「アラサー女性のお手本!?娘役キャラクター」。カッコいい男役に注目が集まりがちな宝塚ですが、娘役キャラクターだからこそ同性目線で深く考えさせられる3人をご紹介します。
なれるものならなりたい強くたくましい娘役キャラクター3選
①逆格差恋愛を貫くマリー・アントワネットとオランプ(『1789 -バスティーユの恋人たち-』 2015年・月組)
最初から二人選ぶという裏技。ですが「逆格差恋愛」を語るうえで、この二人の女性は欠かせないのではと思います。男性より女性の方が収入や学歴が上、もしくは同等という「尊敬婚」が数年前に話題になりましたが、宝塚でも「女性の方が男性より地位が高い」恋愛はいろいろと描かれています。その中でも記憶に新しい『1789 -バスティーユの恋人たち-』のマリー・アントワネットと、その侍女オランプ・デュ・ピュジェについてピックアップ。
【簡単なあらすじ紹介】
1789年初頭。官憲に理不尽に父親を銃殺された青年ロナンはパリに出て、デムーラン、ロベスピエールたち革命家と知り合い、新しい時代の到来に希望を託して行く。一方ヴェルサイユ宮殿では、ルイ16世や王妃マリー・アントワネットが、華美な生活を続けていた。病弱な王太子の養育係オランプは、フェルゼンとの密会のために王妃とお忍びで街に赴き、そこで対立する立場のロナンと出会う。ロナンは革命に身を投じ、遂に7月14日、バスティーユ襲撃に参加するが…。
【見習いたいポイント】
「結婚していたら好き勝手な恋愛は無理だけど、独身女性なら誰が相手でも”好き”を貫く」という対照的な恋愛を体現しているのがこの二人。共通しているのは、「自分より社会的地位が低い男性」を好きになることです。アントワネットはかの有名なフェルゼン伯爵、オランプはこの作品の主人公ロナンを好きになります。結果的にアントワネットはフランス王妃という立場からフェルゼンを諦めますが、オランプはまだ独身ということもあり、革命の混乱に乗じてロナンのもとへ行きます。一見、当たり前な行動にも思えますが、21世紀の現代でもなんだかんだ「男性の収入や学歴は女性と同等、もしくはそれ以上であってほしい」という考えは確実に存在します(結婚相談所によっては、高収入の女性はあえて収入を書かないこともあるのだそう)。「最近気になる人ができたけど、私より収入が少ないことが気になる…」という人は、オランプの生き方を見習ってみるのも手。残念ながらオランプの恋は最終的に報われません。でも彼女なら、この先も強く生きて幸せを掴めるだろう、と思わせてくれます。我慢して諦めて、それを引きずるよりも、思い切って飛び込んでみるのもアリかもしれません。
【好きなフレーズ】
アントワネット…「世界一幸せな王女のはずだった 政略結婚の犠牲にはなりたくない」(『全てを賭けて』より)
オランプ…「身分じゃない。思いが違うの」
②嫁姑問題の勝者エリザベート(『エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-』1996年・雪組ほか)
いつの時代も嫁姑問題は存在する、というのをよく表しているのが宝塚の人気作『エリザベート』。美貌の皇妃と謳われたエリザベート(通称シシィ)は、夫のオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフに見初められて結婚しますが、自由を愛するシシィはしきたりを重んじる姑のゾフィと真っ向から衝突します。そして自分から好きになって求婚してきたくせに、いざというときは「ママのいうことが君の助けになる」など言ってくる夫。文字で打ってるだけでも腹がたってきますが、これまた現代社会でも大いにあり得そうな状況だと思います。
【簡単なあらすじ紹介】
オーストリー=ハンガリー帝国皇妃エリザベートが暗殺されてから100年後の裁判所。自殺した犯人、ルイジ・ルキーニの霊への尋問がされている。暗殺の理由について、ルキーニは「エリザベートは死と恋仲だった、彼女自身が死を望んでいたからだ」と主張。それを証明するためエリザベートと同時代に生きた人々を霊廟から呼び起こし、彼らはエリザベートのことを語り始め、最後に黄泉の帝王トートが現れる。時はシシィが16歳の1853年に遡り…。
【見習いたいポイント】
16歳でわけもわからず結婚したシシィは、自由を失ったことを知り一度は自ら命を絶とうとします。ですがそこで思いとどまり、「私が命ゆだねるそれは私だけに」と結婚翌朝に決意。その後も姑とモメるたび、夫の皇帝に訴えては「ママの言うとおりにしよう」と言われてブチ切れ、とうとう「自分の美貌を武器にすれば夫を操れるかもしれない」というダークサイドへ突入していきます。「私を外国へ一緒に連れて行きたかったら取り上げられた娘を返して!(当時子育ては皇妃の役割ではありませんでした)」と主張して養育権を取り戻したりと、そこから徐々にシシィの形勢は優位になります。ついには公務で疲れ切って癒しを求めに寝室へ来た皇帝を、「私かママか選ばなければ離婚する!」と言って追い返します。そして見事、姑に勝利。美人だから許される案件な気もしますが、たまには強気に出てみるのも、意外と事態が好転するきっかけになるのではと思わせてくれます。
【好きなフレーズ】
「もし代われるなら代わってもいいのよ 私の孤独に耐えられるなら」(『魂の自由』より)
③敵を味方に変える女経営者ピスタッシュ(『 CAN-CAN』1992年・月組)
私が観たことのある宝塚のヒロインで最も好きなヒロイン。それがCAN-CAN(カンカン)のピスタッシュです。演じた風花舞さんはダンサーとして下級生のころから大注目されていた娘役さんでしたが、この役はその実力をいかんなく発揮し、伝説となりました。残念ながら生の舞台は観劇できなかったのですが、実家でVHSビデオを擦り切れるほど見た作品です。
【簡単なあらすじ紹介】
舞台は19世紀末のパリ。女主人ピスタッシュが経営するモンマルトルのダンスホール「バル・ドゥ・パラディ」は、法律で禁じられている”カンカン”を売り物に繁盛していた。彼女の後援者・美術評論家のヴィクトールの協力で、警察や検察たちを買収していたのだ。そこへ若くて真面目なフォレスティエ判事が赴任してくる。彼はダンスホールに自ら乗り込み、ピスタッシュと対峙するが、お互いを敵と知りながら二人は惹かれあってしまう。しかし法に忠実な判事は、カンカンを始めたピスタッシュを逮捕。後日留置場でフォレスティエは、逮捕は自分の本意ではないとピスタッシュに詫びるが、そこへ保釈許可書を持ったヴィクトールが現れ、二人は去っていく。やがて判事は、ヴィクトールが仕掛けた罠により、警察に追われる身となるが…。
【見習いたいポイント】
ピスタッシュを見ていて感心するのはその「愛され力」。後援者のヴィクトールや敵対するフォレスティエ判事からも愛される彼女は、いわば天性のモテ子です。でもピスタッシュの素行は決して良いものではありません。初めて見たときに「こんな宝塚娘役アリなの!?」と思うくらい、彼女は自由奔放でエネルギッシュです。ざっと思いつく限りでも
・男役スターたちに対し「バカ」というフレーズを何度も歌い上げるソロがある
・ヒロインなのに逮捕されて拘留所にいく
・スカートをたくしあげて机を蹴っ飛ばす
などなど。普通の女性ならドン引きされる案件です。当時、演じた風花さんは「娘役の私がこんなに強い役でいいのだろうか」と不安だった、と後にお話しされたとか。それに対し相手役の男役トップスター・久世星佳さんが「私がいいと思ってるからいいんだ」と背中を押したというのが、ヅカオタ的胸キュンポイントなのですが、その話はさておき、やはりピスタッシュという女性は宝塚娘役の中でも革新的な人物だと思います。でもそれが宝塚の枠から出ず、二人の男性から愛されることに納得なのは、風花さんの可愛さによるもの。
と書くと、なんだやっぱり顔か、という話になりそうですが、その可愛さは外見によるものだけではないと思います。見方を変えればピスタッシュは誰よりも素直。裏表がないので、わかりやすくもある。アラサーともなると色々な処世術を覚えてなかなか素直になれない人も増えてくると思うのですが、そこがピスタッシュは大きく異なります。素行の悪さも、あそこまでいくと逆にすっきりするし、なんだか応援したくなってしまう。男性陣も、そういう彼女だからこそ、最終的に彼女と彼女の店を守ってあげたくなったのかもしれません。誰にも媚びずに周囲を上手に味方につける能力は、会社でだんだん責任ある立場になってくるアラサー女性にとって、あると便利なスキルではないでしょうか。
風花さんのこの舞台は伝説、と言いましたが、その後一度も再演されていません。あのピスタッシュを演じられる娘役さんがそうそう存在しないからかもしれません(個人的には愛希れいかさんにやってもらいたかったけど…)。いつかあの回転技を生の舞台で観たい。編集Mの密かな夢です。
【好きなフレーズ】
「おだまりシベリア人!」
以上、ヅカオタ編集Mによる、令和のアラサー女性のお手本!?娘役キャラクター3選でした。なるべく最近の作品から選ぼうと思いつつ、どうしてもピスタッシュは外したくなかったので、今回は少し過去の作品にも触れてみました。「生の舞台が観たい!」という方へ、チケットの取り方や公演日程は、ぜひ宝塚歌劇団公式サイトをチェックしてみてくださいね。
そもそも宝塚歌劇団とは?
花、月、雪、星、宙(そら)組と、専科から成る女性だけによる歌劇団。男性役を演じる「男役」と女性役を演じる「娘役」がおり、各組のトップスターが毎公演の主役を務める。兵庫県宝塚市と千代田区有楽町にそれぞれ劇場があるほか、小劇場や地方都市の劇場でも年に数回公演をおこなう。
公式サイト:https://kageki.hankyu.co.jp/
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