今回は、常用漢字のちょっと難しめの訓読みを紹介します。常用漢字の中には、表内に示された読み以外の読み(表外読み)を持つ漢字があります。特に、訓読みは、漢字が中国語として持っている意味をもともとの日本語で表現した「翻訳」ですから、漢字の本来持つ意味に合った何通りかの読みを持つものが少なくありません。ちなみに、このタイプの問題は、漢字検定では「準1級」レベルでの出題です。
1.「肖る」
最初は「肖る」です。常用漢字の「肖」は「ショウ」の音読みだけが示され、「肖像画」などの熟語でおなじみです。では、表外読みとなる訓読みはどうなるでしょう。例文は「彼女の幸運に肖りたい。さて、何と読むでしょうか?
正解は「肖(あやか)る」でした。意味は「幸せを念じて幸せな人と同じことをする」ことです。
ところで、この「肖る」ですが、実は同じ送りがな「る」で、別の読み方があります。それは、「肖(かたど)る」と「肖(に)る」です。「肖(かたど)る」は、「ある物の形を写し取る」こと。熟語「肖像」はこの意味です。「肖(に)る」は、「似る」に同じ。ですから、熟語「不肖」は、「(父や師匠に)似ず、愚かである」ことです。このように、見た目はみな同じですから、使われている文脈に合わせて読み分けます。
2.「罷る」
次は「罷る」です。常用漢字表の「罷」は、「ヒ」の音読みだけが示されます。「罷免(ヒメン)」という熟語を耳にしたことがあるはずです。「公職をやめさせること」ですね。では、表外読みとなる訓読みはどうでしょう。例文を提示します。「不正が罷り通る世の中だ」。さて、何と読むでしょうか?
正解は「罷(まか)る」でした。「罷(まか)る」とは、本来は「高貴な人の前から退出する」という古語ですが、現代では、「罷り通る」「罷り間違う」「罷りならぬ」のように用いられ、次に来る動詞の意味を強める働きがあります。ですから、例文の「罷り通る」なら、「堂々と通る(通用する)」という意味になります。
3.「熟れる」
最後は「熟れる」です。これは「熟(う)れる」でしょう、と思った人が多いことだと思います。もちろん、「熟(う)れる」と読めます。ただし、これが常用漢字表内にある「表内読み」です。今回は、常用漢字内にない「表外読み」を紹介します。例文は「長年の修業で芸が熟れてきた」。先ほどの「熟(う)れる」ではちょっと意味が合いません。さて、何と読むでしょうか?
正解は「熟(こな)れる」でした。本来は、「食べた物が消化される」という意味ですが、例文のように「技芸などが熟達して、よい趣(おもむき)が出る」という意味に使います。ちなみに、「熟」は「熟(う)れる」「熟(こな)れる」以外に、これも「表外読み」で、「熟(な)れる」という読みがあります。「熟れ鮨(なれずし)」のように、「食物が発酵して、ちょうどよい味になる」という場合には、この読み方になります
。
いかがでしたか?本来、常用漢字表にない読み方は、「表外読み」と呼ばれ、目にする機会もそう多くはないのですが、漢字そのものが持つ意味を理解することで、違った読み方が身につきます。そうなることで、日本語の豊かな使い手となれるような気がしませんか?では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「語彙力がどんどん身につく語源ノート」(青春出版社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)
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